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【短編】恋して! ドール

 給料日まで二週間。家賃を支払って、貯金残高は一万円。今月に入って、マサトに貸した金額は七万円を超している。返ってくる見込みはない。何が悲しくて、春の夕空の下、公園のベンチで背中を丸めて通帳を眺めないといけないのだろう。砂場で遊ぶ母娘を前に、カヤコは自分のやっている恋愛のバカさ加減に溜め息を吐いた。
 OL事務職、月給十五万円。定期的に優しく抱いて金を取っていく男と、もう一年の付き合いになる。
 「俺はヒモにはならない」と矛盾した宣言をして、カヤコの住む六畳一間のワンルームには決して転がり込まない。野宿して毎日をしのいでいるのだ、と大真面目に語っている。定職に就く様子はない。それがカヤコの恋人である。最初は相談を聞いてくれていた友人達も、三十歳を手前にいつまでも不毛な関係を続ける彼女にあきれて、話を聞いてくれなくなった。
 自分の弱さがいけないのはわかっている、頭では。頭では――地面に髪が届きそうなほど背中を丸めていると、ギギッ、とベンチが他人の襲来を告げた。あわてて顔を上げると、長髪で眼鏡をかけた男が右隣りに座っていた。ぼさぼさの髪が腰まで伸びている。異臭も漂っている。彼は、母娘が砂で作ったトンネルを眺め、スコップを持った女児に手を振った。その手には、リカちゃん人形が握られている。母親は怪訝な表情を浮かべ、女児の手を引いて去った。
 私も逃げるべきか、とカヤコが腰を浮かせると、男は、
「カヤコさん」
と老人のようにしゃがれた高めの声を出した。
「はい。えっ?」
「何か悩み事ですか?」
 男は眼鏡のむこうで、さも心配そうに目を細めてカヤコを見つめている。
「なんで、私の名前を知っているんですか?」
「こないだ駅前のスターズにいましたよね?」
「何、いつの話?」
 なんとなく無視できずに答えてしまう。スターズは、カヤコがよく行くカフェだ。
「先月。金髪の男の子と一緒でしたよね」
 そういえば、と、この男を見た記憶がよみがえった。
「お金のことで揉めてたでしょ?」
 揉めた、というより、カヤコが一方的に怒り、泣き、マサトはへらへら笑ってばかりで、結局お金を返してくれなかった。あの時、確かにこいつは隣りの席でリカちゃん人形をいじくりまわしていたが、それと何の関係があるというのだ。カヤコが黙ると、男はジーンズのポケットから一体の人形を取り出した。リカちゃんのボーイフレンドみたいなやつだ。
「もらってくれませんか?」
「ええ? いや、む、無理です」
 カヤコは今度こそ席を立った。お辞儀をして立ち去ろうとすると、男は肩をつかんで引き止めてくる。
「あなたの恋愛が、きっとうまくいきます。『恋して! ドール』でネット検索してください。僕は悪いことは言いません」
「無理です。無理です」
 半泣き状態のカヤコの胸元に、男は人形を押しつけてくる。
「僕もレナちゃんも、あなたを応援していますから。ねっ!」
 男に満面の笑みを浮かべられ、カヤコは逃げるように公園をあとにした。どうやらあのリカちゃん人形は、レナという名前らしい。いつのまにか握りしめていたボーイフレンドの人形を捨てるわけにもいかず、カヤコはそれを自宅まで持ち帰るはめになった。
 晩飯にカップラーメンをすすりつつ、『恋して! ドール』を検索したカヤコはおびえた。
【都市伝説! 『恋して! ドール』は存在しないサイトで販売されている製品であり、ドール達は人間と恋愛ができるほどのコミュニケーション能力を備えている。ドールと気持ちが通じあえば、幸運が降りると言われている。】
