読み崩せ!積読昇華録 3月
前のやつ↓
①可燃物(米澤穂信)
群馬県警本部に属する葛警部が、管轄で起こった事件を捜査する短編ミステリ。こう書くと随分あっさりとしたあらすじに思えるが、本作に関してはむしろこれくらい余計な情報を省いた紹介が望ましいとすら感じる。
本作の特徴は文体や作風に至るまでクセのない点が挙げられる。まるで事件の調書を紐解くかのように、事件発生から捜査本部の設置、そこからの捜査といった流れが淡々と描かれ、その方法も聞き込みや張り込みといった奇抜さを抜きにした地に足のついたもの。主人公の葛すらも外見の特徴やバックボーンといった情報が排除される徹底ぶりで、強いて言えば職務中は菓子パンとカフェオレで腹を満たすくらいしか「キャラクター性」じみたものはない。管轄の異なる部署との軋轢じみたものは見えるが、そこですらも人間ドラマ的な描かれ方に繋がらないほどのソリッドさには驚かされた。作品紹介には「上司からは疎まれる。部下にも良い上司と思われていない」とあるけれど、そういった刑事ものにありがちの熱血漢だとか昼行燈のような属性や感情の指向性すらオミットされてるので、これ大丈夫なんですか!?とハラハラしてしまう。
一見淡白にも思える作風だが、それがかえって提示された謎を色眼鏡なしの冷厳な眼差しで向き合う緊張感を浮かび上がらせるとともに、のどごしよく読み進められる文章に気が付けば終わるという匠の技を垣間見た。実際、オーソドックスの捜査を情感を排して行い奇抜なトリックもないのに、読後に満足感があるので凄いですよ。
事件に対する向き合い方は各短編のオチにも集約される。事件が解決されてもそれに巻き込まれた人々の人生は続くが、「そこは刑事が介入する点ではない」とでも言い放つかのように淡白に、しかしシンプルにうわキツ…と思わせるセンテンスがソリッドな読後感を高めていて好き。「命の恩」と表題作「可燃物」の誰も救われない感よ…。
②カルト(三好幹也)
白石晃士監督のモキュメンタリーホラー「カルト」のノベライズ版。原作は当然DVD持ってるし、毎年必ず見直してNEO様が登場するところで毎回爆笑してるくらいには好き。特撮畑の友達に見せたら「アンクじゃねーか!!」とホラーが苦手でも喜んでもらえた思い出深い作品です。でも間違ってもカジュアルなホラーだよ!とか勧めると犬が死ぬシーンで怒られるから気を付けような。
さすがにあびる優→長門弥生のように名前は変えられているものの、原作をなぞったノベライズなので勝手知ったるという感じ。モキュメンタリーの質感を再現しようと視点の移動や情景のフォーカスを工夫しており原作の追体験ができるが、反面ホラー的な表現は控えめに留まっているので霊体ミミズやカルト信者の不気味さをもっと味わいたかったな~とも。でも最初の除霊で原作ではハンバーガー食べてたところがカットされてたので笑った。いや確かに軽率なシーンだったけどもよ!
見所は文章で再現される龍玄と雲水のダブル「スゥーッ、セイ!!」と、それまでサブタイトルが「予感」、「遭遇」と続いてたのにNEO様が登場する章で急に「反攻」などというホラーに似つかわしくないのが出てくるとこ。ジャンルが180°反転する作風に自覚的すぎる。
③クォンタムデビルサーガ アバタールチューナーⅠ~Ⅴ(五代ゆう)
ASURAと呼ばれる者たちが楽園を求めて闘争を続けるジャンクヤード。6つに分かれたトライブの一つ<エンブリオン>に属するサーフたちは、謎の蕾が引き起こした爆発の中で異形と化す敵の姿を見る。そして爆心地に表れた少女、セラとの出会いが世界を改変してゆく──同名ゲームのノベライズ、もとい原案小説。まさか積読を減らすために始めた読書がきっかけで新たに購入することになるとは思わなかったが、これも五代ゆう作品の持つ引力の強さが悪いんや…。ちなみに原作は未プレイ。
ヒトによく似た、しかし戦闘人形もかくやというASURAとより強い兵士を選定するかのようなジャンクヤードのSF的な設定で、ファンタジー以外にも骨太な作品を創るのか…!と圧倒される。戦闘に特化し合理性をもってトライブに奉仕するサーフたちが、セラとの邂逅を経て慈しみや好意といった自我を獲得していく過程が丁寧に育まれ、その微笑ましさと裏腹に自我があるゆえの不和も生じていって緊張感を高められた。また、同時に「本質」を意味するアートマ能力の発現によりASURA達が人喰いの衝動に襲われることで、人間性の獲得に伴う倫理的な葛藤が描かれるなどの人の心が無い展開もあってたまらない。
この辺りの要素はサーフの相棒、ヒートがかなり大きなウェイトを占めていて好きになった。エンブリオンの面々が比較的セラに好意を抱くとともに協調的な姿勢を示す中で、ヒートはともすれば離反するのではないかと不安になるほどに力への渇望や反発的な態度を示すため、彼が軋轢を生むたびに緊張が走るがいざ戦闘になると八面六臂の活躍をする安心感を覚える…という二律背反が良いスパイスとなっていた。アグニの爪で炎を弄ぶ描写が妙に色気があってセクシーでもある。ほんまか?
SF的なガジェットや設定が目白押しな三巻がかなり好き。全ての生命を結晶に変える太陽光、それに伴い滅亡に瀕する世界、人類救済のため倫理を無視した研究…と絶望的な世界観が一気に開示されるほか、それまでサーフの相棒だったヒートの原型が痛みを抱えた主人公と化して、逆にサーフのそれが似ても似つかぬ怪人物となる変奏で一気に引き込まれた。表紙が驚くほど穏やかなのがまた良い…。
続く4,5巻は人間と悪魔、人間と人間の致命的な断絶や相互理解を終末世界の筆致に乗せており、やっぱり氏のこういう作風が好きだな…となるとともに、三位一体をはじめ様々な宗教的モチーフの複雑な絡み合いとの融合でスケールが極限に拡大していくところが圧巻だった。いいSFを読めたぜ…。
先月までと比較して読書量少なくない?失速した?感がありますが、これはグラブルリリンクをプレイして「CV早見沙織の品のある凛とした演技よいな…」となり、積んでた赤髪の白雪姫を最新刊まで読んだ上にアニメも通して見て「イザナ陛下いいよね…」てなってたからです。おれは今でも三期をまってるからな!!!
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