読み崩せ!積読昇華録 ─どうしてこんなになるまでほっといたんですか?
春の気配が未だ遠く厳しい寒さが身に沁みる今日この頃。昨年末は大掃除がてらに各電子書籍アプリのライブラリで「未読」の小説を検索したところ、およそ200冊もの積読があることが発覚し目を回すなどしていた。
kindleもbookwalkerも定期的にセールやポイント還元をしてくれるので、気になった本を買う→うわあ、いつの間にかこんなに積んじゃったぞ(畏怖)→圧倒されて読まないとかいう極まった悪循環を繰り返した2023年。いやまあなんで読まなかったんですかと聞かれると仕事に忙殺されたりストレスが尋常じゃなくて活字を受け付けなかったとかいうつまらん言い訳しか出ないんですが…。
なんならゲームを積んだ挙句そのノベライズまで積むなどというメディアを跨いで積み上げられた塔まで発生しており、さながらカスの賽の河原といっても過言ではない始末である。さすがにこれはちょっとどうにかならんかったのか?
ゆえにこれは去年における計画性の無さを恥じるとともに、積み上げられた本を読んで感想を記し己への戒めとするための記事である──(次回以降続かなかったら「そういうこと」って感じで………)
①巴里マカロンの謎(米澤穂信)
「勘のいい人は好きよ。わたしのことを見抜かない限りはね」
かつて運命的な出会いを経て、トリックだけでなく思春期のドロリと凝る感情を掬いあげるその在り方に魅了された<小市民>シリーズ。私の初米澤穂信はこれでした。10年の時を経てリリースされた短編集においても、日常の謎を解き明かそうと推理を張り巡らせるミステリとしての切り口は澄み切っており、短編が連なり一つの長編となる構成に過去作を想起させて満足度を高められることしきり。
表題作の「巴里マカロンの謎」が特に好きで、マカロンに入っていた指輪の意図や犯人を推理する中で製造工程のひとつひとつから過程を積み重ね、その真相を突き止める流れがまさしく「甘いお菓子に包まれたビターな真実」という小市民シリーズに抱いた感想そのものであり、お菓子を扱ったシリーズならではの短編ではないでしょうか。
そしてなんといっても小佐内さんが可愛い!!!!これは声を大にして言いたかった。新作マカロンのために情報収集し小鳩くんに講義する小動物じみた可愛さや放課後の校舎で涙する不憫な姿はもとより、自身に害を成そうとする者に対する苛烈なまでの攻撃性すら刺激的なスパイスじみて俺の脳を数年ぶりに揺らし、蹂躙し、灼きつくしていく……。新作マカロンを選ぶのに迷いに迷った末に何を注文したか忘れてしまう茶目っ気と、手を汚さずに「敵」を陥れる策を弄して昏い笑みを浮かべる様が同居して脳がパンチドランカーじみた状態になり、かつての俺はこれでおかしくされて、米澤穂信の性格が屈折したヒロインじゃないと満足できない体にされたのだったな……と新年早々に遠い目になってしまった。
でも「あの子は私にひどいことしたわけじゃないし年下には優しいのよ」とか言ってるの白々しすぎて駄目だった。彼氏の尊厳をバキバキに破壊したあんたほどの人が言うならまあ……
主人公の小鳩くんも変わらずで良い。小市民癖に懊悩するいつもの流れは控えめになったものの、収録作の中ではえぐみの少なくライトめな「伯林あげぱんの謎」において探偵役をする快感に浸る様が執拗に描写され、新聞部の人間関係がこじれても僕には関係ないしね!といった善意の一市民だが単純な善人ではないあたりのムーブに独特の味わいがあり、時系列的にはその後にあたる秋季限定~において健吾からの指摘にさらなる納得をもたらしていく。この一筋縄でない小鳩くんと小佐内さんが目的のために手を取り合うのがやっぱり凄くいいんですよね……。
などと言ってたらアニメ化決定と長編完結の報が飛び込んできて文字通りひっくりかえってしまった。言葉の洪水をワッといっきにあびせかけるのはやめろ!新作ありがとうございます!!!小鳩くんも小佐内さんも凄いぞー!カワイイぞー!!時代が小佐内さんのイカれた可愛さに追いつく感謝とともに、放送合わせで書籍を買いなおそうかなあなどとも考えたり。
