花の雨

 こんなにも窮屈な街角に、彼女を見つけられた私は、幸運だったに違いない。
 遊具のない、その公園とも広場ともつかない場所で、彼女は慎ましく生きるように、半ばひっそりと咲いていた。私は、其処に誰もいないことを悟ると、静かにベンチに腰を下ろした。
 風は、ここ数日の冷たさが嘘のように暖かで、春の到来を告げるようだった。知らず知らずの内に自分の服装が薄手になっていたことにも、私は今更のように気が付いたのだった。
 太陽は、薄霞のような雲に隠れているが、それでも目映い。大輪の花束を抱える彼女を仰ぐとき、木漏れ日の眩しさが酸っぱいように目に染みる。私は、困った風に、それでいながら愉しそうに目を細めない訳にはいかない。半分閉じた眼の隙間から見上げる彼女の美しさと言ったら、菫色の空さえ遠慮しているように見える。
 彼女は眉間に寄せる無数の皺を刻んだような幹から、どうしてこんなにも無垢な花を咲かすことが出来るのだろうか。零れたはなびらは日差しの中を吹かれていく、喜びも悲しみも一緒くたにして許すようにはらはらと。………

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