【小説】相手のことを知ると言うことvol.6
山の天気は変わるのが早い。吹雪いていた空は、だんだんと静まり青い空が見え始めた。
雪に覆われて身動きがとれなかった中里由麻は、なんとか自力で滑り、くだりのコースを探し出せた。しかし先程の吹雪で人が誰もいなかった。コースは幅3メートルくらいでそこから先は雪の崖になっていた。
そんな時、由麻の背後からスノーボードと雪の接触する音がしたかと思ったら、スノーボードを急激に止めたせいで由麻に地面の雪がかかった。
「きゃっ」
「ごめんなさい。大丈夫ですか?」そう言って由麻の腕を掴んだ。
「はい」由麻はかかった雪をはらい、ゴーグルを外しながら言った。
「えっ、もしかして研究室の人?」長身で切れ長の目が印象的な男性が言った。
「臨床検査の岡部です。どうかしましたか?」
「先程の吹雪で、人とはぐれてしまって」
「あー、じゃあ、一緒に降りていきましょう」
「はい」由麻はそう言って体勢を整えて、岡部も後について滑った。岡部はなかなかの滑りで、時々由麻を振り返って注意をはらって滑っていた。
ようやくホテルの近くに着いた頃には夕日がゲレンデをオレンジ色に染めていた。川崎先生達が心配そうに立っていた。
「中里さん。大丈夫だった?良かった、無事で。途中、吹雪いてコースのゲレンデの行く先が全く見えず、中里さんの姿が見えなくなって。心配したよ」川崎先生が安心したように言った。
「心配おかけしました。岡部さんが途中見つけてくださって一緒に降りて来れました」
「そうか、岡部くん、ありがとう。命の恩人だ」
「いえ、たまたま通っただけです」
ホテルに戻ると、携帯電話にメッセージが入っていた。画面を開いて見てみると、元彼の林翔太からだった。由麻の友人にとられたことの衝撃は未だ心に傷が癒えない。今更何の話があるのだろうか?
そんな時、部屋のドアのノック音が聞こえた。ドア越しから、
「はい」と、由麻が言うと、
「また、皆んなでトランプしょうかと思って」川崎先生の声だった。
ゆっくりドアを開けると、利尻さんと川崎先生と神崎先生だった。
1ゲームが終わった後、利尻さんが「スピード」をしたいと言うので、神崎先生が相手になった。
由麻は、少し眠くなったので、ベッドに横になった。川崎先生が近くに来て、
「今日は本当、ごめん」と言った。
「先生が悪いんじゃないよ。天気が激変しただけだよ」
「もう寝る」
「なんかあったのか?」
「別に」
「泣いてる、から」
「泣いてない」
「いや、泣いるでしょ」
「もしかして元彼の彼女の事で?」
「違う」
女性に秘密をばらして欲しい時は、その女性を褒めて褒めて褒めてまくるといいと、聞いたことが確かあったと川崎は思う。
「可愛い、由麻さん。いつも仕事、頑張ってくれている由麻さん。泣き顔もいいねー」
「何それ?」
「とにかく、どうしたの?」
「元彼から、会えないかって」
「で、どうするの?」
「分かんない」そう言って由麻は布団をかぶった。
「会えばいいじゃん」川崎先生が真剣な表情で言った。