小説の影響で、向いてないと思っていたチェスを始めた話
昔から、戦略系のボードゲームは苦手だった。
オセロは勝ち方が分からず、3歳下の弟に負けてしまうほど。
チェスも将棋も、ルールは覚えても弟に勝てず、すぐに辞めてしまった。
(弟も特段その類のゲームが得意だったわけではなく、同い年の子に勝てないこともあったよう)
理由には見当がついている。
「一度立ち止まって考える」ことが壊滅的に苦手なのだ。
目の前に取れるコマがあったら取りたいし、相手が何を狙っているか考える前に思いつきでコマを動かしてしまう。
それが戦略系のゲームにおいて致命的なことは分かるので、私には向いてないのだと割り切っていた。
その想いが変化したきっかけは、先週の金曜日に小川洋子さんの「猫を抱いて象と泳ぐ」を読んだことだった。
主人公はチェスを生業としていて、リトル・アリョーヒンと呼ばれていた。
アリョーヒンという歴史上のチェスの名手になぞらえて、そう呼ばれていたのだが、アリョーヒンには二つ名があった。
「盤上の詩人」と言うのだそうだ。
その素敵な響きに、私はすっかり虜になってしまった。
アリョーヒンは、詩のような美しいチェスをする人だったらしい。
そしてそれは、主人公であるリトル・アリョーヒンも同じだった。
小説の中では、繰り返しチェスの美しさについて言及される。
小川洋子さんの、静謐な世界観の中で描かれるチェスはあまりに神秘的で、その美しさを知りたいと思わずにはいられなかった。
読了した翌日になってもその熱は冷めず、少しでもいいからチェスを勉強してみようと思い立った。
はじめに、switchの遊び大全でCPUと戦ってみたが、何が何やら分からない間に負けてしまう。
解説が必要だと思い、YouTubeでチェスの動画を調べた。
ついでにチェスのアプリも調べ、上達に向いているとレビューされているものをダウンロードした。
結論から言うと、アプリがとても優秀だった。
最初に勉強に使ったのは、チェスの指し方が一手一手解説されている動画だ。
とてもわかりやすく、コマを動かすことでどのマスを攻撃し、どのマスを守っているのか理解できるようになった。
そしてそれを復習しながら、アプリのCPUと実戦。
ダウンロードしたアプリでは、CPUと対戦する時、ヒントや一手ごとの評価、どちらの陣営がどの程度有利かを都度確認することができた。
(それらが非表示になるチャレンジモードもある)
動画を振り返りながら、ヒントや待ったに助けられてなんとか初心者向けのCPUに勝てるようになった。
そこでアプリの「学ぶ」モードに気がついた。
そこにはレッスンが用意されていて、試合の進め方をひとつひとつ、自分で試しながら勉強することができるのだ。
動画で勉強したことを、自分の手でコマを動かしながら復習し、かなり手応えを感じられた。
レッスンはたくさん用意されていたため、ふたつほどレッスンをやってから忘れないうちに実践、と繰り返していくうちに、ヒントに頼る回数が減っていった。
そして勉強を始めて2日目の夜、ついにヒントや待ったなしのチャレンジモードで、初心者向けのCPUに勝つことに成功した。
遊び大全のCPUにも再チャレンジしてみた。
遊び大全では、ヒントがない代わりに待ったが使えたため、一段階目の「ふつう」、二段階目の「つよい」に続けて勝つことができた。
まさに、「やればできるもんだな」といった感じ。
2日間、いつになく脳みそが働いているのを感じていた。
頭から、パソコンに負荷がかかっている時のファンの音が聞こえてきそうなほどだった。
眠りも少し浅かった。
3日目にはアプリのチャレンジモードで、初心者向けCPUを3人ほど倒すことができた。
いまだ手探り感は変わらず、状況が読みきれずフリーズしてしまうこともしょっちゅうではあるけど……。
アプリには終わった試合を振り返り、どの手が良く、どの手が悪かったのか教えてくれる機能があり、とても便利だが24時間に一回しか使えない。
課金によって無制限で使えるようになるので、この熱が続いて、お財布に余裕ができたら一度課金をしてみたい。
数日勉強したことで、苦手だと感じていたチェスもちゃんと上達できるのだとわかった。
元々、じっくり楽しめて、練習の中で上達していけるゲームを探していた。
デイリーミッションやイベントに追われるソシャゲに疲れていたのだ。
スプラトゥーンに特に興味があったのだが、私はスプラトゥーンの速度にはついていけなそうだった。
でも、チェスならじっくり考えながら上達していくことができる。
チェスは世界中にプレイヤーがいて、人口も多いのだと遊び大全でも説明されていた。
つまり、人と楽しむ機会も見つけやすいということだ。
このまま勉強を続けることで、チェスが一生付き合える遊びになればいいな、と考えている。
チェスを始めて、その楽しさも少しずつわかってきた。
まだ、一手一手に精一杯でチェスの美しさを感じるのは難しいけれど、リトル・アリョーヒンのチェスに惹かれた気持ちを忘れず持ち続けていたい。