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【小説】相手のことを知ると言うことvol.11

 父には結婚を認めてもらえなかった。それに彼の元カノである中里由麻の友人を避けるように、由麻と林翔平はフィジーで二人だけの結婚式を挙げた。
 その時の写真付きのハガキを挨拶がわりに知人らに送った。
 よく年には、長女が生まれて年賀状には家族三人で幸せそうに写っている葉書が、岡部のところにも届いていた。
 その翌年には、次女が生まれたらしく家族四人が幸せそうに写っている年賀状が届いた。
 毎年のように届く由麻からの年賀状には、その年には子供たちがヴァイオリンを弾く様子が写っていて、「長女が小学校にこの春入学します」と書かれていた。その年は、岡部も結婚して由麻に年賀状を送った。
 毎年届く由麻の子供たちは小学校高学年になっていた。
 そしてこの年は「中学生となり、部活で子供も親も忙しい毎日です」と書かれていた。
 その翌年、由麻がひとり北海道の旭岳に登っている姿の写真の年賀状が届いた。「ひとりになって、写真家として邁進していこうと思っております」と書かれてあった。
 差出人を見ると、旧姓の由麻の名前が書かれていた。
 「不思議だね、あんなに幸せそうにいつも年賀状が届いていたのに、ひとりになるって書かれていたから驚いたよ。何が由麻さんの心を動かしたのだろう」と年賀状に返事を書いて送った。
 すると北海道の絵葉書に、「岡部さんのあの京都に一緒に出かけて電車の写真を撮ったあの光景が思い出されて、写真をまた撮るようになったの。といっても私の場合北海道の景色ですけどね。北海道にひとりで住んで、個展もひらいています」と書かれていた。
 人はその人は幸せだと思っていても、それはうわべだけということもある。実は何かその人にしか抱えきれない思いがあるのだ。その抱えきれない思いを持ち続け頑なに生きる。もしくは前向きに生きていくことが人生なのだと、岡部は思った。    
    
               (了)
 
 いつもご愛読ありがとうございます。
これからも小説を綴っていきたいと思っております。
 また、読んでいただけると嬉しいです。
お楽しみに。
 
#小説 #連載 #長編小説



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