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【小説】相手のことを知ると言うことvol.7

 北海道のスキー旅行から帰った中里由麻らは、いつものように仕事の業務についていた。神崎先生から言われて検体の血液血栓を調べるため遠心機がある臨床検査室に向かった。そこには臨床検査技師の岡部くんが仕事をしていた。由麻は、北海道のお土産を岡部くんに渡した。
「僕も北海道に行ったから、いいよ」
「そうなんだけど、助けてもらったので」と言って由麻は北海道の洋菓子の詰め合わせが入った紙袋を渡した。
「それなら、一緒にご飯でも食べに行こうよ、今夜でも」
「えっ」
「急、過ぎた?」と、岡部くんが言った。
「いえ、別に」
「なら、いいってことで。仕事が終わったら通用口出たところでどう?」と岡部くんが訊いた。
「はい」と由麻は返事をする。
「だから、これは家族の方と食べて」と、岡部くんは言って紙袋を由麻に返した。

 研究室に戻ると、患者さんたちの手術前と術後の検討会が外科と内科の合同で行われるためレントゲンと摘出された検体の写真、内視鏡、カルテを利尻さんと用意した。相変わらず利尻さんは憧れだった元同級生から連絡が来ると会っているらしい。でも彼女としてデートしていると聞いて少しひと安心だと由麻は思った。
 仕事が終わり、通用口を出ると岡部くんが待っていた。
「イタリアンでいいかな?電車を一駅行ったところにあるんだ」と、紺色のダッフルコートに黒いリュックを背負った岡部くんが言った。
「はい」

 店に入ると、カウンターとテーブル席が四つあった。ガラス張りの外は庭になっていてライトアップされていい雰囲気を醸し出している。カウンターの調理場には色んな種類のワインが並べられていた。心地いいジャズが流れている。どこも人でいっぱいだったがカウンターの奥が空いていたようだ、店の人が案内してくれた。
「乾杯!」と、早速ワインを頼んで二人は飲んだ。
「ねえ、川崎先生ってどう思う?」と岡部くんが訊いた。
「研修医」と由麻が言う。
「いや、そうだけど。中里さんは川崎先生と仲が良さそうだったから」
「ただのおなじ研究室にいる人ですよ」
「そうなんだ」
「はい」
「僕さー、電車好きでさー、休みの日にはいつも電車乗って実況しながらsnsにあげるのが好きなんだ」
「電車」
「もしかして、ひーいてしまってる?」
「いいと思いますよ」
「いつも一人で、色んな電車の線に乗ってるんだけど」
店員さんが料理を運んで来た。由麻はスマホをカバンから出してそれを写真に撮りはじめた。
「snsに上げてるの?」と岡部くんが訊いた。
「うん」
「見せて」
「いやです。岡部くんの見せて」
「いいよ」と言って、スマホの画面を開いた。
色んな電車やラッピングされた電車がそこにあった。
 料理も平らげたので、二人は店を出た。
 近くの駅で二人は分かれた。
 冷たい風が少し酔った肌には気持ちいいぐらいだった。電車がまだ来ない今、川崎先生が言ったあの言葉を思い出した。「会えばいいじゃん」何だか心に残った。
かけてみようかな。
友達の彼となった元彼に。
電車はまだ来なかった。カバンからスマホを取り出して、元彼の翔太の電話番号をゆっくりタッチした。

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