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やっぱり、あなたとHANAしたい!

やっぱり、あなたとHANAしたい!

1.山本ひろみの日常

 その時、私、つまり山本ひろみは、チーム・ヴァルハラの一員として、スーパーコンピューター「HANA」の基本プログラムを開発していた。

 時は、21世紀の後半に差し掛かる。

 家族を持てる人は富裕層に限られ、庶民は結婚はおろか恋愛も難しくなっていた。アパートに帰ればコンビニの出来合いのお弁当を口にするような、味気ない日々の連続である。

「チーフ。現在のプロジェクトの進捗は、この通りです」

「ありがとう。ひろみは相変わらず仕事が早いわね」

 返事を返したこの女性が、この研究所の所長である、ヒナ・マッカートニーその人。

 数年前、それまでは論文だけが存在していたタイムマシン理論を、実用レベルでまで開発した天才中の大天才。

 もっとも、彼女の仕事はタイムマシンの分野に限らない。その一つが、超スーパーAIのインターフェイス開発。ちなみに、私は、彼女の結成するエリート中のエリートのチームに属しているわけである。

「ところで、ひろみ。最近ペットを飼い始めたんだって?」

 笑顔で問いかけるチーフ。

 思いがけず問われて、びっくりした。

 ああ、同僚と話しているチャットを見られてしまったか。

「はい。オンラインショップで見つけたもので、思わず」

「名前は決めたの?」

「そうなんです。実はまだなんです」

「はやく、名前くらいつけてあげなさいよ。ペットも家族なんだから」

 笑顔で、電子文書に決済印を押してくれる。

 はぁ。やっと、仕事も次の段階に進むことができそうだ。

「もっとも、うちの家族ときたら、、、特に悩ましいのが長女」

「ああ、エリザベスちゃんですね」

 そう。

 チーフのわんぱく娘のことだ。

「好き放題、時間旅行にでかけるんだから。マシンの起動試験を兼ねているとはいえ、これ以上、陽子おばさんに迷惑かけないでほしいんだけど」

 ため息まじりのチーフ。

「また、48年前に出かけちゃったんですか?」

「うん。正直まいった。どうやれば、おばさんの機嫌を損ねないか、それだけで頭が痛い」

 確か、タイムマシンって、かなり燃費が悪くて、時間を超えるたびに相当のエネルギーを必要とする上、歴史を変えないよう法律も厳しく制限されていたりする。

 実は、かなり金がかかる。

「まぁ、そこは執事の皆様がフォローに回ってくださいますよ」

「それを出し抜く知能犯だから、特に悩ましいのよ。いったい誰に似たんだか」

 すくなくとも、、、いや間違いなく、知能指数はチーフに似たんだと思いますよ。

 と心で思うだけに止める私。


 家族ねぇ・・・。

 呟きながら、私はマンションへの帰路についた。

2.天才科学者の日常

 研究所を出て街を歩く。

 いったん、ここでリフレッシュもいいだろう。

 時間は、午後5時。

 行きつけのコンビニに入り、晩の買い物を済ませて、アパートの家路につく。

 もちろん、ペット用のペットフードも添えておく。

「あの子の名前か・・・」

 飼いはじめたのはひと月前だ。

 ネットで絶滅してしまった種を売っているサイトがあったので、気の向くまま購入した。

 それが、ニホンオオカミの遺伝子情報。

 この時代、遺伝子情報はすべて電子化されている。

 それを買う仕組みになる。

 ダウンロード後、近くのペット屋さんで飼育してもらったのだ。

 私の元に届いたのが赤ん坊の時だから、今、そのニホンオオカミは生まれて3ヶ月くらいになろうか。

 どうして、ニホンオオカミかって?