②神々の砂漠 風の白猿神(滝川羊)
人類と<機械知性>との大戦争から百年、荒廃し砂漠化した地球を舞台に、キャラバンの一員として旅をする少年・古城宴が、封印されたオーパーツ「神格機体」とコールドスリープされた記憶喪失の少女と出会い始まるポストアポカリプスSFボーイミーツガール。いやもうこのあらすじから最高すぎんか???俺の好きな属性全てが詰まっており満足度が高すぎる。
「神格機体」のアイデアがとにかく秀逸。円形のポッド型ながら、適性のある人間が操縦すると古今東西の神格や怪異を象る形態に変化するのがビジュアル的なケレン味が効いて最高。主人公・宴が手に入れるのがハヌマーンであり、伝承の姿と宴が思い浮かべる孫悟空のイメージが混在してるのがまた設定への想像力をかきたてるんだよな…。ハヌマーンを主人公機に選ぶのもさることながら、機体に守られているように眠りについていたことから少女に「シータ」と名付けるのもセンスを感じて好きになってしまう。
キメラ、スサノオ、インドラなど多様な神格機体が入り乱れる様はさながら神話大決戦といった混沌を織りなして、さらにSFチックな艦隊戦も入り乱れるド派手な戦闘描写が圧倒的なテンポを生んでいく。それだけでなく古代言語しか喋れなくなる奇病や、世界を裏で操る謎の集団といった話のフックをちりばめて脇を固めストーリーの縦軸への導線づくりにも目を離せない。
宴とシータの関係性もさることながら、敵である香澄とも「かつて地獄を見た者同士」の共感性や、敵対する立場とは裏腹に互いに好印象をもつなど属性のシンパシーがあり、長期連載を視野にいれた要素の配置も上手いんじゃないでしょうか。神格機体の戦闘描写が割とあっさり目だったり宴が直截にシータへの好意を伝えてるのでもう関係性が完成してない?みたいなところはあれど先が気になる作品。
…まあ続編はないんですけどね。そもそも本作、読み切り作品というレギュレーションのファンタジア小説大賞において未完の作品として提出されたとんでもない代物なわけで。まあ確かにこれが来たら「通す」と判断するのも無理からぬ話だよなあ…と納得させられるパワーはあるのがまたニクい。そういった事情を知った上で読む分には面白い作品だったーと清々しい気分で頁を閉じられるものの、果たしてリアルタイムでこれに刺されたとして続巻を渇望せずにその後の人生を生きることは出来たかな…?と言われると怪しいところがあり、今出会えてよかったタイプの本だったと強く感じる。あれだ、フリゲや小説投稿サイトでエターなった作品を目を細めて見つめるみたいな感覚を久方ぶりに味わった感がありますね。
③メイド喫茶探偵黒苺フガシの事件簿(柴田勝家)
コロナ禍の真っただ中、秋葉原のメイド喫茶が三密回避で休業を余儀なくされたことで推しのメイドさんの配信を楽しむ「ボク」だったが、妙なきっかけから流れのメイド「黒苺フガシ」さんと出会い殺人事件の捜査に巻き込まれていく…といったミステリ作品。
現代のコロナ禍で大打撃をうけたメイドカフェ業界やガールズバーといった業種の悲喜こもごもが臨場感をもって描かれ、トリックにも個人配信やメイドカフェのシステム・SNSなど現代だからこそのツールが用いられているのもあってその鮮明な解像度に思わず唸る。客とキャスト、それぞれが本名を隠して接しあう独特の空間で、その在り方を秋葉原の町と照応しつつ「輪廻転生」「ハレとケの概念」まで昇華する辺りに、作者のメイド喫茶への執念ともとれる愛好が見て取れるのも間違いなく見所だろう。
