江間陽翔
眠れない日が来る。誰にでも来る。不安に塗れてだったり、怒りを堪えてだったり、自分にもわからずだったり。深呼吸して羊を数えて、やっぱり眠れない。返信のないあの人は今何をしているのかしら。ごろりごろりと寝返りを繰り返して、5分おきに開くスマートフォン。こんなことをしているから眠れないのだろうけれど。 抱える苛立ちと不安を吐き出すこともできず、数えた羊に乗せる。隅から隅まで、私の頭は羊でいっぱいね。眠れはしないのだけれど。白み始めた空を見て、少しの焦りと共にスマートフォンを胸に
墜つる星もないこの世界で、君が生きると言うものだから。 僕も生きねばと、思うのだよ。 君を1人にはしまいと、君を堕としはしまいと。 僕は星にはなれないけれど、ここから君を見上げているから。 1人ではないと、知っていておくれ。
早く返信してよ、既読ついてるのは知ってるんだから。私を無視して他の子と遊んでるストーリー。一言くらい返信してくれたっていいじゃない。アプリの通知を見ては君かなって期待するのも。君のストーリーに返信して会話しようとするのも。もうやめたいね。君にとっての私は数多い雑草のどれかなのに、私にとっての君は人生で一番綺麗な薔薇の花。トゲだらけで触れようとする度傷つけられる。小さなかすり傷は積もり積もって、埋まらない穴になったよ。24時間経って来る返信とか、話すときの無表情とか。何度も何
君が21グラム減った。たったの21グラム。だけれどなくてはならなかった、21グラム。それは、君を離れて、どこへ行くのだろうか。天国かな。宇宙の果てかな。きっと地球以外のどこか。でも地獄じゃないね、だって君はとっても優しかったから。 空を見上げて君の21グラムを探す。僕の見渡せるところにはいないかも。大気圏を超えて、宇宙に行ってしまったかな。宇宙はどんなところだろう、いつか教えておくれよ。またたく星空も、照りつける太陽も、きっと宇宙では違う何かなんだろう。いつか必ず、教えて
母のいれる紅茶はほんのり甘い。隠し味にティースプーン一杯の砂糖が入っているから。紅茶が渋くて飲めなかった私のために、母はいつもそのティースプーン一杯を欠かさない。 たまに実家に帰ると、母は必ずその紅茶を出してくれる。しかし、その日はいつもと違って少しも甘くはなかった。母に声をかけようと台所を見ると、少し丸まった母の背中。母はこんなに小さい人だっただろうかと、ふと思う。小柄な人ではあったけれど、幼い私にはもっと大きく見えたのに。 「お母さん、」 「何?」 振り向かず応える母
君は忘れてしまったかも、僕を傷つけた、何気ない君の言葉。君は知らないだろう、失望し、涙した僕の心を。どちらが悪いなんてきっとなくて、僕も君も同じくらい悪かった。君が僕を傷つけたように、僕もたくさん君を傷つけた。知らず知らずのうちにだったり、傷つけるとわかってだったり。けれどそれは、同じ傷ではなかったから、分かり合えなかった。同じ痛みを背負って生きられたら良かったのに。そうすれば、もっと一緒にいられたかもしれないのに。 君に素敵な言葉を何一つあげられなかったことを、今でも後
嫌なことが続いた。忘れ物をしたり、大事にしていたアクセサリーを失くしたり。そんな時はお風呂に入る時間が長くなる。ぽつりぽつり、嫌なことを並べ立てては肩を落とす。じわりじわりと目に涙が滲んできた。バスボールを風呂に沈めてひと息。オレンジの良い香りがし始めて、手を離すとぷかぷか浮かぶ指人形。幼き日にテレビにかじりついて見ていたあのキャラクター。君は愛と勇気だけが友達だって歌っていたけれど、愛も勇気もない僕は、どうやって生きていこうか。大人になったら愛が何かわかると思ってたし、勇
母の香りが好きだ。 まだ母と同じ布団で寝ていた頃、母にぎゅっと抱きつくとおそろいの香りがするのが嬉しかった。同じシャンプーと、石鹸と、柔軟剤の香り。大好きな母とのおそろい。でも、やっぱり母の香りは特別で、やさしいやさしい愛の香りだった。 弟が生まれて、母の香りを独り占めできなくなった。弟が母と一緒に寝るようになり、布団の香りは寂しい香りになった。ひとりっきりの布団で私は孤独な王様。母の香りがしない夜の闇が苦手で、くまのぬいぐるみを抱きしめて眠った。母とは違う優しい香りに