 まぁ、一言で言うと、格好よかったからである。


 マンションに帰ると、彼らが待っていた。

「やぁ、おかえりなさい」

 ブロンドの22歳の青年が待っていた。

 傍には子犬・・・もといニホンオオカミがいる。

「遊びに来ていたのね。ジョージ」

「ついさっきね。合鍵使わせてもらったよ」

「ほいほい、ご自由にどうぞ」

 つまり、私とジョージはそういう関係である。

 そろそろ、結婚も考えた方がいいだろうなぁ。めんどうくさい。

 荷物を下ろし、シャワーを浴びてから、リビングに戻る。

「ひろみも大変でしょ。なんてったって、今をときめく超エリートなんだもの」

 ジョージが、私の飼ってきたお弁当のひとつを広げる。

「何がエリートよ。みんな人間だわ」

 そういいながら、私はジョージにお弁当を、オオカミにはペットフードを差し出す。ぽりぽりっといい音をたてて、無言で餌を食べてくれる。

 うん。こうしてみると、ただの子犬のようだ。

「この子の名前、何がいいと思う?」

「うーん。難しいね。思いつくのはありふれた名前ばかりで」

 ジョージも考えてはくれていたようなんだけど。

「そういえば、大学は論文進んでいるの?」

 母親のように、ジョージの心配をする私。

「うん。やっている。ただ、教授のOKだけがとれなくて。今、絶賛、手直し中だよ」

 ふりかえれば、春もたけなわ。

 軽く相槌をうちながら、私とジョージは、弁当とカクテル缶に口に運ぶ。

「そっちこそ、HANAの開発も暗礁に乗り上げてるって」

「うん。3つの量子コンピューターの同期に矛盾が生じててね。あと一歩ってところかな?」

「チーフはなんて言ってるの?」

「順調だってさ。そこを乗り越えれば、歴史にまたひとつヴァルハラの功績が残るんじゃないかな?」

 機密情報のようで、ざっくりとした情報だけかいつまんでの会話を交わす。

 まぁ、この程度の触りは研究所のホームページでも公開されているので機密情報とは言わない。

「そうかぁ。あ、ひろみ。今夜、泊まって行ってもいいかな? ここの方が大学近くて」

 くすりっ、と私は笑う。

「どうせ、それは口実でしょ?」

「バレたか」

 ジョージは笑顔をこぼして、カクテルを一気に飲み干したのだった。

3.彼を救うための研究

 ジョージとの出会いは、マッチングアプリだった。

 そういう関係を望んでいたわけではなく、物は試しでやってみた結果だ。

 倫理的に間違っていることはわかっている。でも、世の中の方が狂っているんじゃないかとも思う。極端に男女の出会いが減った時代だ。こうでもしないと友達はできなかった。恋人ができないということは、恋愛結婚も減るということだ。これはいかがなものかと、私は考えたわけだ。

 そこで、ジョージに出会った。

 最初はお互い英語で話していたが、ジョージが日本語を学ぶようになって、JAPANの大学に留学してきた。専攻するのはこの国の文学。尊敬しているのは、ドナルド・キーン。この国への帰化を望んでいる、と本人は話している。

