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淡い光に咲く

赤、橙、黄

小さな光に照らされるその顔は

儚げで、優しくて、色気を感じた

ゴクリと、喉がやたらと大きな音をたててしまう

噛みついてしまいたい




8月も終わりを迎え、9月になったというのに残暑が厳しくまるでまだ夏真っ盛りのようだった。それでも、朝と夜は涼しい風が吹き、どこか過ごしやすい気温へと変化してきていた

そんな事を考えながらも、涼しい部屋から出る気の一切ない俺は、のんびりと仕事疲れを癒そうと彼に抱きつきながらテレビを見ていた

「テレビ見にくくない?」

「別に〜。テレビそこまで見てないし、この方が癒されるし」

「そっか」

そんななんでもない会話をしていると、テレビではどうやら花火の特集をやっているようだった。アナウンサー達が浴衣を着てお祭りの中継をやっていた

「そういえば、去年の約束覚えてる?」

「ん?……ああ、手持ち花火やるってやつか?」

去年の夏、夏祭りへと出かけた時にそんな約束をしたのを思い出した

「そうそう。花火買ったんだよね、どうせもう夏も終わるし、その前に二人でやらない?」

「いいぞ。河川敷ならやりやすいもんな。明日の夜やるか?」

「うん!浴衣も着よっと」

「それ、どうせ俺がまた着付けしなきゃいけなくなる…」

「お願いしまーす」

「やれやれ」

まあ、彼の浴衣姿がまた見れるならいいか

そんな風に考えて、少し明日が楽しみになった


次の日の夜、バケツと蝋燭、花火を持って河川敷へと向かうと案の定誰もそこにはおらず、川のせせらぎと夏虫の鳴き声だけが響いていた

「もう夏も終わったし誰も花火やってないか」

「まあまだいけるいける、9月の頭だもん。さ!やろやろ」

二人で浴衣を着て川の近くまで行く。さらさらと水の流れる音が大きくなってきて、チリチリと夏虫の声もすぐ近くから聞こえてくる

蝋燭を置いて火をつける。暗い河川敷が俺達の周りだけ少し明るくなった

「さて、何からやるんだ?」

「大きなのからいこう!僕はこの色が変わるやつ!」

彼が嬉々として袋を空けて大きく長めの手持ち花火を取った

「なら、俺は長く続くってやつにするか」

「勝負だね!」

「なんのだよ」

「どっちが長く花火が続けられるか!」

「ふーん、いいじゃん。じゃあ一緒に火をつけるぞ」

あまり興味はなかったが、彼がやりたそうにしているので仕方なく勝負に乗る事にする

二人で火を付けると、そこから次第に火花が出てくる。薄い黄色の花がパチパチと出てきた。彼のは勢いよくボーッと音をたてている

「わ〜、凄い凄い!」

「やっぱりいいもんだな、手持ち花火も」

そう笑いながら話しているうちに彼のは言っていた通り、緑、オレンジ、赤、白とどんどん色を変えていく。見ていてこれは楽しい

対する俺の方は黄色の花火がずっと勢い変わらずに出続けている。ふむ、確かに想像よりずっと長持ちするな

「あ、僕の終わっちゃった」

彼のは白の花火が終わるとそのまま火花が出尽くしてしまったようだ。まだ俺は勢いこそ落ちてきたが長く続いている

「ふふん、じゃあ俺の勝ちだな」

「でも僕の方が綺麗だったし楽しめたもん」

「はは、それは確かにな」


その後、どんどんと二人で様々な花火をやって楽しんだ。火花の出方もそれぞれ個性があり、途中で勢いが変わる物や煙を出さない物などたくさん工夫がされており、飽きはこなかった

そうして、花火も空になってきた。残るは線香花火のみだ

「線香花火はやっぱり〆だよね」

「そうだよな。これも勝負するか?」

「うん!やろやろ」

線香花火を用意すると、彼が先端の方を少し捻っていた

「何してんだ?」

「ん?こうするとね、長持ちするんだよ」

「へー、そうなのか。って、ズルいだろ。俺もやる。どこ?」

「ふふ、ここだよ」

彼がクスクスと笑いながら俺の持つ線香花火も捻ってくれた

「垂直じゃなくて斜めにするのもコツだよ」

「詳しいな」

「昔たくさんやったからね。好きなんだ、線香花火」

「ふーん」

線香花火は地味なイメージがあるから、どこか意外だと思った。彼はもっと派手な花火や先程の色がたくさんある花火の方が好みだと思っていた

「よし、じゃあ用意スタート!」

二人でまた火をつける

今度は先程とは違い、少しの間何も起こらなかった。先程まで賑やかだった河川敷も静けさを取り戻し、川のせせらぎや吹き抜ける清涼な風の音が心地よい

少しすると、パチパチと本当に小さな火花をたて始めた

火花の振動が持つ手によく伝わってくる。こんな小さな紙きれだ、火薬の量も少ない。俺はあまり線香花火が好きではなかった

「最初のこの状態をね、蕾っていうんだ」

彼がポツリと呟いた。小さな声だったが、静かな空間にはとてもよく聞こえた

「花が咲くみたいに火花が膨らんでいくのがいいよね。始まりって感じ」

花が咲く

彼のその表現を素敵だと思った。火の花を俺達が今、咲かせたのだ

すると、蕾からパチパチとたくさんの火花が出てくるようになった。振動も強くなり、少しプルプルと持つ手が震えそうになる

「これが松葉。今、蕾から花びらが出て咲き誇っているみたい」

俺の手の先に小さな花が今、輝きを放つ。ここの誰よりも強く光るその姿は、とても凛として美しかった

少しすると、パチパチとしていた火花がだんだんと下がってきた

「この状態を柳って言うんだ。さっきより元気ではなくなったけど、それでもまだしっかりと姿を示す姿が好きだな」

先程より輝きは落ちたが、それでもなお存在感を放つ花に生命力を感じた

次は周囲に弾けるように火花が散る

「これが散菊。最期だね、この瞬間が一番好きだな」

最後の力を振り絞ってより強く輝く花。線香花火をこんな風に見た事はなかったし、こんなに長く続いた事もなかった

「知らなかった。線香花火ってこんなに綺麗なんだな」

「そうだよね。まるで人の一生みたいだ」

チラリと彼を見ると、新しく線香花火に火をつけていた。暗い景色で隠れていた彼の顔や浴衣姿が線香花火の光でよく見える

赤、橙、黄

小さな光に照らされるその顔は

儚げで、優しくて、色気を感じた

ゴクリと、喉がやたらと大きな音をたててしまう

噛みついてしまいたい

浴衣からチラリと覗く彼の胸元が暗闇に白く映え、首元もとても色気を醸し出している

線香花火に夢中になっている彼の元に寄る

「ん?」

「ごめん」

「え?」

そう言って欲望のままに、彼の項にキスをした

本当ならこのまま噛みつきたいが、流石に理性が引き止めた。ここが外でよかったとさえ思う

「あはは、くすぐったいよ」

「…..」

そのまま彼に後ろから抱きついて項に顔を埋める

「甘えん坊だ〜」

「線香花火みたいにさ」

「ん?」

「線香花火みたいに、俺達も輝けるといいよな」

「…..ふふ、うん。でも、僕はもう充分輝いてると思うよ」

「もっとだよ、もっと!松葉なんかよりもっとド派手に輝けるよ、俺達なら」

「…..うん。そうかもしれないね!」



線香花火の先に、君は何を想うか


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