「ボク」とフガシさんの軽妙な会話だったり、多様な趣向のメイドカフェの探訪パートやフガシさんを推すあまり捜査情報を漏らしたり現場に立ち会わせてくれる警官がいるなど全体的に雰囲気はポップだが、事件はどれも人の情念がドロリと溶け落ちて暗い影を人々の心に、町におとしていく。それらの真相が開示されて作品をグッと引き締めるテンポが心地よく、さらには最後の事件はそれまで「推す」側だった主人公が「推される」、ひいてはキャストを演じる経験をして自分の本心とキャストとしてかけた言葉がまじりあうことで犯人の言葉が慟哭じみた迫力を生み、圧倒された。実のところトリックの仕掛け自体はどれも古典的なものもあり手が込んでいるものではないが、最終話のそれは反対に違法建築のように積み込まれ、それがそのまま犯人の中に煮詰まった感情を思わせるのも感嘆とさせられた。
華やかに仕立て上げられた店やキャストが裏で抱える情念、コンプレックスといった負の側面を、それでも気高い誇りをもって店に立つさまにモチーフへの飽くなき敬意が伺えてかなり楽しい作品。メイド喫茶に行ったことのない自分でも興味が出てくるしなによりフガシさんが死ぬほど可愛いので素敵だった。ああいう中性的な喋り方する色素薄めな女性にめっぽう弱いんすよ…。
④不在の騎士(イタロ・カルヴィーノ)
シャルルマーニュ大帝の時代、数々の武勲をたてた白銀の騎士アジルールフォはしかし肉体を持たず精神のみで生きる存在だった。騎士の資格を疑われ遍歴の旅に出る彼に恋する騎士ブラダマンテや他の騎士の思惑も絡んでゆく騎士物語。
書泉グランデで購入した物理積読。なんで電子書籍いがいにも手を出したんですか?となるが面白そうだったので仕方がない。幻想文学的な騎士物語かと思いきやかなり寓話のテイストが強く、アジルールフォは一見すると高潔な騎士ながら誇張した話にその都度訂正を挟むなど細かい性格だったり肉体を持たないからこそ己の勲に固執したりと癖のある存在として描かれ、従者のグルドゥルーは逆に自己の存在が認識できないなど人間存在が命題として問われた作品だった。
白痴じみた幸福に浸る聖杯の騎士や、若き日に得たものが喪失してゆくことに苦悩するシャルルマーニュなどどこか風刺じみた趣を感じさせ、それでいて最後にそれらをひっくり返すかのように物語の内と外を入れ替える剛腕なさまに妙な爽快感を感じたり。この辺りは思想とかを踏まえた上で読みたかったかもなー。
⑤黒い海岸の女王 新訂版コナン全集(ロバート・E・ハワード)
読もう読もうと思ってた古典ファンタジーシリーズ!!アトランティス大陸が水没し現代に至るまでの空白時代に興った古代ハイボリア時代。北方の蛮族キンメリアのコナンが各地を巡り、死と隣り合わせの冒険に掠奪、魔術的な存在との闘いを繰り広げる一大ヒロイックファンタジーの源流。
「キンメリア」と題された詩の『覚えている』のセンテンスから幕を開けるのが、まさしく古き良きファンタジーの風を感じさせて思わず身震いする。キンメリア、闇と夜の国……
収録作一作目の「氷神の娘」からコナンシリーズにおける大まかな流れ理解できるようになっており、敵との血で血を洗う闘争!暴力で人外をも討伐!女ァ!!!といった蛮性に蛮性をかさねたコナンの生きざまが読み進めるたびに癖になっていく。特になんの説明もないまま続く短編二つが「コナンが忍び込んで掠奪を試みる」話なの剛腕すぎないか!?となりつつも、コナンの掠奪や文明とは異なる輝きによって錬磨された気高さが圧倒的な魅力として存在感を放ち始め、表題作の「黒い海岸の女王」ではヒロインとなるベーリトとの哀愁漂うロマンスの香りにあてられつつ、人間が存在する以前の知的生命が興り滅ぶ叙情的な美しさに感情を揺さぶられる壮大な読書体験を得た。
力と知略で道を切り開く冒険譚が獰猛なまでに原液で描かれるので「最高」以外の感情が消失するし、コナンはコナンで美女の強者を見るや否やそれまで共に戦っていた船員から躊躇なく鞍替えするなど蛮人そのものなムーブをするのに、確かに未開の蛮族なりに根付いた知恵や文化の背景が伺えるので読み終えるころには爽やかな読後感すらあるのがオンリーワンの読み味すぎる。殺戮の嵐を巻き起こす暴と知恵と誇りに富んだ戦士の顔が同居してるの良すぎないか?
