ひとり密室
ザァァァァァァ
雨音で目を覚ますと、部室には誰もいなくなっていた。練習後、俺は電車の時間がみんなと合わないので、時間まで部室のベンチで横になってスマホゲームに興じていた。そうしているうちに、練習の疲れからか、寝てしまったらしい。
ベンチの横に落としてしまったスマホを拾うと、乗るつもりだった電車の発車時刻ちょうど。寝過ごしてしまったらしい。
「雨降ってんのか?」
予報にはなかった。にわか雨だろうか。雨音が大きいので、相当な量降っているのだろう、外の様子を確認するべく、ドアノブに手をかけた。
しかし、扉はびくともしない。部室は木造で古く、これまた木製のドアの建付けが悪くてもなんら不思議ではなかったが、さっき友人たちを見送った時にあんなにスムーズに開閉していたドアが急に頑として開かなくなるのは、どう考えても不自然であった。
内鍵は開いている。
外に出るにはドアを押す。ならば、外で人が押さえているか、何か物が置かれていれば、開かないということにも納得がいく。こうなっている状況には納得はいかないが…
「おい!誰かいるのか!何してる!!開けろ!!!」
声を荒げて、外に呼びかけるが返事はおろか、そもそも人の気配が無い。その上、物が置いてあるにしろ、押さえているにしろ、ドアを押せばそれなりの手ごたえを感じるはずだ。それがない。本当にドアはビクともしないのだ。
密 室
彼の頭にその二文字が浮かぶ。そして、「誰がなんのために?」という疑問もよぎった。部屋から出ようにも窓もない。誰かに助けを求めるしかない。
手にしたスマホで、彼女に電話をする。
「もしもし?」
「あぁ有紗…部室から出られないんだよ、助けてくれ」
「どういうこと?」
自分にもわからないがとにかく部室に来てもらうことになった。電車で帰れない俺に対し、有紗の家は学校から徒歩15分ぐらい。とにかく、誰かがいないことには始まらない。
何度開けようと思ってもビクともしなかったドア。諦めてさっきまで横になっていたベンチに腰かけ、ドアを見つめていた。しばらくすると、雨音は弱くなり、止まった。雨が上がったのだろう。
電話を終えてから20分ほど経った。彼女を待っていると、
ガチャ…
ドアが・・・
開いた?
きょとんとした顔の有紗が顔をのぞかせる。
「え?出られないって?」
「なんで開くんだよ!さっきまで開かなかったのに。ホントだって!」
慌てて外に出ると、なんの変哲もないいつもの部室の外の風景が広がり、ドアの前には、どけなきゃいけない物なんて何もなかった。ただ、地面を抉り、水が流れた後が、ドアの前まで伸びていた。
水が流れる小さな小さな水路の元を辿って歩いてみると、明日グラウンドを全面使うというサッカー部のために動かした打撃練習用のネットに行き着いた。ふとみるとそのネットが雨水の逃げ道をふさぎ、側溝へ流れ込むのを妨げていた。
「なんだ!そういうことか…」
いつもなら、側溝に流れ込むはずの雨水は、偶然、いつもはそこに無いはずの練習用ネットに妨害され、部室のほうへ流れ込んでいた。
木製のドアは、水を吸って膨張し、ドアの枠を圧迫していたから開かなかったのだ。そのタイミングで運悪く、出ようとした俺が開けようとし開かなかった。有紗へ連絡した後、雨が止むと、少しずつドアが水を吐き出して、収縮し、ドアは簡単に開いたというわけだ。
木は水を吸って膨張する。みんなの家のふすまや、木製のドアの立て付けがある季節にだけ立て付けが悪くなるのは、もしかしたら湿気のせいかもしれません。
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