令和に読み直すピンクボム&ラッキースター/「魔法陣グルグル」感想
「Ruina 廃都の物語」リメイク発表の報を受け、ならば発売までに体を整えていこう!の精神に最近は目覚めつつある今日この頃。2018年に発売された小説版を読み、元ネタが散りばめられているアーシュラ・K・ル=グウィンの作品に手を出し、コナンザグレートを買いついにキャパオーバーして積読を増やしてますがだんだん元ネタ巡りが脇道に逸れている気がしないでもない。
そして「よくよく考えたら何気にグルグルネタ多くなかった?」「というか発作的に脈絡を無視したギャグやりだすノリって割とグルグルだよな…」と思い至り、ン年ぶりに魔法陣グルグルを読み返しました。我ながらなんとまあ行儀の悪い書き出しだ…。
かつてはGBのゲーム(ククリがニケの後ろをついてくるやつ)もプレイしてたくらいには世代ですが完結してからは読み直しておらず、かなり新鮮な気持ちで再読しました。
こういう思いついたときにすぐ手を出せる電子書籍は便利ですね。丁度bookwalkerで全巻20%オフセールをしてたのも幸運でした。というか続編のグルグル2が連載してるのは知ってたけど、もう無印の巻数を超えてたんですね…。えっ無印から合わせて今年で30周年なんですか!?コラボカフェもやるの!??さすがにギンギー料理やマタデー料理はメニューになく安心するやらなにやら。
Ruina的には「尻から出る魔法」「高笑いをしてイモを煮る魔女」みたいなwikiにもある直球なネタが5巻くらいまでの一冊につき一つくらいのペースで出てきて満足感高かったし、巨人の塔のネルとの会話もグルグルが元ネタっぽくない?の気づきがありました。フランやメロダークみたいな暗黒料理サークルがやけに火に耐性があるのもこれ料理大臣が由来だったりするのか…?
古典ファンタジーや各地の神話をモチーフに独自の世界観を作り上げて流麗なテキストを導きだすのと、突拍子もなく嵐のようなギャグをやるグルグル的なノリとが混然一体となるRuina、改めて変な作品だったな…(好きだけどもよ)
ネタバレを含む感想
基本はRPGやゲームをパロディとしたギャグで展開する本作。いわゆる「メッセージウィンドウ」がツッコミや説明の役割を果たしてるのが当時けっこう衝撃を受けた記憶があります。
グルグルといえばギャグだろとぼやけた記憶がありましたが、読み直していや本当に面白いなこの作品!?と感嘆しきり。面白かったと言っても思い出補正あるやろ~なんて先入観は少なからず持ち合わせてたけど、ボケとツッコミのテンポが初期から異様に良くて驚かされました。
単発のシュールギャグや小ボケもさることながら、巻をまたいで笑わせてくるのはさすがにズル過ぎた。アッチ村の村長が自分のクソみたいな像をニケたちに渡そうと画策する天丼が数話にわたって繰り広げられた挙句にメインストーリーに絡んでくるの本当に何!??
この突拍子もないギャグを重ねてくるのが引いては作中で何度も語られる旅のドキドキに通じており、最終的に「ハチャメチャだけど良い旅だった…」となるの無法で良い。
あと爺ファンタジーのインパクトが凄まじすぎましたねー。全16巻中14巻と終盤も終盤のキャラでしたが、あまりにもやりたい放題して去っていった上に最終戦にまで食い込んでくるの、当時から色褪せないレベルで笑った。
そんな自由奔放な笑いが前面に打ち出されたグルグルですが、「少年少女の輝き」といったノスタルジックな趣に焦点を当てた途端、前述のノリは一瞬にして無垢な温かさに反転する──時に少女漫画を思わせる読み味すら見え隠れするこの鮮やかな切り替えと、どちらも上質なクオリティで維持されていた作風がグルグルをファンタジー漫画の金字塔たらしめたのだと実感しました。
必要以上にシリアス方面には振らない作風ながら、「好きな相手への独占欲」や「まだ見ぬ将来への不安」といった普遍的なテーマを自然に作品の軸として描くのは、グルグルが「光でも闇でもなく、ハートの魔法」として扱ったからこそでしょう。
