執事喫茶に初めて行ってきたレポ

池袋にある有名な執事喫茶「スワロウテイル」

お噂はかねがね伺っており、人生に一度はと思っていた。先日ついにそれが叶ったのでここに記しておきたい。だが、あまりにも素晴らしい体験ゆえに夢の中の出来事のようで思い出せないことも多い。ここに書かれたことが全て実際に起きたことなのか、私の都合の良い妄想だったのか、最早わたしにもよくわからなくなっている。信憑性はかなり低いとして、これから「帰宅」する際の参考にしようとされている方などは注意していただきたい。

池袋に詳しい友人の案内ですぐにたどり着いた。聞けば彼女は何度か帰宅したことがあるのだという。予約の時間はティータイムメニューの時間だった。

青い看板の脇に急な階段があり、覗き込むと数人の女性が待っていた。列に加わるとドアのそばに立っていた壮年の「使用人」が来てくれる。ハキハキとした喋り方で予約の確認をする様はまるでホテルマンだ。時間になり「お屋敷」の中に通される。入ってすぐのソファのある空間で待たされ、用意が出来たといって扉に案内された。ドアノブに手をかけようとしたところでふわりと扉が開く。自動ドアかと思ったら内側から使用人が開けてくれたのだった。なるほどここはそういう場所なんだ、と実感が湧いた。

そこは真っ赤な絨毯の敷かれた小部屋で初老の男性に迎えられる。執事の〇〇ですと名乗っていたがわたしは名前なんだっけ症候群を患っているので思い出せない。申し訳ない。大きな荷物や帽子を彼に預け、フロアに向かった。その後クロークの鍵を席に届けてくれたり、預けてしまった荷物を途中引き出す際また鍵をもっていったり、どうも鍵の管理を任されているようだ。立場のある方なのだろう。

お世話を担当してくださった「フットマン」は日比野さん。若い柔らかい印象のマスクをしていてもわかるイケメンだ。席に通され順番に椅子を引いてもらって座る。至れり尽くせり。二人ともガッチガチでまさに借りてきた猫である。メニューの説明などが済み食事を選び始める。日比野さんが去った途端「めっちゃ顔がいい……」と友人が顔を覆った。

アフターヌーンティーセットを頼むことは決めていたがお茶が決められない!自粛期間で紅茶専門店に行くことも出来ずスーパーで売ってるティーバッグをひたすら消費していたお嬢様は良い紅茶に飢えていた。王道のダージリンティー?良い茶園のいい茶葉に決まってる!でもせっかく来たのだからオリジナルブレンドも捨てがたい!時間も限られているということで日比野さんが一人ひとりに相談に乗ってくれた。「普段はどのような香りが好みですか?」どのような香りって言われてすぐに答えられます!?

フルーツ系は苦手、ミルクにもストレートにも合うもので、などの要望をつっかえつっかえ述べると数ページに渡るお茶のメニューから3つほどピックアップしてくれた。ようやく一つ選び、友人も同じようにメニューを決め、また日比野さんが去る。自然と出るため息。「大変お顔がよろしい……どストライク……」「大丈夫?味わかりそう?」

そんなに待つこともなくお茶が到着。まずカップとソーサーが置かれ、食器の説明をしてくれる。私たちの服装から選んでくれたそう。窯元だけでなく、デザインの意味や選択の意図なども細かく教えてくれた。

間も無く二人が頼んだアフターヌーンティーセットも到着。三段重ねのティースタンドに心躍る品々が行儀良く並んでいる。まずは一番下の軽食の皿を取ってもらい食事開始。日比野さんは「手でもカトラリーを使っても良いですよ。お嬢様方の繊細な握力でも持ち上げられる程度の重さですので」と冗談めかしていたがド緊張お嬢様たちは「サンドイッチって手で食べていいものだっけ!?(小声)」などと恐々手を付けた。

これがまたおいしい!特に好きだったのはキッシュ。スタバのプラスチックナイフの方が負けるキッシュと違って素直に切れる。生地がふにゃふにゃな訳ではなく口に含むとサックサクだ(でもあのどっしりしたスタバのキッシュも大好き)。このキッシュのためにもう一回来たいと一皿目にして心奪われた。

美味しい料理で緊張もほぐれ二人とも周りを見回す余裕が出てくる。地下だけあって窓もなく隠れ家的だ。ホテルのラウンジなどの豪奢さとはまた違った雰囲気がある。「あのお嬢様めちゃくちゃお嬢様で超可愛い」「目の前でアイス作るってああやるんだね」などと言い合っていた時、私たちのテーブルのそばを一人の使用人が通り過ぎた。

まず目を引いたのは歩き方。他の使用人はキビキビと直線的な歩き方をするのにその方は少女のような軽やかさで歩き去っていった。思わず振り返って裏に下がる横顔をガン見する。「へえ、女の人も働いてるんだなあ」と思った。大きな瞳にクルクルとした髪。大変可愛らしい方だ。そこではたと気づく。「あ、男の人なの?」口に出して言うと同じ人をちょうど友人も見ていたのか「今の人?男の人……なんじゃないの?すごい可愛かったけど」と言った。最早今の時代男だの女だのナンセンスなのかもしれない。

そうこうしているうちに一皿目を完食した。「食べ終わったらナイフとフォーク揃えるんだよね?」「でもフォーク下げられちゃったらこの後ケーキ食べられなくならない?」「じゃあ戻しておくか」ひそひそと相談しあって汚れたナイフとフォークをカトラリーレストに戻した。二皿目を取るときは使用人を呼ぶよう言われていたもののフロア中に響き渡るベルを鳴らす勇気はなく手持ち無沙汰にお茶を啜る。するとそんな私たちに気づいた一人の使用人がお皿を下げに来てくれた。なんと少女のようなあの方だった。

