収益性分析③|特別損益・税金計算、イレギュラーケースに対応してますか?
はじめに
前回は収益性分析を深掘りする際の分析パターンをいくつかご紹介しました。今回は、損益計算書上の営業外損益以下の項目に目を向けます。
損益計算書上の分析は営業利益までで、それ以下はざっと目を通すだけの方も多いでしょうが、株主に帰属する利益はボトムライン(当期純利益、又は親会社株主に帰属する当期純利益)です。資本効率の指標として最重要視されるROEもボトムラインを元に算出されます。思わぬところで足元をすくわれないように、特に気を付けるべき特別損失と法人税等に関して何点かポイントをご紹介します。テクニカルな論点が多いですがお付き合い下さい。
なお、未読の方は事業理解①|兎にも角にも、まず有価証券報告書の「事業の内容」の項を読もう|長谷川 翔平/フリーアナリスト|noteからの閲覧をオススメします。
特別損失と言いつつ毎期定期的に計上されるものもある
特別損益は基本的に一過性の性質が強い項目が計上されるため業績予想に際しては「0」と見做すことが多いですが、多店舗展開企業に関しては償却終了前店舗の統廃合に伴う減損損失が継続的に発生する可能性に注意が必要です。
例えば、スポーツ用品小売最大手のゼビオホールディングス(8281)であれば、税引前利益の概ね3割程度の特別損失が毎期発生しており、将来見通しについても一定の考慮が必要であると推察できます。
【ゼビオHDの税引前利益と特別損失の推移】
「標準的な実効税率は30%」と見做してはいけない場合がある
現行の税制度では多くの上場企業の法人税率が約30%であるため、特別損益影響を除くボトムラインの値やNOPAT(税引後営業利益)を算出する際、一律に実効税率30%と見做すケースがあるかと思いますが、①留保金課税の適用対象企業(特定株主の保有率が50%超)でないか、②外形標準課税の非適用企業(資本金1億円未満の中小企業)でないか、の2点は確認するようにしましょう。
①の場合は実効税率が概ね36~40%程度、②の場合は34%前後となり、株主に帰属する利益が継続的に税引前利益×70%の値から乖離するためです。この判別には、有価証券報告書の(税効果会計関係)「法定実効税率」と税効果会計適用後の法人税等の負担率との間に重要な差異があるときの、当該差異の原因となった主要な項目別の内訳」の項を確認しましょう。
例えば、24時間型マシンジム最大手のFast Fitness Japan(7092)は①に該当するため、以下図の通り留保金課税が計上され実効税率(税効果会計適用後の法人税等の負担率)が30.6%を大きく上回っております。
【Fast Fitness Japanの実行税率】
なお、①であれば特定株主の保有率が50%未満となること、②であれば資本金1億円以上の大企業となることで基準となる税率が変わる点にも留意が必要です。
例えば、中古マンション買取再販大手のスター・マイカ・ホールディングス(2975)は、21/11期に資本金が1億円を超過したため、法定実効税率が34.6%→30.6%に低下しております(ここでは詳細割愛しますが、代わりに外形標準課税が販管費に計上されはじめている点に留意が必要です。租税公課の金額が不連続に拡大します)。
【スター・マイカ・HDの実効税率】
一過性の実効税率増減に気を付けよう
上でお示ししたほか、法人税等は一時的に法定実効税率から大きく乖離するケースもあります。頻出するケースは、①繰越欠損金の利用による税負担軽減、②多額の損金不算入項目(減損損失やのれんの一部ケース等)の計上による税務上所得と会計上の税引前利益との乖離発生、です。必要に応じて税率を標準化した修正値を参照するなどの対応が必要です。
例えば、フリーランスプラットフォーム大手のランサーズ(4484)は過年度の赤字で繰越欠損金が蓄積されているため、黒字化した21/3期は法定実効税率未満の法人税支払いに留まっております。
【ランサーズの実効税率】
②についても1つ例をお示しします。電子書籍配信サービス大手のビーグリーは、損金不算入ののれん償却費が発生しているため実効税率が法廷実効税率30.6%を上回っております。
会計上の税引前利益水準が少額なほど損金不算入金額を足しこんだ税務上所得から算出される法人税等金額が会計上の税引前利益に占める割合が高まる点(要は、税引前利益が増益するほど表面上の実効税率が低下していく)や、のれん償却費の場合は償却期間終了まで半継続的に実効税率が法定実効税率と乖離する(逆に言えば、永続的ではないのでDCF上のターミナルバリュー算定時に調整が必要である)点に留意が必要です。
【ビーグリーの実効税率】
おわりに
以上、損益計算書上の営業外損益以下で特に気を付けるべき項目をいくつかご紹介しました。テクニカルな内容が多く理解しにくい部分もあるでしょうが、EPSやROEに直接的に影響する事項ですので頑張って理解しましょう。次回は損益計算書でなく貸借対照表(バランスシート)の着眼点や分析手法についてご紹介します。