ニケは勇者に憧れた父親に育てられただけの普通の少年ですが、ククリにとっては外の世界に連れ出してくれた物語の「勇者様」そのもの。そんな二人が旅路の中で広がる世界に触れ、互いにドキドキを育んでいく過程がボーイミーツガール的にも完成度が非常に高く、魔王ギリを倒すために過酷な冒険も町での出会いも全てが作品の軸に還元されていく構成も上手い。
ククリからニケに延びる矢印は初期から好意ですが、旅を通じてその想いが少しずつ積み重なり、やがて自身の身をも焦がすほどの恋心に醸成されていく過程がとんでもなくエモーショナルで、単発の面白さと作品全体の面白さとで味わいを豊かに変化させていくのが本当に堪らない。
魔王を倒すためミグミグ族が遺した魔法陣を巡る旅はそのままククリ自身のルーツに手を伸ばす道程となり、その過程でニケがククリを可愛い女の子としてだけでなく、「この世界にたった一人の少女」として認識していくのもかなり火力の高いラブコメディを奏でます。6巻においてニケが魔王を倒す理由を見つけるシーンの静謐さなんて思わず胸を撃ち抜かれたし、前の巻でキタキタおやじが脇でおにぎりを作ってたのと同じ漫画か???と首をかしげてしまった。俺は惚れた女の子のために戦おうとする男の子が大好きだからよ…
序盤のニケは戦力として微妙でククリがグルグルを出すまでのタンクのような側面がありましたが、光魔法キラキラを習得して以降は負けず劣らずの戦力となり、それがククリのときめきにも繋がっていく•••とキャラの成長とそれよる変化をさりげなく物語に組み込むのも胸を打ちます。ニケ、基本はアホなんだけどククリの心の機微に聡くって、きりなしの塔でミグミグ族を追想して寂しがるククリに声をかけるとことか普通に良すぎて惚れるかと思ったもんな。
奔放なコメディとノスタルジックなメルヘン、両者のノリを違和感なくつなぐのがギップルだったように感じます。ニケがクサい台詞を吐いたり嬉し恥ずかしな雰囲気になるとくせぇくせぇ言い出してラブコメからギャグに空気を切り替えるギップルですが、これのおかげでシリアスを醸し出しつつ極端にそちらへ舵を切ることのないようなアクセントとなっていたんですね。
ギャグがみたいキッズにもエモを見たい人にも対応出来るかのように、クサい空気になるとあの手この手で茶々入れにくるギップル。作劇において白眉とすら思ってるよ私は。
実際に最強呪文の「恋するハート」はククリが誰にも邪魔されずにニケへ告白する空間となっており、ギップルがいなければ超速で恋愛方面に直行して物語が終わってしまったんじゃないかと。クーちゃんずっとニケのこと好きだったもんね…。
また、全体を俯瞰した際に各エピソード群の起承転結と作品全体を貫く本筋の強固さに唸りました。
7~8巻の「バナナムーン編」を例に挙げますが、ククリを守る力を求めて盗賊団に弟子入りするニケ…という導入から始まる当エピソード。盗賊団との特訓や王家に根付いた魔物の陰謀、あと料理大臣との火を扱う修行を経たことで、クライマックスにて「敵の攻撃に怯えるククリを守るために奮起したニケが、火を司る王に認められて火の魔法剣を得る」とかなり一貫性の高い展開となっています(この際に敵の炎攻撃を吸収して火を「盗む」と盗賊の要素を回収しているのもハッタリが効いてて上手い…)。これを機に戦う力を伸ばしたニケにククリがさらに惹かれて次の旅へ…とエピソードの塊が全体へ還元される構成が目を見張る秀逸さを見せており、そこに個性の強いキャラクター達が色彩をあたえることで唯一無二の面白さを醸し出します。作品の軸がとにかく真面目なんですよね。
丁寧、といえば新しい町にいく毎に服が変化していくのが、装備を買い替えるRPG的な踏襲のほかにオシャレによる心境の変化や心の高揚を感じさせて好きな要素です。
そしてこの冒険の舞台が変わると服が変わるという、本作のメソッドを逆手にとり「服が変わることに自分の殻を破る」という子どもから大人への成長のきらめきを持たせたレフ島編は、自分の作品への理解度がオーバーフローしてんだな衛藤先生…!となってかなり好感度高い回ですね(どこからの目線?)
