時雨月
深夜の2時
雲が空を覆い、いつもに比べて闇の密度が濃い夜だ
10月になり、この時間は冷え込むようになった
外で鳴く鈴虫の声が静かな部屋の中にかすかに響いていた
「ねれねぇ」
そんな中、俺はなぜか目が冴えて寝れなくなっていた。眠いはずなのに目を閉じても眠れないのだ。俺の腕の中にいる温かい彼はとっくにすやすやと眠っている
こうなってしまっては起きていようかと思い始めてきた。幸いな事に明日は休みだ。たまには夜更かししてしまっても構わないだろう
そう勝手に決めつけると、ベットからこっそり抜け出してキッチンに向かった。少し喉が渇いたため、コーヒーでも用意して本を読もうか
音をたてないように静かに歩く。わずかな足音でも今の静かな部屋にはとてもよく聞こえる
ちょっと前まで彼と起きていた時の賑やかさとはうってかわった空間に少し新鮮さを感じる
コーヒーを用意して、以前に読み途中になっていた本を持ってベランダ脇にある小さな丸机と椅子の元に向かう
たまにここで二人で空を見上げながらゆっくり話したりするのだが、今日は一人で静かに過ごそうか
ふと空を見上げるが、分厚い雲が覆って星も見えない。窓ガラスに映る自分の顔がとてもよく見えた
「変な顔」
そう零して本を開いた
本は好きだ。いろいろな世界や考え、素敵な描写など勉強になる事も、新たな知見を増やせたりする
俺では考えられないような感情や思考に目を見張るのもよし、現実とはかけ離れた世界線を想像して楽しむもよし。俺をこことは違う世界に連れていってくれる
「まあこんな居心地いい場所から出ていくつもりはないけどな」
そんな独り言を真夜中だからと呟いてみる。どうせ誰にも聞かれやしない
コーヒーを少し口に含ませた。コーヒー特有の苦味と豆のコクとわずかな甘み。それを飲み込むと少し目が覚めたような気分になる
「少し寒いかもな、まあいいか」
外の冷え込んだ空気を感じて肌寒さを感じるも、長くいるつもりもない。眠くなったらまたベットに戻る
そのまま本へと意識を集中させた
それからしばらくして、ふと視界が明るくなったのを感じた。窓から空を見上げると、厚い雲に覆われていた空から切れ目が生じ、大きな明るい月が現れていた
暗闇に突如現れた眩い光に世界が照らされていく
大きな丸い月は闇を打ち消し、光を与えていく
「そうか、今日は中秋の名月」
綺麗な満月を見てちょうど今日がその日だったと思い出した。偶然とはいえ、いい物を見れた気分だ。起きててよかった
「彼にも見せてあげればよかったのに」
そんな事を呟きながら、また本へと意識を向ける。先程よりも字が読みやすい
「もう。こんな所で」
朝、僕が目を覚ますと珍しく彼がおらず、探すと窓際の椅子に座って眠りこけていた
おそらく本を読みながらそのまま寝てしまったのだろう。飲みかけのコーヒーも置いてある
「よいしょっと」
そう言って彼を持ち上げる。ベットまで戻してあげないと。このままだと起きたら体が痛くなってしまうし、冷えて風邪をひいてしまう
ベットに連れて布団をかける
「ん…..綺麗だな」
「…..なに?寝言?何見てんだろ」
そんな彼の少し微笑んでいるような笑みを見ながら、彼はどんな夢を見ているのか気になってきた
「今日は満月だって。今夜見れるといいね」
こっそり彼の頭を撫でる。よく寝るんだよ
月に照らされて何を想うか
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