【劇評318】前川知大の新作 『無駄な抵抗』は、私たちのあらがいようのない生を照らし出す。
半年前から、この駅前広場のある駅に、電車が止まらなくなった。理由はわからない。ただ、踏切の警告がときおり鳴り響くだけで、電車はなにもなかったかのように、この駅を通過していく。
さびれた広場には、大道芸人のダン(浜田信也)がいる。彼の藝は、どうやら、「なにもしない」ことのようだ。
歯科医の山鳥芽衣(池谷のぶえ)は、この広場で、カウンセラーの二階堂桜(松雪泰子)と待ちあわせている。かつてふたりは、小学校の同級生だったが、まったく別の道を歩いてきたとわかる。
『無駄な抵抗』(前川知大作・演出)の出だしは、実に魅力的な設定だ。しかも、謎に満ちている。かつて桜が芽衣にいった予言めいたひと言が、芽衣の人生を大きく揺るがした。劇は、静かに、この伏せられた過去が次第に明らかになる過程を追っていく。
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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。