『三都メリー物語』⑤

日が暮れてしまうと11月でもやけに冷える。電車の中にいても扉からの隙間風で、そう感じる。座席に座っていると足下だけがやけに暖かくて電車の小さな揺れが眠気を誘う。
藤岡准教授は、東向日という駅で降りた。四条河原町の駅のホームで藤岡准教授は、なぜ私を抱きしめたのだろうか?
奥さんに離婚しましょうと言われて寂しかったのだろうか?  抱きしめたかったのは誰でも良かったのだろうか?
それとも、私だから抱きしめたかったのだろうか。そんなことはない、今日本屋で偶然会って一緒に帰って少し京都をぶらり出掛けただけで抱きしめるだろうか。そう思っているうちに、調度いい揺れに誘われ、浅い眠りにうとうととしはじめた。


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