 胡散臭い。てゆうか、あの長髪男は何者だ。とりあえず、箪笥の奥にしまってあった新品のハンカチを古びたクッションに載せ、その上に人形を座らせてみた。粗末に扱って祟られると怖いので、せめてもの敬意だ。ブレザーの制服を着た男子は、瞳に星が散らばっていて、細くとがった鼻の下に、小さい唇が上品に添えられている。こんなに外見の整った少年と出会ったら、私が少女なら熱を上げてしまうかもしれないな、とカヤコは見惚れた。夢だけみて終わる恋愛ならどれだけ楽だろう、と癖になった溜め息を漏らした直後だった。
『いつまでグチグチ言ってんだよ』
「へっ?」
『ヒモ男より、俺に興味持てよ。ほら早く、俺に名前をつけてみな?』
 人形が喋っていた。顔は作り物のまま微動もしないが、音声を発している。カヤコは人形の衣装を剥がしスイッチを探したが、つるつるとした体には何かが埋め込まれた痕は見えない。
『おい、何脱がしてんだよ。そんなに俺が欲しいのか?』
「ギャーッ!」
 ついに自分の脳みそが壊れた、とカヤコは119番をコールしかけ、精神科医に病名を告げられている場面が浮かぶとそれも怖くなり、人形を片手に公園まで走った。外灯のあかりひとつだけの夜の公園で、長髪男はレナちゃん人形と砂遊びをしている。不審者にしか見えない。
「お返しします。すみません!」
 人形をベンチに置き、去ろうとすると、
「あはは、びっくりしちゃいました? ドールが喋ったから。あ、ここも掘る?」
 長髪男は笑い、後のほうはレナちゃん人形に話しかけていた。
「何のいたずらですか? 人形から声が聞こえるなんて気が狂いそうです!」
「そうおっしゃらずに、幸せを呼ぶドールだから大事にしてあげてください。心がそなわっている子達だから」
「幸せ? こんなもので幸せになれたら誰も苦労しません! 面倒事に巻き込まないで!」
「宝くじが当たるって言われても?」
 カヤコの心に痛みが走る。同僚がよく言う、宝くじが当たれば仕事なんて辞めるのになあ。彼女自身もそう思っていた。マサトに出会うまでは。
「僕も、レナちゃんの声が聞こえます。この子は僕の娘だから。僕達、相思相愛なんです。でも、父親離れしたい年頃なのかなあ、ボーイフレンドが欲しいって言われたので、彼を連れてきました」
 長髪男は、ベンチに倒れている人形に視線をやった。
「しかし、彼は僕と意思疎通をする気がないようです。何も聞こえません。その上、レナちゃんも彼との恋に乗り気じゃないようで。そんな時にあなたを見かけて、この人なら彼と話せるかもと思ったんです」
「どうして私が?」
「あなた、恋人に求めすぎて、つらそうにしていたから」
「私が? 求めすぎって?」
 むしろ、マサトに求められるまま差しだしているのだ。自己犠牲をして。
「いつか彼が自分を幸せにしてくれる、と信じているから、投資のつもりで全財産を貢いでいるわけでしょう」
「そんなんじゃないです。私がお金を貸すのは、彼の夢を応援したくて、つい」
「見返りなく?」
「返してほしいって、ちゃんと伝えています! 限度ってもんがあるんだから。夢でごはんは食べられないよって、何ッ回も説明して」
「しかし、あなたも夢見ていますね。彼との結婚生活を」
 カヤコは言葉をのみこんだ。
「すこし浮気をして、ドールと夫婦生活を送ってみてはどうですか。気持ちが落ち着きますよ。精神が安定すれば、幸運もやってきます」
「人形相手に、いったい何を……」
 警戒しなければと思いつつも、柔和な話しぶりについ耳を傾けてしまう。
「ドールは、自分が求められていると感じれば心を開いて話してくれます。彼の声を聞けたということは、あなた自身が彼を求めている証拠です。素直になって。まずは、彼に名前をつけてあげてください」
「人形に名前をつければ、幸せになれますか?」