コナンシリーズには神話的なエッセンスがあるとは薄っすら聞いていたものの、これ明らかに現代でも通用する幻想文学ですよね??と古典の凄まじさに立ち尽くしてしまった。余談ながら、作中世界における数千年の歴史を記した「ハイボリア時代」は大河を思わせる深遠なおもかげを感じるとともに、「永続する蛮性は、進学や哲学に動かされることはなく、その本能は強奪と略奪にしっかりと固定されているのだった」の一文に人類種と獣性が切っても切り離せない様を感じて某作品の神殿ルートを想起するなど。
⑥魔女誕生 新訂版コナン全集
闘争!美女とのロマンス!!なコナンシリーズ王道な流れが味わえるコナン全集二巻。一作目はコナンと敵対者との戦闘が描かれたが、今作では一本目の「黒い怪獣」からコナンが軍を率いる隊長となり軍勢と軍勢の戦争で幕を開けるのでマンネリの概念が存在しねぇ!?と圧倒される。
表題作の「魔女誕生」はコナンの敗北から開幕し、運命を拾うかのごとく生き延びたかと思えば根回しに根回しを重ねて盗賊団の長に成り上がる狡猾さまで見せてくるので本気で敵に回したくない度数が跳ね上がっていく。どちらかと言えば舞台となるカウラン国の趨勢にスポットが当たってるのもあって、コナンが全てを破壊し秩序をもたらした後に去っていく嵐や戦神の様相すら纏っているようにも見えてかなり読み味が心地いい。心地いいんだけど助けた女王に「この国に残って!」と請われる王道展開からの「俺は砂漠の盗賊の長になって他国に侵攻するからできん。まあ生き残りの敵兵は全て始末していくが…」と最悪な断り方をするのでいっそ笑えてくるのも独特の読み味がある。短編集ながら地名やコナンの所属する組織から旅路の足跡が伺えるなど、サーガじみた印象が生まれるのも作者が丹精込めて作ったハイボリア世界の賜物といったところか。
カニバリズムに傾倒する蛮族とか上位種の金属生命体が古代人とともに作り上げた都といったSFチックな趣も違和感なく内包してるあたりにファンタジーの懐深さを感じて好き。この辺りからオチでコナンがゲストヒロインと良い感じになって蛮族ジョーク(ジョークではない)で締める流れが癖になってくる。「これから街を焼き払ってお前を連れ込むねぐらの道の松明にするからな」とかこれモヒカンの首領でもないと許されない台詞だろ
⑦黒い予言者 新訂版コナン全集
「コナンは未開の蛮族育ちだから怪しげな魔術とかに対する忌避感は文明人以上だよ」→「まあコナンだから対抗しないわけではないですが…」の流れが無法すぎて好き。
催眠術を使う相手に対して、「この地方では催眠術が伝統として文化に組み込まれ誰もが知ってる神話と化してるのでここで暮らしてる者は術の前では無力」の理論から、コナンはその文化圏出身ではないので抵抗できると異能バトルしだすのが凄すぎる。これ90年前に書かれた作品なんですか!?
命の危機を救った王女に「俺と一緒に来ないだと!?ならいつか五万の盗賊を率いてお前の国を攻めるぞ!」と脅したかとおもったら王女が覚悟ガンギマリで「ならこちらは十万の兵で迎え撃つわ!!」と切り返すキレッキレのやり取りが火力高くて凄いし、コナンも侮辱を感じるどころか敬意を示すのが王女としての成長を認めるような様を感じて好きなんだよな。
都市に巣食う怪物や宇宙的恐怖を呼び起こす魔人などバラエティ豊かな敵と対峙して飽きないものの、ヒロインが急にキャットファイトを始めたりしてそれどころじゃねーだろ!!とシリーズには珍しい感想を抱いたり。それはそうと人を捕獲してフィギュア化する魔人、特殊性癖エネミーすぎんか?
