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皆既月食の下で。

 皆既月食が始まった。なので、早く家に帰ってゆっくり夜空を見上げようと思った。
 ただ、その時間の月は東の空だったので、南向きのベランダからは見れないのだ。夜の8時か9時になると月も東と西の真ん中あたりになるのではないかと期待して自宅へと帰る。
 マンションのエレベーターで自分の家の階に上がって、共有の廊下を歩くと女性が立っていた。
「月を撮影しょうと思って」と、こちらが訊いていないのに照れた様子で言った。
「そうですよね、皆既月食ですもんね」と、笑顔で言いながら通りすぎた。
 内心、そこ、いい場所だなと思った。
 家に着くと、予定が入った。
 串かつ屋に行くことになった。
以前、居酒屋に行った際に前を通ってこじんまりしていていい感じの店だったので是非行ってみたかったのだ。
 自宅を出ると、月は一段と欠けていた。歩きながら眺める皆既月食もいいもんだ。
 サラリーマンの男性が皆既月食を撮影していた。
 駅に向かって行くと、中年の男性、若い学生、お年を召した女性方、バスの待機中の運転手さんもが皆既月食を撮影していた。
 こんな現象ってそんなにないことだなと目に焼き付ける。
 駅からホームに入って電車の中でsnsをのぞいてみると、みんな皆既月食に感動していた。中には、皆既日食であげている人が多い事にびっくりした。
 電車に乗って、ひとつ目の駅で降りると、広場では学生がグループで皆既月食の撮影会をしていたり、皆既月食を見ながらテイクアウトものを食べている人も結構いた。
 そんな光景を横目に、私たちは商店街から少し離れた路地に入った。小さな灯りが灯る看板。店の扉から漏れる店の明かり。
 予約なしで店に入ると、さっきまで月を見ていたのだろう、慌てて店の奥から出てきて若い女将さんが、
「大丈夫ですよ」と言った。
「じゃあ、このおまかせでお願いします」そんなに広くない、新しい店。それでも5年目らしい。近くの大手企業さんが、よく来られるとかで金、土は忙しいらしい。
 はじめの串かつが揚がるのに時間がかかった。その間、カクテルを飲む。つけたしをいただく。
 音楽がカバー曲で、聴き入ってしまう。
「よってしまったせいか、曲に聴き入ってしまいます」というと
「そうなんです。曲を聴いて、この後にカラオケ行く人が多いようですよ」
 手のひらの半分くらいの蓮根の串かつが揚がった。歯ごたえがあって美味しい。
 
 結局、お客はわたしたちだけだった。夜の7時から9時過ぎまでいた。

 店を出ても皆既月食が終わりに近かった。

 店の若い女将は、客が来て皆既月食がずっと見れなかった人、皆既月食を見ずに串かつを食べている自分達。外のベンチでコンビニで買ったおにぎりを食べながら見る人たち、それぞれの風景がそこにあった。

#日々の暮らし #日常
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#夜
#串かつ

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