「本当に大切にすることです。自分だけ幸せになろうとする人に、幸運は降りてきません」
 答えになっていない答えを返され、カヤコは腑に落ちないながらも人形を持ち帰った。夫婦生活はともかく、会話する以上は呼び名が必要だ。しかたなく、少女だった頃に夢中になったアニメキャラの名前を与えた。
『ライト、か。良い名前だ。ありがとな、カヤコ』
 この異常事態に慣れつつあるからなのか、名前を呼ばれると不思議に安堵が生まれる。その晩、カヤコはライトを抱いて眠りについた。
 翌日から、できるだけライトを肌身離さずに持ち歩いた。半信半疑ではあるが、幸運のお守りを手に入れた気分になっていた。
 ライトは、食費も光熱費も交際費もかからない。仕事中はこっそり制服のポケットにしのばせ、帰宅してからは視界に入る位置にクッションを用意して、そこに置いた。毎晩一緒に風呂に入り、硬質な肌に石鹸の泡を立ててやった。
『そろそろ新しい服欲しいんだけど』
 人形サイズの洋服を裁縫できるほど、カヤコの指先は器用ではない。二人で通販サイトをのぞき、ライトの気に入ったジャケットとシャツ、パンツを購入してやった。口やかましいが一人では着替えすらできないドールの相手をしているうち、荒んでいた心がすこしずつ浄化されていくのを、カヤコは心地よく感じていた。

 二週間後、カヤコはひさしぶりにマサトにメールを入れた。お守りの効果を試したくなったのである。
〈近いうちに会える?〉
 三日が経っても返信はこなかった。
〈こないだ、お給料もらったよ。会う?〉
 翌日、返信がきた。
〈会えない。俺は今、自分を試す旅に出ている。いつ帰るかはわからない〉
「そんな」
 ついに別れが来た、とカヤコは仕事を一日休んで泣いた。
『男に貢いで貯金が果てたのに、よく自分から金が入ったなんて知らせる気になるな。お前は正真正銘のバカだ』
「だって、そうでもしないと、マサトからは連絡をくれない気がして」
 カヤコはライトを抱きしめ、その小さな頭部を涙と鼻水でべとべとに濡らした。
 カヤコがマサトに貸す金の大半は、宝くじに費やされていた。時々は小金を当ててくる。「いつか億を当てる」が彼の口癖である。野宿していると言って、いつも破れたジーンズと薄汚れたシャツを着て現れた。しかし、野宿しているわりに異臭は感じず、衣服も決してきれいではないが洗剤の匂いが漂ったし、金色の髪からはシャンプーの良い香りがした。一度だけ問いただすと「彼女に会うんだから銭湯に入ってくるんだよ。風呂借りるの悪いし。洗濯はコインランドリーに行く」と笑った。
「でも携帯電話を所持してるってことは、住所を持ってるんだよね?」
「友達の住所、借りてんだ。同居してることにして」
 その友達はどうせ女だろ、高給取りの。とは口に出さないが、そんな嘘をついてまで人の恋心を利用するんだな、と盛大なクズ野郎を恨んだ。それなのに、必死でクズをつなぎとめた。会えばお金も心も搾取されるとわかっているのに。奴は、決して「貸して」と言わない。「宝くじ買いたいなあ」と耳元でささやくのだ。そのつどカヤコは「貸すだけね、返してね」と果たされない約束を自分から交わす。わかっているのに、繰り返す。
「どうして宝くじをそんなに買うの?」
と聞くたび、彼は意気込んで答えた。
「宝くじに当たる人は、大勢の人が託した夢を背負ってるんだ。だから、絶対に幸せにならなくちゃだめ。俺はそういう覚悟を持った人間になりたい。だから宝くじに当たりたい」
 具体性のない将来を語る時の、とびきりばかみたいな笑顔が、どうしようもなく好きだった。
『好きなら信じ切ってやればいいのに、中途半端に恨んだりするから、連絡とれないくらいでビービー泣くんだろ。そんな自分本位な恋愛なんかやめちまえ』
