奇想の漫画家panpanyaの魅力とおすすめ24話【全作解説】
何度読んでも面白い本には、そう出会えません。初見の新鮮さ、二回目の熟読、時間を開けて読み直したときの再発見。私にとって、そんな魅力を持つ作家の1人が「panpanya」さんという漫画家です。
コアなファンが多いながらも、特徴的な絵柄と言語化が難しいストーリーの数々。今回、その全175話の作品を読み直し、その魅力と、中でもおすすめの24話を紹介します。
(『商店街のあゆみ』の発売にあわせて更新しました:2023.12.27)
コアなファンが多い作品
この漫画家と出会ったのは、青山ブックセンター。残念ながら、どこにでも置いてある本ではありません。
バーグハンバーグバーグ創業者のシモダさんやGUILDの深津さんは、こんな風に紹介しています。
panpanya作品の7つの魅力
①フリーハンドで描かれた味のある絵
精密に描かれた背景とデフォルメされた人物像のギャップは、ある種絵画的。そしてトーンをほぼ使われていないので、独特の絵柄が表現されています。書き込みの量が半端ないので腱鞘炎になってそう。
(引用:『二匹目の金魚』「担いだ縁起」)
②郷愁誘うノスタルジックな世界観
多くの作品が、よくある地方の街を舞台に描かれています。
(引用:『二匹目の金魚』「メロディ」)
読みながら「あ…こんな公園あったな…」「こんな道通ったことある」「こんな遊びしてたな」と子どものころを思い出します。
③デフォルメされているが個性豊かなキャラクター
キャラクターは、手塚漫画のスターシステムが取られており、同じキャラクターが何度も登場します。
主な登場人物は、おかっぱ頭の少女・友人の少女・犬(もしくは犬が頭の人間)・イルカ(もしくはイルカが頭の人間)・レモンの端を切ったような奇妙な頭部の人、の5人(匹?)。
(引用:『動物たち』「ついてない日の過ごし方」)
書き込まれた背景と対照的に、キャラクターは極端なほどデフォルメされています。話は違っても、共通する性格やキャラ特性があり、読めば読むほど、読み応えが出てきます。新しい作品を読んだ後、古い作品を読み直すと、発見があり、何度でも読める面白さがここに。
④ちょっとずらしたアイデア・視点の宝庫
多くの作品が、日常に地続きの「謎」「違和感」が種になって、膨らんでいきます。それは言ってみれば、日常に地続きの、共感を得られやすいアイデアや視点の宝庫でもあります。
(引用:『二匹目の金魚』「海の閉じ方」)
・訳なし物件(訳もなく安い物件)
・海閉じ(海開きの逆)
・新物館(日々新しく生まれ変わる世界の姿を展示した博物館)
なんてことない出来事を逆にしてみたり普通にしたり、するだけで、こんなにユニークな話が生まれると思うと、世の中にはアイデアが溢れている。
⑤謎の食べ物がやたら美味しそう
この記事を書く上で、全作品を読み返してみて、食べ物が多く出てくることに気が付きました。そして、それが想像つかない味で、やたら美味しそう。好奇心をそそります。
(引用:『グヤバノ・ホリデー』「グヤバノ・ホリデー」)
・グヤバノ(マンゴーに似たフィリピンの謎の果実)
・明鍋(初心者向けの明るい闇鍋)
・ニューフィッシュ(プランクトンで作られた煮凝りに似た完全食)
⑥荒唐無稽だけどなぜか説得力のあるストーリー
・逃げられてしまった金魚の代わりを探しに行ったら、縁日の屋台が祭りのない日に営業している場所「屋台の巣」を訪れることになった
・いつもぬるい自動販売機を自由研究で観察していたら、実は動物が動かしている自動販売機だった
・パイナップルがどう実っているかを探すうちに「パイナップル男」という謎の人物に出会う
(引用:『蟹に誘われて』「パイナップルをご存知ない」)
荒唐無稽だけど説得力のある展開。「ありそー」と何度も納得させられてしまうストーリーテリングの妙。想像力を養うにもぴったりだと思いますので、お子さんをお持ちのお父さんお母さんは、ぜひ買ってあげてください。
⑦タイトル・装丁が新しくてユニーク
青山ブックセンターで手に取ったきっかけは、その変わったタイトルと装丁、そして意味ありげな帯コピーでした。
『二匹目の金魚』『動物たち』『蟹に誘われて』『グヤバノ・ホリデー』『枕魚』『足摺り水族館』『おむすびの転がる町』
漫画というより画集に近い雰囲気で、どことなく水木しげる作品に通じる怪しさやおどろおどろしい魅力があります。タイトルを見ただけで読みたくなりました。
おすすめの24話のあらすじと感想を紹介!