おふざけが縦横無尽に飛び回ると思えば、フッとモノローグや台詞で心の柔らかい部分を掻き乱していく、言葉選びのセンスが刀のような切れ味を放つのも見どころ。バナナムーン編ラストでジュジュが「クーちゃんをよろしくね」と溢す場面とか、一言だけでそこに至る心理描写は必要最低限なのに遠く何かを託した実感が胸の奥から湧き上がってきて天才か•••?と唸ったもんな。
マイ・フェイバリット・エピソード
一番好きな長編はアラハビカです。いやここ嫌いな人おる??モンスターの部族が共生している魔境において人と魔物が交流する一大都市のロマン溢れる舞台や、パワーアップのために3つのネジを集めるメインイベントがRPGあるあるで良い。アラハビカの町自体もおもちゃ箱をひっくり返したような自由奔放さに加えて、町の片隅や路地裏の奥に不思議が潜んでいるような、きっと大人になるにつれて見えなくなってしまうものの名残が散りばめられていており、ふとした瞬間に本作の持ち味であるメルヘンさが顔を覗かせます。
狭い荷馬車に詰め込まれたククリがニケと密着する道のりを「いちじかんしあわせ」と表現するなどラブコメの波動は衰えませんが、ここまでなあなあで済ませてきたニケとククリの恋愛模様に焦点を当てて「ニケが他の女の子に取られる恐怖と嫉妬」によりククリが悪魔(かわいい)と化す展開が、作品の風向きが大きく変化したことを実感させます。…いや本当に、傷つくかもしれないけど大好きな人のことを考えてドキドキするハートが揺れ動く様でエピソード一本書き切るのが強すぎるんだよな…。
グルグル強化のためにパンフォスの遺跡を目指すのが一時のメインイベントとなりますが、アラハビカの町そのものがパンフォスの遺跡だったという王道の展開に、町並みが6巻で登場したミグミグげきじょうの魔法陣を形成しミグミグ族=ククリの幻想がアラハビカを形作っていたという、長編を跨いだ伏線回収もひたすらに鮮烈。以前ミグミグげきじょうを食らったカヤが瞬時に町の秘密を解き明かすくだりとかもキャラの格を描写して素直に圧倒されました。
アラハビカは作品においてかなりのターニングポイント。町を守る戦いにおいてジュジュが「ハートを守るための子どもの戦い」と称しますが、ラストにて「グルグルは心が大きく揺れ動く子どもにしか使えない」「ゆえにククリはもうじき魔法が使えなくなる」と重要な設定が開示される──ククリたちが一歩ずつ成長してきた過程に否応なく突きつけられる、終わりの始まりで心が揺さぶられます。
以前から子どもの感受性や空想の素晴らしさが溢れていて本作において、では成長とは、大人になるのは悪なのか?という側面をはらむ恐れをもちますが、ここで秀逸な展開を魅せるのがグルグルの良さ。
続くエルエル砂漠において、ある冒険者の独白によって「大人になった者から受け継がれた遺産が子供を助ける」継承および大人と子供の在り方を等価であり相補のものと描き、さらに終盤のレフ島編では永遠に繰り返される日常から脱出する…など、大人への成長の概念がメインストリームをより強固にしており、改めて見るとここから生まれた軸が作品をクライマックスまで押し上げているのに気づきます。
アラハビカ編はジュジュにトマといった過去エピソードのキャラとの共闘をしてるのもあって、この時点での総力戦といった趣があるのも好きですね。バナナムーン編でもジュジュいたしあっちも総力戦だった?ほ、ほらあの時は作者がトマを持て余してる感があったし…
2017年アニメ版もみたよな感想
原作読み終わった流れで5年前に放送されたアニメ版も見ました。私にとってのグルグルアニメはリアタイしてたドキドキ伝説とかVHSで見た記憶がうっすらある初代だったので、新しい絵で動くので綺麗~~と喜びっぱなしでしたね。
序盤はエモに振るのかシュールギャグに振るのかどっちつかずな感がありましたが、5話辺りからギャグのテンポと密度がイカれた面白さを醸し出し、作品の極意を掴み取ったのか•••!?と驚いた。この辺から原作で展開を知ってても笑いが止まらないレベルにまで昇華されてましたね。
全体的に作画崩れもないほか、小ネタの網羅ぐあいとか声優のベストマッチ感が凄い!絵柄は原作中盤くらいのタッチで統一されてるんですが、1話で「さ!!行きましょ勇者様」とククリが「の の」←こんな感じの目になってるシーンでも違和感なくそっちに寄せる作画の細かさを魅せつつ、演技も「目が『の の』になってるっぽいククリの声」を出してるんですよ!!なにを言ってるか自分でも分からないが実際そうなんだから仕方がない。アッチ村でのニケの踊りが死ぬほど気味悪かったり原作補完も申し分ありません。あとケベスベスの魔法でククリがえっちな踊りをする回が原作を遥かに超えるえっちさだったのがとても良かったと思います。
2クール24話でグルグル完結まで描くタイムスケジュールなので尺はかなりカッツカツですが、主なイベントはなぞりつつ一部のエピソードを換骨奪胎して違和感なく仕上げる匠の技が光ります。
