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夏の話

かつて日記に書いたことをまた書こうと思った。

夏は春の次に好きな季節で、思い出も多い。

よく思い出すのは、幼少期の夏の記憶なのだが、あの頃はとにかく退屈していたと思う。

私は趣味のない子どもで、外遊びは嫌いだし読書は退屈すぎた。

テレビも興味がない。その頃はスマホも持っていない。することがない。

することと言えば、親が遊びに連れていってくれるくらいなのだが、毎日連れていってもらえるわけがない。

学校がない夏休みは予定がないと酷く退屈で、祖父母の家で寝転がってはつまらないと悪態をついた。

でも、今思えばそれも愛しい思い出だ。

退屈だと、時間の流れをゆっくりと感じとり雲の流れを見るような日々だった。

それは確かな愛しさだった。

小学生の夏休みと言えば、早朝からのラジオ体操もあった。

私はとにかく怠惰で、あまり参加しなかったのだが、気が向いた日だけ思い出したように参加した。

ある日、眠っている弟を置いて一人でラジオ体操に行った。

場所は近くの祠が祀られた小さな神社で、住宅街の真ん中にあったがラジオ体操以外ではあまり人が来ない場所だった。私はその場所は好きだった。

その時に、家を飛び出た瞬間。

あたりは人が誰もいなくて、夏なのに蝉も鳴いていなくて、まだ陽は登っていなくて、涼しくて、

その時に、「世界に誰もいなくなったみたいだ」と思った。

私の夏の思い出は、海に行ったことでも花火を見たことでも従兄弟と遠出をしたことでもなく、その瞬間だけが鮮明である。

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