「200字の書評」(291・292) 2021.4.10
お早うございます。今朝の太陽は輝いていますが、北風が吹きつけています。
光陰矢の如く、時間が飛び去って行きます。如何お過ごしでしょう。
「まん防」と言われたら、大海原をゆったりと漂うマンボウか北杜夫の「どくとるマンボウ航海記」が思い浮かびます。真顔で、これを口にしているのが大臣や専門家だったら笑い話にもなりません。コロナ対策はこんな緩いことばが飛び交う程度のことなのでしょうか。ワクチン開発の遅れは数年前まで開発を続けていた研究者によると、研究費の申請を政府が認めなかったからだそうです。地道な研究を軽視し、即成果を求める姿勢はコロナ敗戦を招いているのではないでしょうか。
大音量の派手なスポンサー車を先頭に、群集を集めて強行される聖火リレー。果たして正当な行為なのでしょうか。オリンピックそのものの是非が問われているのに、なぜ?と疑問符が付きます。聖火リレーそのものは、オリンピック発足当時からの伝統ではなく、ベルリンオリンピック時のナチスの国威発揚の発想から始まった形態なのです。戦車兵だった父が昔語っていました。ドイツは聖火リレーを理由に道路状況と距離を測ったんだ、それを進軍のために使ったのだ、と。
そこのけそこのけ、オリンピックが通る!!!
財政負担は?コロナ蔓延は?
さて、今回の書評は新年度開始に当たって、奮闘中の諸兄姉に敬意を表して2冊にしました。
神崎宣武「旅する神々」角川選書 2020年
神代から人の時代に移る頃の神達は、実によく旅をする。古事記を神達の旅から読み解いてくれる。大国主は5つの名前を持ち、倭姫命は天照大神の鎮座する地を求めて30余年もさすらう。本書の主人公たちの彷徨は、大和王権の征服譚とその正当性を、天津神の旅に仮託したものであろう。興味深いのは、桃太郎伝説に比定される、吉備津彦の物語である。ナマハゲなど後世の異形のいで立ちは神々の後身として、民俗学的重要性を持つ。
坂井孝一「源氏将軍断絶―なぜ頼朝の血は三代で途絶えたか」PHP新書 2021年
頼朝以後の頼家、実朝の悲劇の裏に、幕府内部と朝廷の思惑があり、武家政権成立の過程での試行錯誤があった。幕府正史「吾妻鑑」には北条氏への配慮と潤色があり、「愚管抄」など文書類を精査して実態に迫る。実朝は和歌と蹴鞠に長じて軟弱とされるが賢君であり、それらは政治のツールであったとする。実朝は次期将軍に後鳥羽上皇の親王を任ずる構想を持ち、それが源氏将軍断絶の姿だと提起する。教科書的な鎌倉幕府観を覆される。
【卯月雑感】
▼ 桜の花びらが風に舞っています。入学式にはつきものの桜が散りかけ、付き添いは一人だけという学校が多いそうです。
花見は桜。でも古代から中世にかけて、花とは梅のことでした。 桜を愛でて、咲き誇る桜花の下で酌み交わし語り合う時間は、何ものにも代えがたい風情なのでしょう。
桜が重んじられるのは、武士の時代になってから、という話を聞いたことがあります。爛漫さと散り際の見事さの落差が、命のやり取りをする彼らの美意識に沿っていたのでしょうか。
そこで桜2題。
その1 以前新座団地に住んでいたころ、桜の老木が鬱蒼としていました。盛りには街灯の明かりに照らされ、団地内とは思えずちょっとした花見の名所でした。それに誘われて夜桜見物を楽しみました。 嫣然と咲き誇る桜は、ほのかな明かりを浴びてそれはそれは美しかった。妙に官能的で「凄絶」の一言です。
その2 思い出をもう一つ、1960年代大学受験の頃です。下見に行った時、驚いたことに構内にずらりと机を並べ学生が座っていました。机の前に合格電報と書いた紙を垂らした、合否確認の連絡バイトです。学部と受験番号を聞いて、発表当日掲示される番号を確認し合否を電報で知らせるのです。代金は覚えていません。携帯電話などなく、固定電話さえそうそう普及はしていない時代。地方からの受験生は、合格発表まで東京滞在は出来ません。夜行列車で上京し、複数校受験してから夜行列車で帰郷します。私のように東京の親戚に寄留する人もあれば、本郷あたりの旅館に泊まっていた友人もいました。
電報に「サクラサイタ」とあれば合格。「サクラチッタ」は涙でした。桜にはそんな思いもこめられていた時代がありました。
▼ 福島原発事故により増え続ける汚染水の海洋放出が決定されました。トリチウムを含む汚染水で大海原を汚してよいのでしょうか。環境基準以下に薄めて放出すると、政府・専門家は行っています。いくら薄めても物質の総量は変わりません。漁業者だけでなく、消費者も自然環境で暮らすすべての生命に影響が及びます。罪深いのは原発であり、原子力政策に固守する原子力ムラの醜悪さです。
▼ ミャンマーの国民虐殺は止まりません。一説によると国軍兵士は興奮剤を服用して殺戮しているそうです。国際社会はもっと強烈な批判をすべきです。我が政府の微弱なメッセージは何でしょうか。利権構造に浸かっているのでしょう。
<今週の本棚>
竹内洋岳「下山の哲学」太郎次郎社 2020年
「14サミッター」とは8000m峰14座すべてに登頂した登山家に与えられる称号だそうです。彼は日本初のそれです。彼は言います。頂上についただけでは登山とは言わない、無事に下山するまでのすべてを言うと説きます。事故は下山途中で起きやすい、余力を自分で測り、たとえ頂上目前であろうと撤退する判断を大切にしている。14座に挑んだ実際を、何度も遭遇する命の危機と登山の裏表を隠すことなく記している。
季節の移ろいは自然との対話です。先日高麗川沿いの河川敷で鶯の初鳴きを聞きました。皆様のご健康を願いつつ。