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おばあちゃんのこと:3.おばあちゃんと家電
大正14年生まれのおばあちゃんは新しもの好きだった。
わがやの電話が黒いダイヤル式だったとき、祖母宅の電話はプッシュ回線だった。テレビのチャンネルをがちゃがちゃ回していたころ、リモコンで変えていたし、VHSテープに録画したツイン・ピークスを最終話まで見終わる前に、DVDプレーヤーに変わっていた。
祖母はいつも「壊れた」と言って、家電を買い換えた。エアコン、冷蔵庫、掃除機、洗濯機、テレビ、祖母の家電はよく壊れた。そのたび壊れた扱いされた家電はわがやにやってきた。
祖母は最新機種を買っては、目新しい機能をうれしそうに試した。自動製氷機能付き冷蔵庫、乾燥機能付きドラム式洗濯機、ウォシュレット、全自動給湯の24時間風呂なども、いち早く取り入れた。
ある日、わたしがひとりで暮らす家にテレビがないと知った祖母は、「テレビくらい買ってよ、お願い」と言って、お金をくれた。
「テレビより掃除機買いたい。いや畳だから掃除機より箒のほうが使いやすいかも」と話すと、「箒なんて、ほこりはたつし、掃除機のほうがうんと便利だよ」と言った。
祖母にとっては、新しいもののほうがいいに決まっていた。洗濯板で洗濯物を洗っていた時代に育った人間だからこその、価値観だったのかもしれない。そんな祖母をわたしは「いまはそういう時代じゃないんだよ」と諭した。
電気は使わないほうがいいし、壊れたらプラスチックゴミと化す家電より、土に還る箒のほうがいい。
「エコだよ、エコ」
「エコでも何でもいいけれど、掃除しなさいよ」
とロボット掃除機を買ってよこした。そして
「いっぺん使ってさ、見せてよ」
と言った。
仕方がないから、動画を撮って祖母宅へ行き、一緒に見た。
「あら、かわいいじゃない」
と祖母。
「そうなの。うっかり話しかけちゃう。けなげだよ。しかもさ、わたしが箒で掃いたり掃除機かけたりするのと違って、ルンバは疲れない。いつまででも掃除してくれる」
「そりゃ、きれいになっていいねぇ」
と祖母は言った。
「ほれ見たことか、便利でしょう」
とは言わなかった。
祖母の興味関心は、家電に限らなかった。電子辞書、携帯ゲーム機なども発売されるやいなや買い求め、すぐに遊んだ。
携帯電話ももちろん使っていた。お年寄り用じゃないやつだ。80歳を過ぎても写メを送ってきたし、90歳を過ぎてもスマホに変えたいとしつこかった。
「手がぶるぶるしてるし、指先が乾燥してるから、タッチパネルが反応しないよ」
と言うと、その場ではあきらめるのだが、たびたび同じ話を蒸し返した。
祖母がえらかったのは、携帯電話にしても、何にしても、一発で使い方を覚えたことだ。わたしや弟の早口の不親切な使い方解説で、ぱっと飲み込み、同じ質問は繰り返さない。
「だって、何度も同じこと聞いたら、面倒くさいって思われるでしょう?」
と祖母は言った。
わたしはちっとも新しもの好きじゃない。なんとかペイとか、モバイルなんとかとか、何のことだか、ちっともわからない。聞いたら教えてくれる孫どころか、子どももいない。このままでは時代に取り残され、そのうち買い物さえできなくなるんじゃないかと危惧している。
おばあちゃんの新しもの好きが、ほんの少しでも遺伝していたらいいのだけれど。
新しもの好きは、好奇心が旺盛なだけでなく、なんでもおもしろがる精神のなせる技じゃないかと思う。祖母のおもしろがりは、生活全般に及んでいて、中でも料理は最たるものだったのだが、その話は、また今度。