panpanya作品はショートショート形式がほとんど。1冊の本に、複数の短編でまとめられています。そんなpanpanya作品の10作から、おすすめの話のあらすじと感想を24本紹介します。
『商店街のあゆみ』からのおすすめ
(帯コピー)お店がつづくよ、どこまでも。
「正しいおにぎりの開け方」
身近のものを知らない角度から徹底解説されると、役立つというよりは可笑しさが出てきて良いですね。この話を読んでから、普通におにぎりを開けられなくなりました。まだ上手く剥けたことはありませんが。
「商店街のあゆみ」
商店街、好きなんですよね。似ているけど、同じ商店街はない。この話のようにいろんなところに動いていく商店街があったら出会ってみたいなーと思いました。
『模型の町』からのおすすめ
(帯コピー)よく見ればそんなに似てない。でもそれは確かにあなたの家。
「登校の達人」
いつも学校にはギリギリで登校していました。一度でいいから、こんな風にたっぷり時間を使って、登校を楽しんでみたかったなと、昔のことを思い出します。登校前の立ち食いそば、たまらないでしょうね。
「模型の町」
たしかに、言われてみると、隣の家、普段よく通る道、でも「どんな家だったか?」を思い出せませんね。どんな家だったかを当てるゲーム、地味だけど楽しそう。近所の人と、やってみたいです。
『魚社会』からのおすすめ
(帯コピー)ともに手を取り歩むなら、「AI」よりも「魚」でしょ。
「はるかな旅」
こんなふうに電柱が使われていたら、面白い。こんな気持ちで街を見上げたことがない。すぐ隣の日常にファンタジーさを見出すpanpanya先生の魅力が感じられる1話です。最後のコマの締め方がなんとも言えない風情があります。
「続々続々・カステラ風蒸しケーキ物語」
なんと5話にわたって繰り広げられた「カステラ風蒸しケーキ物語」の最終回です。大量生産されているはずの製品と人との繋がりが生まれていく様子は少し滑稽ですが、こだわりが他人に伝わったときの嬉しさはなんとも感慨深いものですよね。
『おむすびの転がる町』からのおすすめ
(帯コピー)犯人は重力。主犯・重力とその犯行を幇助する者たちの物語。
「筑波山観光不案内」
実際の筑波山の名所を紹介しつつも、奇怪な生き物が登場してきます。虚実ないまぜになった世界観に引き込まれて、読んでいるだけで、ファンタジーの世界に小旅行した気分に。
「坩堝」
「実際にありそうだなあ」と感じる店。「価値」について、ゆるく思いを馳せることのできる作品です。新しいビジネスアイデアにも繋がりそうなユニークな視点。
『足摺り水族館』からのおすすめ
(帯コピー)見捨てられたもの 忘れられたもの 新しすぎたもの
「完全商店街」
「何かを探しているうちに得体の知れない場所にたどり着く」というのはpanpanya作品のテンプレ。「どこかにありそう」という怪しげな雰囲気は異国を旅しているような気持ちになります。
「新しい世界」
「新しい風景」「新しい鳥」「新しい人々」「新しいひらがな」など、新しいものが次々と登場します。「新しいとは?」を考えさせられます。新しいひらがなを作るワークショップはやってみたい!