 一瞬、詐欺を疑った私は、徹底的にジョージについて調べた。

 で、意外や意外、かなり堅実な好青年。

 SNSも、戸籍の調査も、犯罪歴もすべて調べ上げたが、問題はなかった。

 ただ1点の事情を除いて。


 ジョージは心臓に難病にかかえていた。

 早くて5年後。

 治療法が見つからなかったら、彼はこの世を去ることだろう。


 衝動的に。

 私は、彼とお付き合いすることを心に決めた。

 私が彼をこの世に繋ぎ止める。


 そして、もうそろそろ3年が経とうとしていた。


4.スーパーコンピュータ HANA

 突然だが、少し仕事の話をしよう。


 ジョージが来日する1年前に、私は大学院を卒業した。

 そこで、人伝てに、この研究室のことを聞き、出向くと同時に即スカウトされた。

 私の専攻は、有機デバイスの開発。

 当時、まさにヴァルハラが求めていた人材だった。

 スーパーコンピューターは開発されていたが、それを量子コンピューターに切り替える段階で、AIを取り入れてみようという提案をしたのが、ヒナ・マッカートニーだ。

 インターフェースとしてのAIは、限りなく自然と科学が融合する新しい着想に結びつく。

 だれもコンピュータを使っている煩わしさがまったくない。あやふやな表現も理解できるスーパーコンピューター。

 聞くだけで、その相性が素晴らしいことは理解できた。

 だって、これなら、どんな病気も即座に治療できるスーパードクターみたいな人工知能ができあがる。

 私は、責任者として手を上げた。

 私は医者になる適正には外れてしまっていたが、医者を支援し、医学が発展するという面でジョージの治療に関われるのではないかと思った。


 その着想から、HANAは生まれた。

 ジョージに笑顔の花束を捧げるつもりで、ただひたすらに頑張ろうと決めた。


 その4年後、女性的な思考をするコンピュータとして、HANAは発展していく。

 女性にはいろいろな顔がある。

 たとえば、人間として、母親として、そしてオンナとして。

 その整合性を乗り越えれば、人間の直感あたる部分をうまく再現できるのではないかと思った。しかし、それは0か1かという極端な思考しかできないコンピューターにとって、かなりの高負荷だ。

 最後のもう1ピース。 

 何かがあれば、このHANAは完成する。

5.かけだした子オオカミ

 その日の朝。

 私は差し込む朝日に目を覚ました。

 ふと、隣を見ると、すやすやと寝息を立てるジョージの顔がある。

 私はベッドから体を滑らせ、素足で床のスリッパに足を入れた。

 ウォンウォンっ!

 足元に、オオカミがまとわりつく。

「ああ、お腹が空いたのね」

 ニホンオオカミは、私を見てとたんにキッチンに走り出す。

 その様子は、まるで事件が起きて、一気に駆け出す警察犬のような。

 まるで、急発進するかのような。

「あ、名前決まっちゃった」

 私は、ボサボサの髪に手をやりながら、ひらめいた。

「どうしたの? ひろみ?」

 ベッドからジョージが声をかける。

「ジョージ! この子の名前が決まったわ」

「?」


「この子はスクランブルよ!・・・いい名前でしょっ?ね?」


「おー。さすが、ひろみ」

 ジョージが笑顔でそう答える。

 となると。

 さしづめ、朝食はトーストとスクランブルエッグと洒落込みますか。

 あくびをしながら、私はエプロンを着て、キッチンに立ったのだった。

6.悪夢

 その朝のことを私は忘れない。いや、忘れたくても忘れられない。

 何度も夢に見た景色だ。

 暗黒に緋色の飛沫が飛び散る、惨劇の景色だ。


 私は朝のシャワーを済ませ、ジョージと一緒にマンションを出た。

 入り口のセキュリティドアをくぐるなり、彼は大学に連絡を入れるため、懐を探る。

「あ」

 急に彼は立ち止まった。

「悪い。ひろみ。忘れ物だ。端末、取ってきてよ」

 ジョージが軽くお願いする。

「まったく」

 私はため息をつく。「人を使うのもいい加減にしてよね」

 しぶしぶ、家路を引き返す。

 果たして、ジョージのスマホ端末は玄関にあった。

 どうやら、靴を履く際に戸棚に置きっぱなしにしたらしい。ジョージの忘れ癖はもはや病気だ。

 キュウン。

「あら、スクランブル」

 珍しく切ない声をあげ、足元にまとわりつくニホンオオカミ。

 可愛いわね。まったく。

 私のダディたちは、どうしてここまでキュートなのだ。

 ピンチに私を守れるのかしら?