⑧黒河を越えて 新訂版コナン全集
様々な国家や野盗を変遷し魔術師に人外生命にと数々の敵との戦いを繰り広げてきたコナンシリーズ。表題作「黒河を越えて」は屈指の傑作と称されており、これまでも面白かったけどずいぶん大きくでたな~とかナメた態度で読んだらあまりの面白さに平身低頭となってしまった。
コナン自身も蛮族として描かれてきたが文化に迎合せずとも文化圏に生きてきたのに対し、今回対峙するピクト人は蛮族とはいえ文化圏の破壊者・殺戮者として描かれており概念レベルでの違いをみせつけてくる。また、コナン自身が敗走したり虜囚になる展開はままあれど最後に逆転してきたのが、今回は迫りくるピクト人の大軍勢を前にしてひたすらに逃亡を喫し、さらには達成目標が「いかに開拓民を安全圏まで逃がすか」という、あのコナンでさえも討伐できぬ敵なのだとまざまざと描写されるため常に張り詰めた緊張感とともに話が進むのが大きな特徴だった。
ピクト人じたいも単純な暴力や残虐性が群を抜いているだけでなく、「ひとと獣がおなじ言葉を話していた時代の古代言語」といった伝承を背景としたすべを用いているのが独自の文化体系を感じさせ、コナンに対抗しうる蛮族の説得力が否応なく高まっていて凄まじい。
そんな敗走じみた作劇でありながらコナンが敵を屠る強靭さや罠にはめる狡猾さといった凄みは一切損なわれておらず、そして連綿と受け継がれし文明を守らんとする勇者の姿勢まで打ち出してくるので新たな側面の魅力さえ感じさせてグッときてしまう。
コナン以外のキャラクターがメインを務める回はほかにもあるが、本作の若き勇者バルトゥスと老犬「嚙み裂き屋」のバディがあまりにも良すぎた。バルトゥスは蛮族に殺される人々や破壊された日常を目の当たりにして故郷の穏やかな風景を想起して、その上で今ここで震える人々のために命を懸けて戦う黄金の意志が光を放り、かつ嚙み裂き屋は「主人を殺された恨みから戦いに身を投じる」復讐者の在り方が物悲しくも気高く、この二人が組むことでシリーズにはなかった相乗効果が生まれていて震える。これコナンが彼らに一目置いてたのも分かるな~~となって最高だよ…。
⑨真紅の城砦 新訂版コナン全集
ピクト人の脅威がこれでもかと描かれた前回から間を置かずにピクト人が徒党を組んでくる「黒い異邦人」、なんかもう恐ろしさが凄い。森から来るピクト人を警戒しながら、海賊と野盗くずれたちとで呉越同舟する一触即発な絶望感でヒリつきつつも、コナンが知略戦を挑んで手玉にとりラストで慣れ親しんだ蛮族ジョークで締める安心感が心地いい。こんなんで安心感を覚えるな。
度々コナンが王に至る野望を口にしていたのでついに王になった!やったぜ!としみじみ喜んでいたらコナンが虜囚になると民が暴動をおこしコントロール不能に陥り国が崩壊しそうになるのでやめろそういうの!!!とキレてしまった。かつての冒険を懐かしみ民の突き上げに頭を悩ませたり吟遊詩人が世論を誘導しコナンを追い詰めるのがお労しすぎるよ~~
時系列的には後の時代だが執筆時期的には初期というややこしい背景の「不死鳥の剣」、コナンが邪悪な魔術師に対抗するために太古の賢者が夢で啓示を授け、目覚めると剣に紋章が刻まれていた──となんか超王道ファンタジーの導入みたいな展開が一周回って新鮮で、このシリーズこういうことやってもいいんだ!?的な驚きもあったな。
全盛期の勢いが削がれても運命に導かれて勇者となったかのような雰囲気が、老成したコナンには箔が付くかのような気さえして似合う。
久し振りに魔術師が出てきたと思ったら、SAN値が削られそうなクリーチャーが跋扈する迷宮に閉じ込められたり戦争の結末も魔術師どうしが異形の力でエグい決着の付け方をするので「もう魔術師はこりごりだよ~~」と悪態を吐いて締めるのでコナンが可哀想で笑う。萌えキャラかな?