小さい頃はくだらない悩み事で頭の中がいっぱいだったように思う。その頃の自分にとってはとても重要だったけれど、今となってはくだらないこと。小さな石ころが積もり積もって私の頭を埋め尽くしていた。しかし、大人になるとそうはいかなくなってくる。鉄の塊が頭に詰まったように、悩む時の頭が重い。迫られる決断の多さと責任に嫌気がさして逃げたくなる。幼き日はこんな風にくだらないことに悩み続ける人生で良いものかと思ったけれど、大人になると案外くだらないことに悩む暇なんかない。 自分のことや人
はじめまして、江間陽翔と申します。noteに初投稿してから3週間ほどが経ちました。noteがどんなものかよく知らず知人のすすめで何気なく始めたのですが、初投稿は自己紹介を行う方が多いようで少し失敗したかなと思っております。 職業は会社員で、現在は比較的都心の方に勤めています。江間陽翔は本名とは一文字も関係ないただのペンネームです。noteに投稿を始めたきっかけは、幼少期からの夢だった小説家の真似事をしてみようかと思ったことでした。高校、大学と世間一般で見ればそこそこ良いと
友人が髪を伸ばし始めた。ずっとショートヘアにしていたあの子の髪が私より長くなる日が来るとは思わず、妙な気持ちだ。変わらない人間なんていないのに、少し外見が変わっただけで自分の知らない人になってしまったような気がする。本当に身勝手な生き物だとわかってはいるのだけれど。彼女が髪を伸ばし始めた理由をひとりで様々に考える。今の恋人の影響か、数ヶ月前に始めたスポーツのためか、私は何も知らない。知っているようで、実は何も知らない。寂しさとは違う、複雑な気持ち。彼女の本質が変わったわけで
男は何でも屋だった。殺しから浮気調査まで請け負う正真正銘の何でも屋。家も職も金も無くして、何気なく始めたのが5年前。初めはとにかくどんな仕事でもやった。何もせずに野垂れ死ぬのだけは御免だと思い、必死に続けた5年は意外にも実ってくれた。もとより警戒心の強い男にとって汚れ仕事は性に合っていたように思う。裏社会でもそこそこ名の知れた存在になってきている。こんな汚い人間にも神様は微笑んでくれるものかと、男は無神論者ながらに思っていた。 平穏な日常が崩れ始めたのは些細な仕事の失敗か
僕は毎朝バスに乗る。バスユーザーの方にはわかると思うが、雨の日のバスはとても混むものだ。バス停から駅前まで続く長蛇の列に、並んでいる人の顔がだんだんやつれてくる。バス会社にも運転手さんにも誰にも責任はないのだけれど、だんだんみんな疲れを隠せなくなる。通勤通学の朝という気分の乗らなさがそれに拍車をかける。 ついこのあいだもひどい雨の日があった。並んでいると足元もカバンもずっしり重くなり始める。目的地まで歩こうか迷うが、僕の足元は革靴。なんとも不運。そんなとき隣に並んでいた小
珍事件を目撃した。少女漫画でよく見る曲がり角でぶつかって恋に落ちるアレだ。僕が目撃したのはそこそこお年を召された男性2人のアレだったが。恋には落ちていなさそう。まさか本当にこんなことが起こるとはという驚きで少し笑ってしまった。どちらもお急ぎだったようでぶつかりそうだなとは思っていたがまさか本当にぶつかるとは。それにそんな綺麗なぶつかり方。感激である。あんな綺麗に人と人がぶつかる様は人生においてそうそうみられるものではない。彼らは決して良い気持ちではなかっただろうと想像すると
拳突き上げて マント翻して わたしはあなたのヒーローに ヒーローなんて夢物語 大人はそうわらうけれど 小さなわたしの心の中には いつもあなたが宿っていた 明晰な頭脳よりも強靭な肉体を 冷めた理性よりも燃える勇気を 手に入れて今、立ち上がろう 誇りを胸に守ってみせる 強大な力に負けそうでも 悪には決して屈しない あなたの瞳を輝かせるため ヒーローなんてなれやしない 人はそう言うけれど 信じて立ち上がったそのとき きっとわたしは誰かのヒーロー 盛大な喝采よりも轟々の非難
辛い時とか悲しい時、もちろん君の顔を思い浮かべる。話を聞いてほしい、会いたい、そんな気持ちが胸に溢れかえる。だけど、不思議なことに何もない日にもふと君に会いたくなる。その日あったこととか、ちょっと嬉しかったことを、君に言いたくなるんだ。次に会う日が待ちきれなくて、思わずメッセージを送る。 君と僕の間にあるのは、友情以上の何か。恋ではないんだ、それは確実にね。これはきっと、愛ってやつ。幸せも不幸せも、胸の中の名もない気持ちを、全て君と共有したい。 嗚呼、愛ってやつは、本当に