お皿お下げしますね、と言った声は低かった。カトラリーレストに置かれたナイフとフォークも眉一つ動かさずさらっていく。下げてくれるのかー!並べて置くので良かったのかー!と内心叫んだ。皆さん、汚れたナイフフォークは回収してくれるみたいです。新しいの持ってきてくれるみたいです。4時の位置に並べて置くのが正解みたいです。ご参考までに。

その後すぐに日比野さんが現れて二皿目を取ってくれた。「今の彼可愛かったでしょう?まるで少年のようで」と日比野さん。同僚からも可愛いと思われてるんだ。日比野さん的には少年なんだ。「趣味も可愛くて、お菓子作りなんですよ」と更なるあの方情報を得る。なんでも同僚たちにフィナンシェを振る舞ったらしい。「ヘルシオ(オーブン)使ってるらしいんですけど、僕もヘルシオ使ったら美味しいフィナンシェ焼けますか?と聞いたらヘルシオ買うお金で美味しいフィナンシェ100個買えますと言われちゃいました」と日比野さん。使用人同士の会話が敬語で行われること、なかなか皮肉げなユーモアをお持ちの方であること、そして使用オーブンがヘルシオであるなどの情報を得てしまった。供給がすごい。この時あの方の名前も聞いたのだが名前覚えられない病患者のわたしは忘れてしまった。後から使用人名簿を確認したところ、趣味:お菓子作りのフットマンは「天音」しかいなかったのでおそらくあの方なのだろう。名前までかわいい。

スコーンもこれまた美味しかった。クロテッドクリームとグレープフルーツのコンフィチュール(ジャムではない)をつけていただく。自粛期間、手軽に作れるお菓子として大量のスコーンを焼いて暮らしていたが同じ名前で括るのが恥ずかしいほどだ。あんなのホットケーキミックスを作った製粉会社さんの企業努力が無ければ食べられたものではなかっただろう。それに比べてこの繊細な味わい!サクサクとフワフワのバランスがちょうど良く、香りまで美味しい。しかしスコーンの宿命かぼろぼろ落ちる。付け焼き刃お嬢様は体裁を保つのに必死でほとんど会話もままならなかった。

三皿目はデザート。2種類のケーキとフルーツが可愛らしく盛り付けてある。迷わずリンゴ型のケーキを一口目に食べた。お酒を使っていることとパチパチ弾けるキャンディーが入っていることは日比野さんが説明してくれた。芳醇な甘さにパチパチキャンディーが意外と馴染む。次にフルーツを食べたところで失敗に気がついた。甘いケーキの後なのでフルーツが酸っぱく感じる。前日にチェックしたアフターヌーンティーのマナーを紹介した記事を思い出した。食べる順番は味の薄いものから。すっかり忘れていた。もう一つのケーキはブルーベリーとチーズのケーキ。これもまた美味しかった。

日比野さんはずっとテーブルについていたわけではないが、皿を取り替える時やお茶のおかわりを注ぐ時など見計らったようにやってきて、色々な話をした。なんとも話が上手いのだ。自粛期間中していたことや友人と私の関係なども聞いてきた。話も上手ければ話させるのも上手い。自粛中ギターを弾いていたと言えば「じゃあ一年後の武道館抑えておきますね!」と言ってくれた。ギター歴数ヶ月で武道館デビューが決まってしまった。あいみょんもびっくりの彗星っぷりだ。

どのタイミングだったか、切羽詰まったような表情で友人が切り出した。「日比野さん……ホントにお顔がよろしいですね」言った!本人に言った!!「ほんとですか?ああ良かった。緊張させてしまっているのではないかと思っていたんです」と余裕綽綽の日比野さん。「いやもうホントに……ドストライクで……」人を手放しで称賛するのは友人の美徳だ。言い様は完全に推しを前にしたオタクだが。日比野さんはその後わざと友人に顔を近づけて「お嬢様」と呼んでみたり、顔を上げてびっくりした友人に「お嬢様はもう少し顔を上げてください」などと言ってみたり掌で転がすことに余念がなかった。なんかもう、すごいものを見た。

会計の際も気が利いていた。「お嬢様方に算数の問題です」と言って伝票を持ってきたのだ。「普段は私共使用人がやっておりますが、今回は社会勉強として……」だそうだ。確かに私たちがこのお屋敷のお嬢様だとしても、普段は使用人が管理してる費用をお嬢様のポケットマネーから出す、みたいな状況ならあまり矛盾がない。流石の一言だ。

それから残された時間はあっという間だった。「乗馬のレッスンのお時間ですよ」と声をかけられる。時間経つの早いな!?と驚きながらまた椅子を引いてもらって立ち上がる。最初の小部屋にもどり荷物を受け取って身支度を整え、「いってらっしゃいませ」に見送られて外に出た。

まさに夢見心地。ふわふわとした足取りのまま道路を渡ってすぐのギフトショップに立ち寄った。提供されているものと同じお菓子や茶葉を購入することができる。

友人おすすめのダージリン&オレンジのコンフィチュールと結局頼まなかったダージリン「モルフォ」、いただいたお茶「フレデリカ」にも使われていたセイロンベースのアールグレイ「チャールズ」を購入した。これでおうちでも夢の続きをみられるわけだ。

全く本当に素敵な体験をした。迷われている方は是非行ってみてほしい。お屋敷内はほとんど女性だったが、お一人で帰宅している方や人生経験を積まれたレディなど客層は広い印象を受けた。日常を忘れさせる徹底した世界観作りはあのディズニーと並ぶのではないだろうか。

ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。来年の武道館ライブでお会いしましょう。



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