巻き進行によって原作にあった息を呑むような瞬間のエモーショナルさも流していってしまう感があったのはかなり残念(イエタ村の辺りとか特に)でした。しかし、ミグミグ族の遺跡でのダンスパーティーやエルエル村での「古いタイコ」といった心を揺さぶる場面は最大限の尺を取って描こうという気概も感じるため、その頑張り俺は認めるぜ…!と腕を組んで頷きまくってしまう。
実際、尺が押されてるからこその進行速度によって原作よりハイテンション&アップテンポなギャグのつるべ撃ちにもなっており、ある意味で原作の魅力の一側面を余すことなく引き出すのに成功したとも言えるでしょう。爺ファンタジーが完全再現されてるのバカほど笑ってしまったが。
この尺の足りなさは後半になるにつれ顕著になりカットされた場面も多いものの、これらの補完も欠かさないのがとにかく偉い。例えば地の王にクソゲーをやらされる回は丸々ないことにされますが、次回予告で二話分に渡ってゲソックの森が再現された上にEDでクソゲーヒロインのフィーシリーズが一挙に登場する謎の優遇がなされるなど、「尺の都合で入れられなかったけど…俺たちはこいつらを忘れてないぜ!」というスタッフの意気込みを感じます。俺の好きな「幻獣ヒラタ」も回収してたしこんなんもう好きになっちゃうよ…。レフ島編では影の薄かった予言者をばっさりカットしつつ、カヤ二世ことデマの位置づけを変化させて無限ループを主軸にしたエピソードにアレンジが成されており、普段とは異なる陰影の描き方からもこの回の異質さを浮き彫りにする良演出に彩られていました。…本音を言えばミウチャのパパの秘密はギャグに全振りしても良かったと思うけどな!総じて「グルグルのアニメ化」に松竹梅があったら間違いなく「松」でしょう。
本アニメで目を引くのは最終2話。特に23話がとにかく高い完成度!原作では終盤の扱いが良いとは言えなかったレイドが、ククリをかけたニケとの一騎打ちをしかける大幅なアレンジを加えつつ、レフ島編で一度だけでたニケの「ひきょう剣」のカモフラージュに使う人形が「ジタリの遺跡でカットされた勇者ロボ」になっている遊び心が目を引きます。レイドが失恋を受け止めつつも決してククリの前で涙を流さなかった、そんな強さをカヤが讃え、主従の強い絆を輝かせるのも二人の物語の終着をグッと引き締めました。
極めつけに、魔王ギリの正体は旅を終わらせたくないククリが生み出した魔法…と騙されかける流れに、ニケが「この冒険は…やーめた!」と魔王を倒さずに最終回を迎えた旧アニメのオマージュを仕込む小ネタ!!!いくらなんでもアレンジの火力が濃密すぎないか!?もしかしてこれグルグルのオタクが作ったアニメなのか???
最終回の魔王軍戦では過去のボスが一挙に登場するなか、ニケ側もゴチンコや盗賊団のおかしら、そして爺ファンタジーに光の者たちをも召喚する大盤振る舞い!!ジュジュやトマ以外のキャラがそこまで再登場しないグルグル本編においてこのサプライズは痺れたし、このわちゃわちゃした豪華さがとても良い。事実上の白面決戦みたいなお前たちの旅は無駄ではなかった的展開で、やってくるのが変な人たちなのグルグルの持ち味だよな•••。ニケとククリのケーキ入刀を見てはしゃぐルンルンとプラナノちゃん可愛いね。プラナノちゃんはニケとククリの擬似娘という美味しいポジションながら登場が終盤ということもあり掘り下げ不足を感じてたので、アニメ版で「普段はツンケンしてるけどパパママ大好きっ子」な一面を見れてより好きになったな。
ククリがニケと出会い、冒険を繰り広げた中で育まれた物語の結晶たる大魔法「恋するハート」のシーンは、出会った人々が繋いだ手が魔法陣を描く壮大さに加えてレイドとかカヤといった準レギュラー魔族もいるのが本当に心を揺さぶられて、そうだよこいつらがいてこそグルグルだったよな…と。
そして魔王ギリを封印する場面で旧アニメのED曲「Wind Climbing~風にあそばれて~」のアレンジを流すのはマジで泣いちゃうだろ!!!グルグル完全アニメ化を成す2017年版クライマックスに原作半ばで幕を下ろした旧アニメのその先という文脈を付与するのあまりにも至高の一手だ…。
原作の温かな寂寥感に包まれてEND…かと思いきや、グルグル2の導入を再現し二人のはちゃめちゃな冒険が再び幕を開ける!クサい台詞でギップルが瀕死!!これだよこれがグルグルだよ!!!のテンションで終わるのも最高だった。
とりあえず私から言えることは「原作理解度が高すぎて一曲で総集編みたいな濃度になってる後期ED『Magical Circle』を聴いてくれ」ということです。
終わりに
久々に読み返したけど、色褪せない面白さと今だから気付ける発見があって、そして何より一編の童話を読み終えたかのような爽やかな読後感が最高で超~~~よかったですね。グルグル2も買ったので少しずつ楽しく読んでます。アニメも楽しく見れたので、5周年を迎えて公式が動いてるっぽいのも嬉しいですね。
そういえばテイルズのソシャゲともコラボしたようで、奥義でベームベームとか長い声のネコを召喚してるの笑った。ベームベームはククリにちゃん付けされた魔神界のマスコットだからな…。
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