構造化だけじゃない -TEACCHは自閉症の人たちへの生涯の支援-
「発達障害研究」という日本発達障害学会が発行している学会誌があります。その2023年11月号(第45巻第3号)の特集は「発達障害児者支援における専門的指導技法の適用と課題」でした。子どもたちの発達を支援する放課後等デイサービスとしては、今後専門的指導をより充実させていく上で、とても参考になる特集です。掲載論文は次のようなものです。
応用行動分析学に基づいた専門的指導技法の適用例について(竹内康二)
TEACCH Autism Programの適用と課題(諏訪利明)
発達障害者に対する認知行動療法 自閉スペクトラム症をもつ子どもの不安に対する認知行動療法の適用と課題(木原陽子・石川信一)
運動発達の多様性を前提とした支援のあり方とその理論的背景(村上祐介)
知的障害のある人への心理支援の障壁とアクセシビリティ(下山真衣)
作業療法(岩永竜一郎)
特別支援教育とICT活用、AAC導入の現状と課題(坂井聡)
発達障害に対するペアレント・トレーニングの地域実装と課題(井上雅彦・山口穂奈美)
ビジョントレーニングの発達障害児者への活用(奥村智人)
今回は、川崎医療福祉大学の諏訪利明先生執筆の論文「TEACCH Autism Programの適用と課題」を紹介したいと思います。
TEACCHの4つのキーワード
ご存じのが多いと思いますが、TEACCHプログラムは、自閉症の人たちの「学習スタイル」を理解し、それに基づいた支援を提供することを目指すプログラムです。このプログラムは、自閉症の人たちの生涯にわたる支援を提供するために、診断から個別の教育プログラムの立案、セラピーセッション、トレーニングセミナーまでの一連のサービスを含んでいます。TEACCHの核となる哲学には、
ユニークな学習スタイル
家族との協働
全人的視点
構造化
という4つのキーワードがあります。これらは、自閉症の人々が社会で公正なスタートを切れるように支援し、彼らと周囲の人々との橋渡しをするための技術です。
TEACCHの誤解
しかし、TEACCHの哲学が十分に理解されずに、「構造化」という方法論のみが切り離されて適用されることで、日本でのTEACCH実践は誤解を受け、時に批判されることがありました。適切な対応方法が確立されていない中で導入されたこのプログラムは、その革新的なアプローチから一時期「魔法の方法」と見なされましたが、その後はその本質から離れた単なる技法として見られがちになりました。この論文では、TEACCHの考え方を再評価し、それを現場で効果的に適用するための具体的な運用と課題について検討しています。
実例
実際の事例として、重度の知的障害と自閉症を持つ26歳のKさんのケースが紹介されています。Kさんの生活は、「支援付きの自立」として、家族と社会支援サービスの連携によって支えられています。TEACCHの考え方は、Kさんの家族にとって、障害理解と教育継続のための重要な手段となっており、それに基づいた教育技法がKさんの発達に肯定的な影響を与えています。
まとめ
以上のように、TEACCHプログラムは、「診断・評価」、「構造化を特徴とした療育プログラム」、「家族・支援者サポート」、「就労支援」など多面的なサービスを、自閉症をもつ人たちの人生を通して行われるものです。しかし、日本では手段としての「構造化」のみがある意味注目され一人歩きしてしまった経緯があるようです。
確かに、放課後等デイサービスのなかには、「うちの療育方針はTEACCHの考え方です」というような感じてうたってはいるものの、行っていることは支援の手段としての「構造化」のみという事業所も多く見られます。TEACCH本来の、自閉症児の障害にわたる幅広い支援にも目を向ける必要があります。
さらに、TEACCHプログラムは自閉症児にとってはエビデンスのある考え方ですが、放課後デイを利用するすべての子どもたちに適しているかといえばそういうことではありません。当社の放課後デイは、引き続き、TEACCHプログラムも重要な引き出しの一つとして取り入れつつ、多様な専門的視点や適切なアセスメントから一人ひとりに合った発達支援とその方法を実践して参りたいと思います。
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