 汚れた顔をカヤコに拭かれながら、ライトはまくしたてた。
『そんなことより俺の望みを叶えろよ』
「何よ、望みって」
『レナを俺の女にしたい』
「えええっ」
『そんなに驚くことか?』
「私が相手って設定じゃないっけ?」
『マサトに未練垂れ流しのくせに何を言ってるんだ。俺は最初からレナ狙いだよ。カヤコは親友以上恋人未満って感じだな』
「はあ、そう」
 ライトのペースに巻きこまれると、悩むのもばかばかしくなる。共同生活をしていると、そう感じる機会がたびたびあった。カヤコは早くも泣きやみ、ライトをショルダーバッグに入れて靴を履いた。
 公園に着くと、春の陽射しに包まれて、長髪男がレナちゃん人形を胸に抱きブランコを漕いでいた。異臭が風に乗ってやってくる。近寄りたくない気持ちをこらえて、カヤコは男の隣りのブランコに乗り、ライトと一緒に風に吹かれた。
 ライトが『レナ、元気だったか』と彼女に話しかける。彼女が何と答えているのか、カヤコには伝わってこない。すると、長髪男がその言葉を翻訳した。
「レナちゃんが『何か用?』と聞いています」
 ブランコが錆びてギコギコと鳴る音に負けまいと、カヤコは声を張って伝えた。
「ライトが『俺の女になってくれ』と言っています」
「『あなたの女になると何かいいことあるの?』と聞いています」
「『一生セレブな暮らしを約束するよ』と答えています」
「『そんなものが欲しいんじゃないわ』と拗ねています」
「『じゃあ君の欲しいものをぜんぶあげる』と言っています」
「『私は真実の愛が欲しいの』と訴えています」
「『真実の愛を教えてやるから、俺を信じてついてこい』と返しています」
「レナちゃんはキュンと胸が高まっています」
「『カヤコうるさいから黙れ、俺はレナと二人で話をしている』と怒っています」
「そうですね、僕たちは見守っていましょう」
 それからしばらくの間、カヤコは長髪男と並んでブランコを漕ぎ続けた。男のジーンズは膝のあたりで大きく裂け、裾からのぞく素足はずいぶん臭そうに見えた。この人こそずっと野宿しているんだろうな、と思うと、どうして自分がホームレスの男性と人形を持ち寄ってブランコを漕いでいるのか、意味のわからなさに笑いがこみあげた。
「ふっ、ふふ」
 声を漏らすカヤコに、男がつぶやいた。
「あ、やっと笑った」
 マサトと似たような慰めの文句を言われて、カヤコはすこしムッとした。
「別に、笑ってないですけど」
「笑う門には福来る、ですよ」
「ああ、はいはい。言うことだけは素敵よね、あなたもマサトも。うわべばかりの言葉に心つかまれて、お金をなくして、ふふ、私も結局のところ、夢見る夢子ちゃんだわ。だって、人形と会話できちゃう時点で頭おかしいもん、ふふ、うふふふ」
 笑うカヤコの目頭はきゅっとしぼみ、温かな粒が頬をこぼれた。
「ふふ、あは、は……」
『カヤコどうした?』
「なんか、なんか私……」
 カヤコは熱くなった目頭にライトを押しつけて、嗚咽を漏らした。ブランコが風を切り、彼女の涙を飛ばしていく。
『おい泣き虫、俺の頭を濡らすなっての。せっかくレナと良い雰囲気だったのに、台無しじゃねえか』
「悔し涙ですか、カヤコさん。それとも嬉し涙ですか。レナちゃんが心配していますが」
「わかんないけど、泣けてくる。だって私、これが私なんだなって」
「そうですね。今のあなたが、あなたです。そのままで良いのですよ。マサトさんを好きなあなたで良いのです。だって、それがカヤコさんでしょう」
 言葉にできずあふれてくる想いを、長髪の男があっさり平凡な言葉に変換してしまったが、それでもカヤコの内に湧きあがる感動は熱を帯びていた。体中の毒を吐き出すように、大声で叫ぶ。
