その中古マンション、耐震性は?
”その中古マンション耐震性は? 住んでいる人もこれから買う人も”
11月18日にNHKのクローズアップ現代で取り上げられていましたね。
都内、新築マンションが高価になりすぎて、中古マンションに需要が向いてるとの事。しかし中には1981年以前の”旧耐震基準”で建てられた建物も含まれており、耐震性が疑問視されているようです。
私は独立する前、耐震診断・補強専門の構造設計事務所で働いていた事があります。そこでは11年在籍し、学校から病院、マンションなど50棟ほど担当しました。(耐震設計も構造設計者にとって重要なお仕事です。)
その経験を基に、気を付けてほしい事、ここが危ないという所をまとめてみます。中古マンションを購入する際の参考にして頂ければと思います。
※コンクリート造メインでいきます。
①年代をチェック
1978年(S53)宮城県沖地震を契機として、1981年(S56)に建築基準法の耐震規定の改正を受けて、いわゆる”新耐震基準”が施行されました。
・1981年(S56)以前 ”旧耐震基準”
・1981年(S56)以降 ”新耐震基準”
この基準では、耐震性能の目標を以下のように定めました。
・震度5強程度 建物の構造耐力上主要な部分に損傷が生じない。
・震度6強以上 人命を確保するために建物の倒壊・崩壊をさせない。
実際、実務では、高さ方向の剛性バランス、平面的な剛性バランス、柱・梁の変形性能などを考慮して設計するようになった結果、大きな被害が大幅に減少しました。
では旧耐震基準の中古マンションを購入する場合、どのような注意が必要かを列記していきます。
②建物平面の形は?
まず配置図もしくは平面図を確認してください。
下絵右のように不整形な形の場合、建物の耐震性能(Is値)が低減されてしまいます。
このプロポーションを補強で直す事は出来ません。単純にペナルティーをくらってしまいますので気を付けたいです。
③壁の剛性バランスは?
図1のように壁が偏在していると、ねじれ振動を起こしやすく、建物の地震時挙動に不利に作用してしまいます。
また図2のように立面方向で、極端に壁が少ない=剛性が低い階がある場合、そこに大きな変形が集中し被害が大きくなってしまいます。
ねじれ振動を防ぐために左右対称に壁を設ける、壁が少ない階の壁量を増やすなど、補強量が増える傾向にあります。
④ピロティ構造(下層壁抜け柱)に気を付ける
新耐震設計法以前の古い建物の崩壊・倒壊原因は、柱の脆性破壊による層破壊、あるいは1階に耐震壁が少ないピロティ構造の1階における崩壊が顕著でした。
例に挙げると1階が駐車場で上が住戸のようなマンションがわかりやすいですね。
ピロティ構造の上に耐力壁があると、”下層壁抜け柱”に該当します。
地震時に1階ピロティ柱が損傷する可能性が高いため、耐震設計では重点的に検討をおこないます。
ピロティ以外にも下層壁抜け柱は存在しますので注意が必要です。
対応としては、間取り上可能であれば柱横に耐力壁を設けます。その他はRCや炭素繊維というもので柱を巻いて補強する必要が出てきます。
⑤極短柱(ごくたんちゅう)に気を付ける
この聞きなれない名前ですが、これも非常に厄介です。
簡単に言いますと”極めて短い柱”です。
定義は柱の幅Dに対して柱内のり高さhoが2以下のものをいいます。
例えば、柱幅60cm、柱内のり高さが90cmだとしますと、
90/60=1.5≦2.0より ”極短柱” となります。
地震時にはここに応力が集中して脆性的な破壊が生じる恐れがあります。
学校を例に挙げると、写真のように片側廊下で南面に教室の配置が横方向にが続き、間に階段室があります。よくある学校の間取りですね。
この教室と階段室に挟まれた柱で、極短柱が発生してしまいます。
原因は階段室の開口が踊り場からの高さ設定で、教室の開口と丁度いい感じにずれてしまうからです。
現地調査に行ってまず一目で、あ、ここが壊れるな、、と分かります。
対応としましては、柱横にスリットといって下り壁、腰壁と縁を切る作業をおこないます。防水等の影響はありますか、比較的簡単に補強が可能です。
⑥劣化に気を付ける
建物をよく調査しますとクラックであったり鉄筋が露出して腐食している事があります。
クラック(ひび割れ)は0.30mm幅未満は特には問題ないかと思います。特に表面がモルタル仕上げなどの場合は、それが割れているだけで奥の躯体はそれほどひび割れていない場合が多いです。
しかし、躯体表面でクラック幅が0.30mm幅以上の場合は、せん断きれつ、乾燥収縮、もしくは不同沈下等によるものか注意が必要です。
鉄筋の腐食が確認出来る場合は、コンクリートの中性化が考えられます。
コンクリート内部の鉄筋が腐食し、やがて破壊、爆裂といった形で表面に現れます。建物の耐久性に大きく影響します。
これらの事が実際に確認できた場合は、当時の施工不良の影響が強く、あまりお勧めしません。
⑥2次部材に気を付ける
2次部材とは仕上げ材や設備機器など、主要構造部以外のものを指します。
この調査が難しく、図面では耐力壁、しかし現場に入るとコンクリートブロックの壁だった!なんて事もあります。
中古マンション購入時に気を付ける事は難しいかもしれませんが、マンションの管理状況を入念に聞く事は重要かもしれません。
下の写真は便所の壁ですが、天井裏を除くと取付けが不十分でした。
地震時には容易に壊れやすく、注意が必要です。
その他にも、屋上にある高架水槽の脚部アンカーの取り付けが不十分であったり、モルタル仕上げが劣化して落下してくるなんて事も想定されます。
地震時に想定外の被害があるかもしれません。
⑦耐震性が高い中古マンションとは?
結局、こう羅列しますと中古マンションはリスクだらけではと思います。
しかし、その中でも比較的、耐震性が高い建物が存在します。
それは壁式鉄筋コンクリート造(WRC造)というものです。
コンクリート造の建物には実は2種類の構造が存在します。
・鉄筋コンクリート造(RC造)
・壁式鉄筋コンクリート造(WRC造)
鉄筋コンクリート造のは柱、耐力壁、梁、床で構成されています。
壁式鉄筋コンクリート造は耐力壁、梁、床で構成されます。
柱が無いのが特徴です。この構造はルート1といって壁量計算で建物の耐震性を確保しています。
特徴を列記しますと、
・基本的に上下階で壁が通っている。
・壁が多いため、剛性が高く変形が少ない。
・多少偏心しても変形が小さいので、与える影響も小さい。
です。
鉄筋コンクリート造は変形を許容して耐震性能を確保しようとしますが、壁式鉄筋コンクリート造は変形させず、耐震性能を確保します。
旧耐震基準の建物である場合、後者の方が安全性に勝ると考えられます。
⑧わからない時はお気軽に!
色々と書かせて頂きましたが、私の文章ですと分かりにくいかと思います。そのような時はお気軽にご相談ください。
わかる範囲でお答え致します。