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目が点 8月24日
半年、もしくは一年に一度、東京からin-kyoに
いらして下さるお客様。その方が朝一でご来店。
リネンニットの洋服をご試着されて、和やかに
接客していたそのときだった。
表の通りをたまーに見かけるおじいさんが歩いていた。
するとそのおじいさんはin-kyoの花壇の前で
立ち止まり、何かをし始めた。
接客をしつつ、気になってそのおじいさんを注視すると
なんとウチの花壇のユーカリの枝をポキポキ
いや、バキバキと折っているではないか!
最初は何をやっているのかさっぱり理解ができず、
目が点になった。
ユーカリの枝が欲しくてやっているとは
到底思えない折り方だったからだ。
「えっ?えっ?」
ご試着のお客様がフィッティングに入られたタイミングで
表に出ておじいさんに声をかけた。
「あのう、すみません!」 一度目は無視された。
おじいさんは私に気づいているのか、いないのか、
引き続きユーカリの枝を折っている。
「あのう!!」
普段、あまり大きな声を出すことはない。
怒るという感情が沸くことも少ない。
二度目も無視だ。
三度目?四度目?でやっとそのおじいさんが一言が
「通りに邪魔だ」と、私の顔も見ずにそう言い放った。
「へっ?あっ、ごめんなさい!」
邪魔だと言われたので謝った。確かにユーカリは
のびのびと育っているけれど、歩道を邪魔しないように
これまでマメに剪定をして気をつけてきたつもりだ。
百歩譲ってそうだとしても、お店も営業しているのだし、
「邪魔だからもう少し切ってくれ」とひと言声をかけてくれたら
それで済むことなのに。
おじいさんが手に握っていた、折られたユーカリの枝を引き取って
「すみませんでした」と一応謝った。
表でそんな出来事があったなど知らずに着替えを済ませた
お客様は「なんだかいい香りがするけれど何の香り?」と。
おそらくフィッティングの奥にある、
朝活けたばかりのユーカリの香りだ。
その言葉に救われた。
こうして喜んで下さる方もいれば、香りも自然の緑も要らぬ、
迷惑だと思う人もいる。
交わらないことは仕方がないことなのか。
すり合わせる、歩み寄る余地はないのか。
腹が立つとかそういうことも通り越して
ただただ悲しかった。
折られたユーカリだって無残でかわいそうだ。
通り越したと思っていたものの、やっぱり腹を立てていた。
案外、私はしつこいぞ。
閉店後、古傷がうずくように悔しさがこみ上げてきた。
こうなったら!と、小さなのこぎりや枝切り鋏を使って
いつも以上にスッキリと枝を剪定した。
無下におられた枝先もきれいに整えた。どうだ!
これでも次にあのおじいさんが
枝を折るようなことがあったらそのときは…。
でも応戦はしない。
枝を折られたこと自体ももちろん悲しかったのだが、
言葉を交わすこと、対話がなされなかったこと、
私とは話をする気はさらさら無いといった様子だったのが
一番の悲しみの原因だ。
と、まぁこんな日もあるよね。
風通しが良くなった花壇のユーカリは、
そんなことなど、どこ吹く風とでもいうように、
さわさわとしなやかに枝をそよがせていた。