「ああー!」
 感極まり、ブランコを揺らす力も増していく。座っていた姿勢から立ちこぎへ変わり、その拍子に落としたライトを、長髪の男があわててキャッチした。 
「私は幸せだー! ああー! あああー!」
 ブランコは、一回転しそうな勢いで高くあがる。ギコギコと古びて危うい音が響き渡る。
「あああああーっ!」
 金属の破壊音とともに、カヤコはブランコの鎖を両手につかんだまま空へ飛び立った。雲を突き抜け、銀河へダイブした。
 宇宙から見た地球は、震えるほど美しい青だった。ああ私、この星で生きていたのね。カヤコは落下しながら、静かに目を閉じた。

 「カーヤコっ、起きてみ」
 耳元で声がして、カヤコは頭を上げた。体を動かした反動でベンチが鳴る。空は明るい。どれくらい眠っていたのか、砂場の母娘はいなくなっている。
「マサト?」
「ひさしぶり」
「どうしたの、なんでここに」
「修行の旅から戻ってきたのさ」
 まだ春先なのに、肌は日焼けし、頬の毛穴は開ききって汗が滝のように流れている。穏やかに澄んだ両目は、草原を見渡す馬のようだった。
「宝くじ、当たったよ。七億」
 彼は一枚のくじをカヤコの手に握らせた。
「え?」
「このために人生を捧げてきたからな。修行もやり遂げた」
「うん……、いや、え?」
「せっかくだからさ、六億は世界中のいろんなところに寄付するんだ」
 有頂天というのではない、達成感に満ちた表情は、彼の夢が叶った事実を示していた。起こっている現実に追いつけないまま、カヤコは素直に疑問を口にする。 
「えっと、それで残りの一億は?」
「カヤコを幸せにするために使う!」
「……。ほ、ほんとに、七億」
 彼は大口を開けた。
「俺は世界中の夢をもらった!」
 ああ、この笑顔が大好きなんだ。
 彼の首に抱きつくと、きつい体臭が鼻をついた。
「くっさ!」
「あっ。早く知らせたくて、銭湯に行くの忘れてた。そんなに臭う?」
 恋人は野宿している。自分に会うために、銭湯に行ってシャンプーの匂いをつけてくる。
「ううん、いいの。臭くていいの。全然いい」
 もりもりと膨らむ雲を見上げながら、カヤコはマサトの臭いを体じゅうに吸い込んだ。さんざめく蝉の声が、聖歌隊の合唱のごとく二人を祝福する。
「ん、蝉?」
 カヤコはマサトから体を離し、あたりを見回した。犬を連れて散歩する老夫婦は、二人とも半袖を着ている。
「今、三月だよね?」
「まさか、俺の帰りを待ちすぎて時間止まってた? だからそんな暖かそうなセーター着てるのか。演出家だなあ、カヤコは」
 茶化すマサトを尻目に、カヤコはあせり始めた。春以降の記憶がまったくない。
「待って、ほんとに今何月?」
「もう八月……、あれっ、ここどうした? 怪我してる」
 カヤコの髪をかきあげたマサトは目をみはった。彼女の額には、ぱっくりと開いた傷があった。傷口は、凝固した血でふさがっている。それが、ブランコを漕ぎすぎて宇宙まで飛び、数か月を経て地上に落下した際に負傷したものであるとは、マサトはもちろん、カヤコ自身も知らない。
 この世界では、まれに超常現象が起きる。人々はそれを奇跡と呼ぶ。たとえば、お守りがわりに不思議なドールを持っていたら、恋人が宝くじを当ててくる。役目を終えたドールは誰にも気づかれず、ベンチの下で砂にまみれている。ライト、とカヤコがその名前を照れつつも嬉しそうに呼ぶ機会は、もう来ない。(了)


★この作品は、イロカワ文学賞第二回に応募したものです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!




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