⑩龍の刻 新訂版コナン全集
30歳の若さでこの世を去った天才・ロバート・E・ハワード。彼が記したコナンシリーズにおいて、本作「龍の刻」は最高傑作だと自信をもって推させていただきたい。
王となったコナンが復活した古代の魔術師の策略で虜囚となり、荒廃させられた王国を取り戻すべく秘石を探して世界を旅する大長編。
相変わらずコナンが不在になると荒れる王国にオイオイオイオイとなりつつも、それらを「コナンが世継ぎを作らないのでいざという時に家臣が忠誠の置き所がなくなる」とシリーズで使い捨てもといゲストヒロインを多数輩出してきた作劇を逆手に取った点からはじまり、若き日のように海賊に身をやつし町に潜入し…と冒険をするのが、蛮人としての半生の歩みを再現・再構築してコナンの人生の節目として総決算させていく流れを感じさせる。
旅路においても狼を従えた老婆やひそかにコナンへ忠誠を示す神官といった格の高いゲストキャラが登場するほか、海賊との蛮人ムーブ、ピラミッド潜入パートで古代の化生と戦い魔術戦まで張り、最後は大規模な合戦までこなすといった「これひとつひとつが短編として成立しうるエピソードじゃない?」といった豪華さで息もつかせぬ面白さ。王としての苦悩や責務を描きつつ、若き日々を取り戻すかのような大冒険を両立させてコナンの魅力を最大限に打ち出すのがもう大満足です…となる。
さらにはコナンを窮地から救ったヒロインに対して、いつもの締めの蛮族語彙パートで求婚を誓うのでウオオオオ!!俺たちのコナン王が妃を迎えるぞーーー!!!と大変盛り上がってしまった。実際今までのヒロインの中でも屈指の活躍したから納得ですね。
唯一残念な点を挙げると、敵であるザルトータンが数千年の時を経て蘇ったり生きし者の血肉によって帝国を復活させる野望を持つなど最大の敵と言っても過言ではないものの、実際にコナンの障害となったのは序盤だけで魔術は行間で語られ決着も割とスピーディーに着いちゃったりで設定と格の高さが釣り合ってないのがやや不満か。でもザルトータンを除くと後の敵幹部も烏合って感じだし何とも言えないところがまあある。
氏の早逝を惜しむとともに、これほどまでに面白いファンタジー作品を世に生み出したことに感謝してもしきれない気持ちで胸がいっぱいで、シリーズを履修して本当に良かったな…と心から思う。
せっかくなのでと劇場版(コナンザグレート)を見ようと近所のレンタルビデオ店を探したけどコマンドーやバトルシップといった俺の好きな作品と合わせて置いてなかったので二重三重に残念。いっそBlu-rayで買うか…。
⑪骨牌使いの鏡(上/下)(五代ゆう)
<詞>が力を持つ世界、<骨牌(かるた)>を用いて未来を占う「骨牌使い」の少女アトリは、祭りの日に青年ロナーを占い凶兆を示したのを契機に世界の裏側、そこで連綿と継がれていった歴史を知り、やがてそれは古代の悲劇へと収斂していく傑作ファンタジー。
作家「五代ゆう」といえば自分の中では「機械じかけの神々」(だいぶ古いなぁ…)で、錬金術をモチーフにしたシナリオや幻想的な描写の数々、そしてなにより過酷極まりない世界においてそれでも生きて、前へ進む在り方の困難さとそれを貫く美しさにより目を灼かれたのを鮮明に覚えている。
本作においてもタロットカードの大アルカナを髣髴とさせ、その絵柄に照応した力が宿るなどモチーフ単位で好きなものが含まれていてまず引き込まれた。
民は弾圧され簡単に死に、貴族は利権を巡って政争にあけくれる王道の「厭さ」がある中で、アトリとロナーがそれぞれの使命を果たすべく奮闘し、やがて末世を切り開く光となるシナリオが語りつくせぬほどに良かった…。アトリは母娘の鬱屈や愛憎を抱え、ロナーは王の責務と無力感への恐怖に苛まれ…と二つの要素が昇華され、伝承で語られるジェルシダ王女と「堕ちたる骨牌使い」に繋がる運命の導きが素晴らしいんだよな…。
王とは何か、王権のありかとは何処かに焦点があたり、絶望的な戦局に挑んでいく終盤がとにかく好み。末世において土着の伝承が新たな神話として刻まれるとかそういうのがなー!
あと氏は短編での爆発力というか、コミュニティを呆気ないほどに破壊し主人公が石もて追われる展開の容赦なさが本当に凄いので、ある程度構えて読んで正解だったようにも思う。
個人的には明らかに死んでたキャラの復活よりも、「完璧な存在が想定外の出会いでバグを起こし壊れていく展開はそこまで好きじゃないんだよな…」と思っていたのが、ジェルシダの一族の実態が明かされていくにつれて滅ぶべくして滅んだな…と納得させられたので悔しい!
真の骨牌の真実を隠すために作られた偽りの創世神話が、ラストにおいて樹木と花冠のモチーフを取り新たに幕を開ける二人の物語として収まるところに収まったのがとても好み。
少しずつ積読を読み進めた!と思ったのもつかの間、気づいたら「五代ゆう良すぎる…せっかくだし原作未プレイだけどアバタールチューナーのノベライズ買うわ」「連城三紀彦の短編集でてんじゃん!カートいれとこ」して、月末に確認したら結局トータルであんまり未読書籍の数が減ってないのでダメだった。これ血を吐きながら続ける悲しいマラソンのごとく永遠に積読なくならないのでは?
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