『枕魚』からのおすすめ
(帯コピー)どこかで見た どこにもない風景。
「地下行脚」
シャッターだらけの怪しい新宿地下街を案内する、すっとぼけた顔のイルカのシュールさ。水木しげる作品に通じる、異世界感のあるトーンに引き込まれます。
4:「ニューフィッシュ」
冒険譚でもあり、プロジェクトX的なドキュメンタリー作品でもあります。この話、何度読んでもニューフィッシュ鍋を食べてみたくなります。アジ先輩の入ったセブンプレミアム弁当も旨そう。
「枕魚」
マクラウオという架空の魚を追い求めるレポ漫画です。ジモコロとかに載ってそうだなと思いました。貴族や大名も愛用したマクラウオ使ってみたい、と寝るたびに思い返す話です。
『動物たち』からのおすすめ
(帯コピー)「動く物」という漠然とした呼称。それでも彼らは生きていく。
「ついてない日の過ごし方」
panpanya作品は「散歩譚」が多いのも特徴です。なんでもない普通の日がちょっとした視点でスリリングに過ごすのも、休日の魅力的な過ごし方。
「引っ越し先さがし」
引っ越しの日の小さな寂しさ。毎日通った道の穴ぼこの些細な思い出。「引っ越し」テーマの数ページの話のうちの1つ。確かに「訳アリ物件」も怖いけど、ここで出てくるような「訳なし物件」も怖いよなと思います。
「狢」
童話であるような動物恩返しの話。panpanya作品の食べ物で食べてみたくなるトップ3のどんぐりパンが登場します。狢の可愛さ、どんぐりパンの魅力よ…。ちょっと切ない終わり方ですが「恩返しがなべて喜ばしいものであるとは限らない。しかし喜ばしくない恩返しがみな嬉しくないというわけでもないのである」は名言。
『蟹に誘われて』からのおすすめ
(帯コピー)いずれが幻なのか この世か、あの世か、
「innovation」
荒唐無稽だけど、不思議と納得させられるショートショート。工場の機械・働くひとびと・流れるココナッツに妙な迫力があり、なんとなく暇つぶしに読んでしまう話の第1位。
「方彷の呆」
水木しげるテイストの話で、個人的にかなり好きです。知らぬ町を探索する恐怖。「バス停などない」という貼り紙は、実際見たら、かなりぎょっとすると思います。
「THE PERFECT SUNDAY」
旅行は、準備が一番楽しい。そんなワクワク感を楽しめる話。そして休みが終わったときの絶望感。ちょうど年末年始にぜひ読んでみてほしい話ですう。散歩の下見も楽しそう。目的なく、ぶらぶらするのが本当の散歩だなと思います。
『二匹目の金魚』からのおすすめ
(帯コピー)「取り返しのつかない事」を、取り返しに行きました。
「メロディ」
夕方になると聞こえてくる、あの懐かしい音楽。その裏側には、本当にこんなことあるかもな…と思わせるpanpanya作品の真骨頂、郷愁と仄かなミステリーを味わえる話。
「かくれんぼの心得」
かくれんぼへの造詣を深く感じられる話。子ども時代の思い出+戦略的発想を学べます。いま自分だったらどう隠れるか?を色々想像すると楽しくなります。素探し(かくれんぼの素振り)はちょっとやりたい。
「二匹目の金魚」
これもまた「なにかを探すうちに奇妙な場所にたどり着く」panpanya作品のテンプレ話。「祭りのない日の屋台はどうしているのか?」という小さな疑問に、こういうきっかけで、色々妄想するのはアイデア出しの訓練にもなります。「ありそう」と思わせる設定と世界観が面白い。
『グヤバノ・ホリデー』からのおすすめ
(帯コピー)「あるはずだ」と信じたそれは、ありました。有り難いことです。
「いんちき日記術」
町を想像で描こうとすると、普段自覚していたより、あいまいに捉えていたことに気が付きます。過去行ったことのある場所を思い出しながら、架空の旅行記を書いてみるのもやってみたいと思いました。なんでもない日常、なんてことない近所がコンテンツになります。読むと無性に散歩に出たくなる話の1つです。
「グヤバノ・ホリデー」
珍しくノンフィクションと思われる旅行記。グヤバノとバロットをめっちゃ食べてみたく。実益的な旅行記として読んでも面白いし、独特の絵柄で描かれるフィリピンを想像するのも楽しい話です。
「芋蔓ワンダーランド」
宝探し感があってワクワクして、楽しかった芋掘りの子ども時代を思い出す話。地熱で焼けた焼き芋は夢があります。これも食べてみたいものの1つ。
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