ティースプーン一杯
母のいれる紅茶はほんのり甘い。隠し味にティースプーン一杯の砂糖が入っているから。紅茶が渋くて飲めなかった私のために、母はいつもそのティースプーン一杯を欠かさない。
たまに実家に帰ると、母は必ずその紅茶を出してくれる。しかし、その日はいつもと違って少しも甘くはなかった。母に声をかけようと台所を見ると、少し丸まった母の背中。母はこんなに小さい人だっただろうかと、ふと思う。小柄な人ではあったけれど、幼い私にはもっと大きく見えたのに。
「お母さん、」
「何?」
振り向かず応える母の声は変わらぬままなのに、背中だけが小さくなった。
「ううん、何でもない」
ティースプーン一杯の、母の愛情。
私のティーカップはもう満タン。
あふれるほどに、もらったわ。
次は私の番ね、お母さん。