マガジンのカバー画像

天下無双、漢、海老蔵

12
市川海老蔵が、不当な非難を受けていることを、残念に思います。役者は舞台がすべてです。海老蔵について書いた劇評を集めました。野性、暴力性、破天荒が評価されてきた海老蔵に、市民社会の…
年末に團十郎襲名を控えていると噂される海老蔵を応援するマガジンです。
¥980
運営しているクリエイター

#歌舞伎

【劇評307】古典を着実にアップデイトさせる團十郎の構想力。

古典をいかに現代に向けてアップデイトするか。  團十郎は、歌舞伎座七月大歌舞伎の夜の部で、この永遠の課題にまっすぐに取り組んでいる。猿翁が三代目猿之助時代に提唱した「3S」が、すぐに思い浮かぶ。  猿翁は、STORY(物語)とSPEED(速度)とSPECTACLE(視覚性)を、歌舞伎が生き残るための必須条件と考えていた。  古典は、見巧者や歌舞伎通のためにあるのではない。初心者が無条件で楽しめるための工夫を、團十郎もまた心がけている。  まずは、『神明恵和合取組 め組の

¥300

【劇評284】技藝を追求する團十郎の弁慶。『勧進帳』で幸四郎と猿之助が襲名を盛り上げる。

気力体力が充実したところに、未来を見据えた技藝が宿る。  さて、『勧進帳』である。  新・團十郎の弁慶、幸四郎の富樫、猿之助の義経。意外なことにこの顔合わせは、はじめてである。

¥300

【劇評259】海老蔵の復活。歌舞伎座で炸裂する『暫』の大きさ。

 六月歌舞伎座は三年ぶりの團菊祭。三部制を取っているために、大顔合わせは限定されるが、第二部は、菊五郎、海老蔵、菊之助が出演して令和歌舞伎の水準を示す舞台となった。  まずは海老蔵による『暫』。團十郎家成田屋は、荒事の家だけに、海老蔵はなにより舞台で大きくあることを大切にしてきた。七ヶ月ぶりの歌舞伎座で気力体力ともに充実し、客席を圧する。  江戸の顔見世には、なくてはならなかった演目であり、柿色の素襖、車鬢と呼ばれる鬘、白い奉書紙がぴんと張った対の力紙、すべての要素が「力

¥300

新マガジン「天下無双 漢 海老蔵」を立ち上げるにあたって

新しいマガジンを立ち上げる。紹介のために、以下のような文章を書いた。 市川海老蔵が、不当な非難を受けていることを、残念に思います。役者は舞台がすべてです。海老蔵について書いた劇評を集めました。野性、暴力性、破天荒が評価されてきた海老蔵に、市民社会の陳腐な常識を押しつけても、私は意味がないと思います。スキャンダルは、歌舞伎役者の勲章です。  海老蔵についてスキャンダルめいた報道がなされている。  私はワイドショーや週刊誌を見る習慣はないので、詳細を知らない。けれども、扇情的

【劇評233】海老蔵の「北山櫻」。超特急なれど、実質あり。

 海老蔵の行方が気になっている。  團十郎襲名が、コロナウィルスの脅威によって延期になり、まだ予定も発表になっていない。歌舞伎座出演から遠ざかって、二年。海老蔵が第三部に用意したのは、『通し狂言雷神不動北山櫻』である。  筋書によれば、昭和四十二年一月、二代目松緑による復活では、五時間二十一分。平成八年一月、十二代目團十郎による通しでも、五時間一分。現行にもっとも近い平成二十一年一月の海老蔵による短縮版でも三時間四十二分だから、三部制を取っての公演には、大胆なカットが必要に

¥300

【劇評201】海老蔵一年ぶりの演舞場公演。『毛抜』で家の藝を大らかに勤める。

 昨年の春、三か月の團十郎襲名興行が予定されていた。  演劇界のだれもが今回のコロナ渦では、甚大な影響を受けているが、襲名が延期になってしまった海老蔵の心中を思うと実に切ないものがある。二○二○年のオリンピックに出場予定だったアスリートと海老蔵は、運命を狂わされたといっても過言ではない。さぞ無念だろう。  昨年一月に同じ新橋演舞場で座頭を勤めた『新春歌舞伎公演』から一年。東京での公演は久し振りで、どのような狂言建てになるか期待された。  これまでの座頭公演で取り上げてきた

¥300

團十郎襲名記者会見の不思議

 海老蔵の十三代目團十郎襲名についての記者会見が行われた。  いくつか驚いたことを書き留めておく。  海老蔵が、十四代目を名乗るにあたって、市川團十郎白猿という名前にこだわっているとわかったこと。  白猿は、團十郎の雅号であり、歌舞伎の名跡と俳名を同時に名乗ることになるのではないか。菊五郎家でいえば、尾上菊五郎梅幸と名乗るのと同じ理屈になる。  また、今回の記者発表では、「團十郎白猿」と「新之助」が勤める狂言だけが発表されたこと。  つまり、『勧進帳』や『助六由縁江戸桜

¥300