
お試し期間はこっちが試してやる期間だにゃ。
動物保護団体から迎えたハチワレのメス猫と、キジトラのオス猫。最初はへっぴり腰で家のなかをうろうろしていたけれど、わたしがごはん(その晩はよりによって、海鮮丼だった)を食べる段になると、ちゃぶ台を覗き込みながら、ちょいちょいしてきたり、そのうちちゃぶ台に乗っかって海鮮に手を出してきたり。食事が終わって、わたしがソファでくつろぐ頃には、いっしょに上がり込んでくつろぎだした。
慣れるのが早すぎて、笑ってしまった。
ぺとっとくっついて、寝ている猫たち。なでてあげると、お腹を出してごろごろのどを鳴らしている。
幸せかも〜と思ったその時、気が付いた。うんちの臭いがする!
用意しておいたトイレを見に行くも、用を足した様子はない。
まさか、猫たちに悪臭がしみついているのだろうか。保護団体では、そんなに不潔にされているのだろうか。眉間にしわを寄せながら、猫たちをくんくんしても、臭わない。
おかしい……。
臭いの元は、どこだ! とわたしがうろうろすると、猫たちもうろうろ。
もしかして、と寝室へ向かうと、なんとなく、臭いが強くなってきた。
がーん。子どものころ飼っていた猫は、クローゼットでおしっこすることがあった。こいつらも、まさか、クローゼットで!と思い、扉を開けようとしたら、ハチワレがベッドに飛び乗るではありませんか。そして、わたしの顔を見ながら、砂をかけるようなそぶりを見せるではありませんか。
熱心に動かしているハチワレの前脚あたりを見ると、わたしが脱いだまま放っておいたコムデギャルソンのパンツの上、ちょうどベルトのあたりに、ゆるいうんちが。
「そっか、そっか、ここでうんちしちゃったんだね」
怒っても仕方がない。
わたしはハチワレを抱きかかえ、「トイレはここだよ」と用意しておいたトイレに連れて行き、寝室に戻った。
すぐにハチワレもついてきて、またベッドに飛び乗るから、あわててパンツと羽毛ぶとんを丸めて、ゴミ袋に入れた。ここがトイレだと思われたらかなわん。
窓を全開にして、しばらくソファで放心。ハチワレは、何事もなかったように隣で毛づくろい。
くんくんくんくん、空気と猫を嗅いだ。もううんちの臭いはしない。
「そろそろ寝よっか」
猫たちに声をかけ、よいしょと立ち上がると、それが合図のように猫たちも寝室に向かった。仕舞ったばかりの夏用の上掛けを引っ張り出して寝る。
しばらくすると、とん、とん、とベッドに体重の乗る気配がした。ひとのからだの上もおかまいなしに、居心地のいい場所を探している。軽いけれど、みぞおちなどに入ると、うぐっ、となる。いつのまにか、キジトラは足のあいだに、ハチワレは枕元におちついた。
ひとり寝が続いていたから、シングルベッドに自分以外の体重が乗ることに慣れない。寝返りも打ちづらいし、眠れない。
ふと横を向いたら、ハチワレと目があった。
「うんちはトイレでね。信じてるからね」
と声をかけた。
「はっ、何のことですか。好きなようにしますけど」
と答えた気がした。
こうして猫たちに試されるトライアル初日の夜は更けたのだが、わたしにはトイレ問題のほかにも、気がかりなことがあった。その話はまた今度。
わが家に来た夜の猫たち。