いつか直接伝えたい

*今回はいつもの小説ではございません。自分の実体験でのお話です

2010/10/7 午後13時過ぎ

小学生の自分はこの時、東京にある病院に行こうと生まれて初めて一人で東京駅まで行きました。自分で切符を買い、何時間も新幹線に揺られて辿り着いた大きく広すぎる東京駅。案の定迷ってしまい、どうしようかと少し泣きそうになりながらウロウロしていると、そこに一人のお兄さんが声をかけてくれました

「君、迷子?」

年齢は(勝手な見た目だけで判断してます)30代ほどでしょうか。自分より大きな知らない大人の人に少し怯みましたが、なんとか声を出しました

「うん。あ、はい。えっと、どこに行ったらいいのかわかんなくて」

「そうなんだ。お父さんやお母さんは?」

「いない。僕一人で来たの」

「僕一人で?どこから来たのかよかったら教えてもらってもいい?」

「えっと、新潟県から」

「新潟!一人でよくここまで来れたね。じゃあ、どこの駅に行きたいのかな?それとも、東京駅から出たいのかな?」

「え….」

当時自分が知っていたのは病院の名前だけ。その病院がどこにあって、降りる駅はどこなのかなど何も知りませんでした。大事に握りしめたメモはその病院の名前と、ある看護師さんの名前だけでした

中身を伴わない突発な行動は無意味となる。今思えば愚かだったと思います

お兄さんの質問に答えられない事と、どうしようもなくなった気持ちが押し寄せて今にも泣きそうになってしまいました

「あの…..その…..ごめん、なさい」

「あー、泣かないで泣かないで。大丈夫、大丈夫。その名前の病院に行きたいんだね。待ってて、お兄さんが調べてきてあげるから」

その時に撫でてくれたお兄さんの手と優しさは今でも覚えています。会ったばかりの他人にこんなに優しくされた経験はありませんでした

「うん、うん。あのね!どうしてもこの病院に行きたいの!それで、聞きたい事があるから!お願いします!」

「うん、わかったよ。そのためにわざわざここまで一人で来たんだもんね。大事な用事なんだね、任せて」

その後、お兄さんは離れていきました。言われた通りその場所で待っていると

「ごめんね、待たせちゃったね。まずはこれ、飲みなよ」

そう言って渡してくれたのは、ファンタのグレープ味の缶ジュース

「ゆっくり飲んで休んでてね。その間に調べてくるね」

「ありがとう!….ございます」

ゆっくり飲みながらお兄さんを待って、飲み終わる頃にお兄さんが戻ってきました

「お待たせ、暇だったかな。でもその場所も行き方もわかったよ、案内するね」

「本当!?ありがとう!お兄さん!」

「いいよ、じゃあはぐれないように着いてきてね」

そうしてお兄さんは東京駅から電車に乗り換え、なんと目的である病院の前まで着いてきてくれました。お兄さんにも仕事や用事があっただろうに、非常に申し訳なかったです

「ここが君が来たがってた病院だよ」

「ありがとう、お兄さん!えっと、本当にありがとう!凄く凄く助かりました!あ、お礼….えっと、えっと。これ…」

自分はなにかお礼をしようと思いましたが、あまり手荷物も持っていなかったため、1万円札を取り出して渡そうとしました

「ははは、いいよそんなの。それは君の大事な帰りのお金じゃないのかい?それよりも早く行きな、聞きたい事があるんだろ?」

「でも」

「大丈夫だよ、ちょっと放っておけなかっただけ。本当なら君の親が着いてきてあげるべきなんだろうけど、そうじゃないみたいだったから。子ども一人でこんな所までなんて危ないからね。

帰りはここからさっきの駅までバスが出てる。時刻表は病院のお兄さんお姉さんに聞いてね」

「はい!えっと、何から何までありがとうございました!」

「うんうん、それじゃあ君も気をつけてね」

そう言って別れたお兄さんに手を振りながら無事に病院に入りました。名前も聞かずに何をしてるんだと今になって思います。ただ、あの時東京駅からずっと案内してくれたおかげで自分は本当に助かりました。もう一度お兄さんにお礼が言いたい。名前も知らない、姿も声ももうあまり覚えていないけれど

ありがとう

この気持ちだけはなんとしても伝えたい。毎回東京駅に来る度にふらりと見渡してみてもやはりわからない

あれから12年が過ぎます。あの時のお兄さん、小さかった自分はもう大人になって元気に働いています。もうあの時の姿はぼやけて思い出せないけれど、その優しさとファンタの甘いグレープ味は今でも大切な思い出として、頭に、心にずっと残り続けています

自分は結局方向音痴なままで、お兄さんみたいに誰かを案内なんて出来ないと思います。でも、貴方のように道に困っている人を助けてあげたい、何か力になりたい。貴方のような素敵な大人の男性に近づきたい、ずっとそう思っています



あの時、小さな自分を助けてくれた心優しいお兄さんへ

ありがとう、貴方の優しさに助けられました

どうか届きますように

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