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【劇評362】桟敷童子の秀作『荒野に咲け』は、人間の暗部から目をそらさない。

 まっすぐな芝居である。
 筋を通して、二十五年の間、劇団を存続させるのは容易ではない。劇団桟敷童子の新作『荒野に咲け』(サジキドウジ作 東憲司演出 塵芥美術)は、客演を迎えず、劇団員だけの公演とした。実にすがすがしい舞台である。

ものがたりと配役



 篠塚早苗(大手忍)は、公衆電話から親族に助けを求める電話をかける。ホームレスとなって失踪していた早苗は、心身ともに病んでいた。彼女を受け入れた古橋家の人々、店主の達郎(原口健太郎)と妻の澄恵(川原洋子)、長女の恵子(増田薫)、息子の耕一(吉田知生)は、早苗を暖かく迎えようと務める。

 古橋家の家業は、弁当屋。かつては手広くレストランを経営していたが、今は、こじんまりと従業員四人ととともに奮闘している。徳井秋彦(柴田林太郎)、丹波幸子(山本あさみ)、中村和馬(前澤亮)、常松駿介(藤澤壮嗣)らは、古橋家とともに疑似家族を作っている。そこに早苗という異物が入ってきたことで関係に乱れが起きる。

 劇は、早苗が育った篠塚家に起こった事件がフラッシュバックする。今はゴミ屋敷にひとり住む孝子(板垣桃子)、夫の平(三村晃弘)、息子の学(加村啓)の一家には、生涯背負っていかなければならない事件があった。

 孝子を救い出そうとする稲森勝代(もりちえ)、夫の静雄(稲葉能敬)、前妻の子彩音(井上莉沙)、静雄の母(鈴木めぐみ)の家も静雄が職を失うなど問題をかかえている。

撮影 長田勇 サムネールも


家族と生きる


 あえて関係の概略をしるしたのは、この作品が、三家族を描いているからだ。松尾家に育った澄恵、孝子、勝代が、結婚とともに新しい家族を持ち、いかに生きているかが全体の主題となる。そこには、九州のさびれた炭鉱町で、幸福に生きていくことの難しさが横たわっている。
 懸命には働き、家族や周囲に優しく振る舞おうとしても、そのことすら容易ではない。地域経済の衰弱に押しつぶされようとしている人間の群像劇でもある。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。