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【小説】夏の思い出 2
「朽木さんだっけ?」
「あっ、はい」投げる石を掌に握ったまま鞠由が、応えた。
「これから、部屋の案内や、えっと何だ、ほらあのー、修行や決まった時間にお経を読んだりすることを、えっと」
「お勤めの時間?」
「そう、その『お勤めの時間』の説明があるから、行くよ」大学生らしき女性は、そう言って踵を返した。
「うん、わかった」そう言って、握っていた石を投げてその女性の後を追った。
和尚の案内で、お経を唱えることとして読経というらしいが広い畳で行われる。事前に読経の小さな本の形のものを手渡されている。
坐禅の部屋は、地面から1メートルほど高台で縁側のような場所が学校のプールの縦のくらいの長さに伸びている。それが向かい合わせになっている。それに沿って長い窓がある。
食事は、ハリーポッターにでも出てくるような長いテーブルで食事をするらしい。
「お父さん、お願い。ここから一度、出たい」
「どこに?」
「どこか知らないとこ」
「だから、どこ」
「ここだよ」一緒に父と電車に乗って出掛けた時、何処と訊かれて、咄嗟に鞠由が指差したポスターだった。
お経?坐禅?まあ、日本人だから一度は経験してもいいと思った。
夏には、仕事で何処へも連れてやれない引け目もあるせいか、鞠由の父は、早速そのポスターにある[お寺の宿泊、坐禅、精進料理、あなたも身も心も清めてみませんか]の体験プランを鞠由のために申し込んだのだ。