 などと、思いながら、スクランブルの頭を撫でる。

 と、そのとき。

「あ」

 スクランブルがその名の通り、突然、走り出した。

 目指したのは、玄関のドアの隙間。

 気が緩んだ先に、まさしく急発進して、部屋から飛び出した。

 私はあわてておいかける。

 それにしても素早い。

 部屋にいるときの、のんびり寝そべっている態度はどこにいったのだ。

「こら、待って!」

 私もドアを開けっぱなしで、追いかける。


 スクランブルは、一気に廊下を走り切り、非常階段を駆け降りた。

 私の部屋は地上12階。

 しょせん、動物の頭脳か。

 私は、エレベーターに飛び乗り、先回りして1階を目指す。

 人間様を甘く見ないでね。と自慢げだった私だったが。


 すべてにおいて甘かった。

 スクランブルは、すぐに1階には降りてこなかったのだ。

「もぉっ。あのオオカミ。なんでそんなところに頭が回るのよっ」

 あわてて、非常階段を1階から、駆け上がる私。

 再び、その隙を突かれた。

 私が非常階段を登ろうとしたとき。

 その油断した隙に、今度はエレベーターの影から走りだすスクランブル。

 見事な時間差の脱出劇。

 スクランブルは、セキュリティードアを一気に駆け抜け、外へと走り出す。

「どうした?ひろみ。顔が青いよ」

 ジョージが私に駆け寄ってくる。

「スクランブルが逃げ出したの。一緒に捕まえて!」


 数分後。

 わたしたち2人の追跡の成果か、スクランブルが立ち止まった。

「やっと観念したか」

 横断歩道のど真ん中で、スクランブルはうずくまった。

 私は肩で息をしながら、横断歩道を渡り、スクランブルを抱き寄せる。

 無事、つかまえた。

 思わず、安堵のため息をつく私。


「危ない!ひろみ!」

 不意に、ジョージが叫び声が周囲をつんざく。


 私の最後の記憶は、私めがけて迫ってきた10トン級のダンプカーの姿だった。

7.悲劇

 私の意識が戻ったのは、10日後だった。

 気がつくと、両腕に刺された点滴と機械類に繋がれて、私はベッドに横たわっていた。

 体のあっちこっちがズキズキと痛む。

「気がついたわね」

 そこにいたのは、ヒナ・マッカートニーだ。

「どうしてチーフが?」

 なんとか声を絞り出す私。

「通勤中の事故だったからね。一応、あなたの保護者は私になるの」

 事故?

 ああ、そうか。私は交通事故に巻き込まれてしまったんだ。

 キュウウン。

 足元で拗ねる子犬、、、もとい子オオカミの声。

「スクランブルは無事だったのね」

 ほっと一息をつく。

 そういえば。

 ジョージは、あれからどうしたんだろうか?

