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泳げないし、光らないクラゲ―「夜のクラゲは泳げない」第1話感想

総評

映像が美しく演出も見応えがあった。
夜の渋谷の、ざわめきと、ぼんやりした自分と、闇と、キラキラ。まるでクラゲ漂う夜の海のような画作りになっていた。

反面、エモい台詞だけが先走っている感がある。
キャラ同士の衝突や良い台詞に至るまでの積み重ねが足りないように思う。

エモさに至るまでの

たとえば歩道橋で花音がまひるにイラストを頼むシーン。
友人に頼まれたプリクラの絵は普通に描けるまひるが、プロフィール画像のクラゲひとつ描くのにそこまで強く拒否するのはなぜなのか。
「海月ヨル」として名前を出した上で今後の活動にイラストレーターとして協力してほしい、と言われたならわかるが……
今のところ「あなたの絵が好きだからアイコン描いてほしい」というだけなのである。
出会ったばかりの人間同士がここまでお互いに強く衝突するほどの出来事は起きていない。

ドラマよりエモい台詞が先行してしまい、その結果声優の演技もあまり乗れていないように感じた。

(追記)
見返して、このシーンで花音はまひるをJELEEに勧誘していたんだとわかった。
でもこれから一緒に活動していこう、という話だったかは読み取れなかった。
アイコンとかイラストを描いてほしい、というのと、一緒に活動してほしいというのはまた別である。
まひるが「アイコンくらいなら描いてもいいけど……」とかでもなく、初めから「無理」は拒否反応がオーバーに感じる。
花音の「まひるって案外普通なんだね」も、なんで急にそんな嫌味を……と思う。
やはり台詞の唐突さは否めない。

現実は厳しいけど優しさもあるはず

それから、重要な要素である「クラゲの壁画」について。
主人公まひるが小学生のころ絵画教室で描いた絵が選ばれ、実際の制作もまひると友人の2人で行った。
まひるの絵描き名義「海月ヨル」の投稿を見ると、「#渋谷落書き防止アート」と書いてある。
つまり自治体の取り組みの一環なのである。
このような取り組みは実際にも行われている。(記事参照)

アートを描くことで落書きを描けないようにしよう、ということなのだが、まひるの描いたクラゲの壁画には、ひどいことに上から無数に落書きされてしまっている。
まひるが筆を折った原因のひとつは幼馴染たちの「変な絵だから上から落書きしちゃお」という最悪発言だが(まひるが絵画教室行ってることくらい知ってただろうに初見で全くまひるの絵だと思わずこの発言……今もつるんでるならクラゲ好きということも知ってるのでは?)、もうひとつはこのクラゲの壁画への落書きだ。
このまひるのトラウマの根本にあたるところであるが、ここに至るまでに、周りの人間が少しだけでもなんとかしてあげなかったのか、と思う。

小学生が頑張って描いた絵が落書きされまくって、近しい人にも否定されて、そんなのトラウマになるに決まっている。
親は、一緒に制作した友人は、渋谷区は、何もしてあげなかったのか。
小学生に描かせるだけ描かせて、あとは落書きされても放置、とはさすがに冷たすぎないか。
たとえば、落書き被害に対応したけどすべては消せなかった、代わりに怒ってくれる人もいた、何ならそのことがまたニュースになって騒動になった結果よりトラウマが深まった、くらいの裏付けがあってほしかった。

路上アイドルと光らないクラゲ

さて、このクラゲの壁画の前で自称アイドルのみー子が路上パフォーマンスをするのだが、それにまひると花音がキレる。
「これ以上私の好きなものを汚すな」
という主張だが、ふたりとも、急にみー子にだけ怒りすぎではないだろうか。
たしかにみー子は自らのポスターを壁画にペタペタ貼り付けており、リスペクトは感じられない。
しかし映える場所としてここを選んだのであり、花音がみー子に「クラゲの絵が描いてあるだろ!」と怒るが、みー子はポスターにきちんと「場所:クラゲの壁画前」と書いている。
元の絵にリスペクトはないが、クラゲの壁画だとわかっており、映える場所として好意的に評価しているのである。
少なくとも上から落書きをした連中のほうがよっぽど酷い。

その後、花音が作詞したアイドル時代の曲「カラフルムーンライト」をみー子が路上で歌うのだが、これにもまひると花音がキレる。
しかし、みー子のパフォーマンスを見ると、きちんと歌詞も音程も完璧に歌いこなしていて、リスペクトがないようには見えない。
炎上で引退したアイドルの持ち歌なので「ちょっとネタ曲になっちゃうんですけど」と前置きはしたが、曲に対して馬鹿にした感じは一切なく、何ならわざわざハロウィンという大事な日に選曲するくらいこの曲が好きなのでは、と思ってしまう。
それなのに「汚してんじゃねー!」は明らかに言い過ぎである。
花音の思いが詰まった曲なので感情的になるのはわかるが、みー子が二人の中で悪者扱いされすぎだ。
まひるが剥がしたあのサイズのポスターは、けっこうお金がかかるのだ。

まひると花音が、路上で歌ってるような自称アイドルなんてと、はなっからみー子を見下しているというふうに自分には映る。

まひるはその前にも、量産型だったり、普通の会社員だったりを下に見ている様子がうかがえる。
会社員の姿を思い描いては、「そうはなりたくない」と言う。
果たして、普通の会社員はダサいのだろうか?
イラストレーターや歌手の方が人間としていい職業なのだろうか?

夢を持ち、輝きたいと願うのはいいが、輝かないものもいるから世界は成り立っている。
「輝かないもの」を否定し、「そうはなりたくない」がために輝きを求めるのは、修羅の道だ。

泳げないし光ることもできないクラゲは不幸だなんて思わないでほしい。

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