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【小説】相手のことを知ると言うことvol.1

 ことごとく不採用だった。
健康診断で落ちたのもある。子供の頃の慢性中耳炎で左耳の鼓膜があ3分の1がない。生活には支障はないが、人のひそひそ話しが聞き取れないくらいだ。この聴覚検査でどうやら駄目だったところもあった。
 こんなにも不採用が続くと、自分の存在を否定されているようにさえ思ってしまう。
 見かねた大学の教授が、医大の研究室で手伝って欲しい仕事があるのでそこで働くのはどうだろうかと中里由麻に紹介した。

 鶯がの鳴き声が春の優しい日差しに緑の生える木々に響き渡る。
 中里由麻は、地下2階地上13階のベッド数500床の大学病院で働くことになった。
 白衣を着て地下で飼っているネズミのラットの世話や学会の論文のコピーをとる仕事。
「ごめん、これコピーお願い」そう言ってメモにドイツ語か英語か分からない横文字の代名が5つほど書いたメモを少し白髪が混じった七三分けの髪に眼鏡姿が舘ひろし風で落ち着いた男性の神崎先生は由麻に渡した。
 「はい、了解です」そう言ってメモを受け取ると、研究室の最上階の図書室に向かった。
 本棚が市の図書館のようにずらりと分厚い書物が並べられている。しかも皆百科辞典のように分厚い。係の人は、いるわけでもなく、各自で調べものをするそんな図書館のようだ。
「なに?これ、読めないよ」
「どうしょ」
 一人由麻は、ぶつぶつ呟いていると、
「君、誰?」
「内科の研究室で手伝っています、中里です」
「内科ね。宜しく」
「はい」と由麻が答えると、
「なに?何か探してたの?」白衣を着た若いメガネをかけた長身の男性が訊いた。
 由麻は、この人、何だかのび太に似てると思った。
「このメモの本です」そう言って論文の題名名書かれたメモを見せた。
「ああ、これね。これはここだね。アルファベット順に並んでいるから」そう言って、一冊本を棚から取り出した。
「ありがとうございます」と由麻が礼を言うと、片手を上げてその礼に答え、図書室を出て行った。
 何とか、由麻は論文のコピーを済ませホッチキスを止めて研究室に戻った。
 研究室の扉はいつも開いている。なので、由麻がコピーした論文を持って入ると、そこに、あののび太が研究室の椅子に座っていた。

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