「・・・チーフ。私、面会制限がかかっているんですか?」

 言葉を変えて、聞きたいことを確認してみる。

「今まで制限がかかってたけど、あなたの意識も戻ったことだし、すぐ解けるでしょ」

「よかった。ジョージに会えるわね」

 チーフは答えなかった。

 ああ、そうか。ジョージについて、チーフは何も知らないんだっけ。

「チーフ。私と一緒にいた金髪の青年は、どうしているんですか?」

 それでも答えないチーフ。

 まさか。そんなわけないよね。

 不安が頭の片隅をよぎる。

「あの・・・チーフ?」

「あなたをかばった青年は、とりあえず意識はあるわ」

「とりあえず?」

 また、妙な言い回しをする。

「どういうことですか?」

「今は怪我の治療に専念してほしいの。あなたが立てるようになったら、彼に会わせてあげるわ」

8.ジョージとの再会

 3ヶ月後、私は仕事に復帰した。

 私が不在の間の担当者から引き継ぎを済ませ、HANAに向かいあう。

 なぜか、チーフも同伴する。

 ひっかかる。私はまだ、ジョージに会えていない。

「やあ、ひろみ。元気にしてるかい?」

 起動したHANAから、声が届く。

 ただただ、驚いた。ジョージの声だ。

 頭が一瞬混乱する。

「あなたたちを出くわした交通事故で、ジョージの肉体はバラバラに潰されてしまったの。とっさの判断がよかったので、HANAを使った魂のサルベージに成功したわ」

 それは偶然かな、私が実用化寸前まで研究していた技術だった。

 この3ヶ月で、それを完成してしまうチーフって一体何者なのだ。ただただ、頭が下がる思いがする。

「すまない。僕の肉体も復元する予定だったんだけど、もともと病気に犯されていたから、復元のストレスには耐えられなかったんだ」

 私は涙が流れた。

 彼は事実上、触れることもできない世界に逝ってしまったのだ。

 話ができたとしても、そこに愛は存在できるんだろうか。

 あの温もりは、2度と帰ってこないのだ。

「ひろみ。あなたに選択肢をあげるわ」

 チーフが硬直する私の肩に手を置いた。


「彼にこのまま、HANAの中でデータとして永遠の時間を生きてもらうか。

 あるいは、とある生命に魂を移して、人間以外の人生を歩んでもらうか」


 こんな命の冒涜を許すのか。一瞬、のどもとまで込み上げた。

 答えは決まっている。わかりきっている。

 決心した私はチーフに告げる。

「たとえ姿が人間じゃなくても、人は人を愛せると思うんです」

9.悪魔の研究

 結論からいうと、魂の移植手術は無事成功した。


 ジョージは、スクランブルに移植された。

 あと2年の命だった彼のことを思うと、それでも健康な肉体に戻れただけでも、幸せというべきか。思いは複雑だった。

 願いはかなった。ただ、現実を目にして後悔した。

 この研究の素案を作ったのは、この私自身だ。

 この悪魔のような技術を作ってしまったのは私だ。

 言語の発音がうまくいっていないので、その技術が確立するまで、しばらくジョージは狼の吠え声でしか言葉を扱えない。

 わんわんとだけ声をあげる彼を、私はせつない気持ちで見つめていた。

 罪の意識に苛まれた。

 たとえ触れられたからどうだというのだ。

 私のエゴで今度は狼として生きることになってしまったジョージ。


 そこへ。ひとりの少女が私を訪れた。

 それが、チーフの一人娘、エリザベスだった。

10.エリザベスの提案

 少女は、研究所のカフェで黄昏れる私に、缶コーヒーを差し出した。


「ひろみさん。あなたとジョージの人生にチャンスをあげようと思うの」

 5歳の少女がいえる含蓄ではない。

「彼を貸してくれない?」

「え」

 なかなか笑えない私に、エリザベスは携帯電話を差し出した。

 それは、50年前、世界を変えてしまった名作スマホのシリーズ。

「この携帯電話、改造してみたんだけど、うまくコントロールできなくって」

 そりゃそうだ。

 話を聞いて、驚いた。

 開発中のHANAと時間を超えて同期する魔改造を、スマホに施してしまったらしい。

「で、支援システムがいるのよね。ただ、普通のじゃあ、スペック足りなくて。

 そのお手伝いとして、ジョージさんをペアリングしたいの」

 確かに。

 ジョージの魂を取り込むとき、スクランブルをかなり改造した。

 HANAのテクノロジーを流用したことは言うまでもない。

 つまり、このスクランブルはHANAのインターフェースとして、理想の存在である。

「あ」

 私は気づいた。 


 ジョージのおかげで、私の研究が完成していた。

 求めていた最後のピースは、時を超えてもHANAに寄り添うパートナーの存在だったのだ。


 エリザベスは続ける。


「私は、また48年前に行こうと思うの。そして、その時代にジョージさんを置いてくる。愛が本物なら時を超えて、きっとあなたたちは再会できる。

 あなたの行動が愛なのか偽善なのか、賭けてみたいとは思わない?」

エピローグ

 私の名前は、スクランブル。

 人間の頃はジョージと呼ばれていた。


 今、私はユグドラシル研究所のカフェで待っている。

 ひと仕事終えて、スタンプとともに休暇を楽しみにきたのだ。


 エリザベスのもとで、プログラムのアップデートを済ませ、悠久の時間を旅した私。

 クサカベ夫人のお手伝いをし、スタンプに託されて。

 最後に、私はひろみと再会を果たした。

 ひろみは、この2050年、自分だけのラボを持って研究に勤しむ毎日だ。この時代へは、スタンプと一緒に時間を超えたらしい。


 HANAは時間を超越した通信機能を持っている。この時代にいても、頼りたい時は、自由にその機能を活かせるだろう。


 それに私はこの時代が気に入った。

 歴史あるNAGASAKIが残る最後の時代だからだ。


 今、私は、ここでスタンプからの無茶振りにひたすら答える。

 つい先日も、マッカートニー家のご先祖に手を貸した。

 まったく、この男ときたら・・・ため息ばかりがついて出る。


「scramble2070は一言で言うと、いったいどういう仕組みで動いているんですか?」

 ラボの中心メンバーのひとり。クサカベがひろみに問うたという。


「愛が動かすコンピュータよ。作った私がいうんだから間違いないわ」


 いつも思いは走り出す。急発進するかの勢いで。


(思いはいつでも急発信っ! 了)

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