「200字の書評」(297) 2021.6.25
こんにちは。
先日は二十四節気のひとつ夏至でした。昼間が一番長い日です。これからしばらくは日暮れが遅くなり、朝日は早く顔を出します。季節は巡るのに政治は停滞、いやギアは後退に入ってアクセルが踏み込まれているようです。オリパラはなりふり構わず強行、一度立ち止まって総括しながら進むという安全装置はついていないことが明白です。会場の上限は1万人と言いつつ、それに倍する五輪貴族とファミリーとスポンサー殿が跋扈しそうです。酒の提供もあるとか、飲食業界と息抜きのできない庶民の嘆きとは無縁の世界が展開されます。批判の高まりに酒の提供は無しになったようです。独占販売のアサヒビールはがっかり。コロナ蔓延は必至。復興五輪、人類がコロナに打ち勝った証などではなく、「亡国五輪」「黄昏五輪」が現実化します。
さて、今回の書評はリニア新幹線の計画の本質についてです。静岡県知事は工事による水源枯渇に危機感を抱き、反対している。著者は元東大全共闘議長、当時は物理系院生であり、その優秀さは将来の東大教授に擬せられていた。大学を追われ、独立研究者として道を全うしています。
山本義隆「リニア中央新幹線をめぐって―原発事故とコロナ・パンデミックから見直す」みすず書房 2021年
国策化されたリニア中央新幹線事業自体に、パンデミック下の社会の基本的在り方が問われている。人口減少と経済の縮小が進む中での強行は採算、環境、技術面から無謀さが証明される。在来線の数倍の必要電力は原発新設が前提で、原発メーカーとゼネコンが待ち望み、巨大な利権構造が成立する。走行中の事故対策も不安視される。経済成長と科学技術先進国の幻想と見果てぬ夢の行く末は何処か。狭い日本、そんなに急いでどこへ行く。
【水無月雑感】
▼ 五輪に関して、専門家集団が提言を発表したが、政府、組織委員会はほぼ無視でした。この提言は遅すぎ、緩すぎの感じがします。疑問1、水面下で政府とすり合わせがあったのでは、疑問2、政治的には大勢が決まってからでは遅すぎる、疑問3、終了後にパンデミックが現実化しても、あの時専門家は警鐘を鳴らしたという御用学者たちのアリバイづくり。などなど、すべて開催ありきが見え見えです。
▼ 宮内庁長官は記者会見での発言で、オリパラに関し天皇がコロナ感染について憂慮している旨の感触を得ている旨の、発言をしました。政府・組織委員会などは通り一遍の反応で、軽く済ませようとしています。戦前なら「宸襟を悩ませたまい、恐懼に堪えません」と恐れ入るシーンです。天皇夫妻は国民の健康を気遣い、心悩ませている、と遠回しに伝えたかったのであろうと受け止めるのが、要路にあるものの姿勢だろうと思います。
▼ 友人からの便りで、子どもの貧困が深刻化していることに、強い危機感を書いてきました。G7、OECDなどのメンバーで、先進国ぶっている我が国の足元では貧困化進み、富めるものと持たざる者の差は絶壁のようです。本当に先進国なのでしょうか。
<今週の本棚>
内田樹「日本習合論」ミシマ社 2020年
自分が何故内田樹に惹かれ続けるのか、それがよく分かった一冊です。彼は言います。
共感を覚えました。私は性格的に非主流派であると思っています。たまたま主流に近い立場にいると、どうも居心地が悪い。己を抑えて同じメロディーを奏でねばならないのは精神衛生上、よろしくない。前任の富士見市時代には政権交代後の方が周囲を見渡しての仕事の運び方、人間関係の構築など動き方が、いかにも自分らしかった。そんな実感が、ウチダ先生に親近感を抱く所以かもしれません。もちろん頭脳も見識も立ち居振る舞いも遠く及びません。太陽の前の蛍でしかないのは承知です。
田中英道「実証 写楽は北斎である」祥伝社 2000年
わずか10か月だけ存在し、浮世絵界に鮮烈な印象を残して消えた写楽。何者であるのか諸説乱れ飛んでいる。阿波の能役者斎藤十郎兵衛説、山東京伝説などあまたの説が唱えられ、未だに決着はついていない。著者は作品そのものの特徴形状から謎解きをしていく。膨大な作品が本書中に示され、浮世絵は勿論江戸文化史の眼を養うにも好適。
ワクチン接種がぼちぼち進み始めました。まだ油断はできません、どうぞご健勝でお過ごしください。