【ショートストーリー】裁縫セット
「ほら、ピアノ弾いてみてよ」長い髪にリボンで束ねている、ソックスにフリフリが着付いている、中学受験のために塾に通う浜井マリが言う。
「そうよ、弾いてみて」目のクリっとしてマイペースなところが男子にモテる沢井エルマが言う。
「できないよ、習った事ないし」と、本田藍が言う。
「駄目ね。じゃあ、私弾くから」そう言って浜井マリが休憩時間にトルコ行進曲を弾く。
その後、「行くよ」と浜井マリが言う。次の家庭科の教科で裁縫セットや教科書を浜井マリと沢井エルマのを本田藍が持たされる。
「あんたは、上履き要らないでしょ」浜井マリが言って本田藍の上履きを取り上げた。
その時は、帰って泣いて母に言った。
本田藍の母は、もうすぐお父さんの実家に引っ越す予定だからもう少し我慢してと言うのだ。
「掃除、頼むわ」そう言って浜井マリと沢井エルマが言って放棄を放り投げて帰った。
次の朝、
「私、引っ越すんだ」
「えっ。マジで?」と浜井マリと沢井エルマが訊いた。
次の週の朝、
「本田藍、これ」浜井マリと沢井エルマが手のひらに乗るリボンの掛かった箱を藍に渡した。
「えっ」思わぬプレゼントに驚いた。そんな事をするような人達でない子達だと藍は思っていたから。
「えっ。何?」
「だから、お父さんと私たちがお父さんの実家には住まなくていい事になったの。次男の叔父さんが継いでくれるらしいから」
えー、なにそれ、引っ越しのために浜井マリと沢井エルマから可愛い裁縫セットを貰ったのにー。
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