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エッセイ集『いつかみんなでごはんをーー解離性同一性障害者の日常』刊行のお知らせ
2024年10月29日、デビューエッセイ集『いつかみんなでごはんをーー解離性同一性障害者の日常』を、柏書房より刊行する運びとなりました。
装画は嶽まいこさん、装丁は瀬戸内デザインの小川恵子さん、帯の推薦文は作家の村山由佳さんから賜りました。
こちらが、先日解禁となった書影です。
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生き延びて、なおかつ伝えることを諦めずにいてくれる碧月さんに心の底から感謝する。
村山由佳さん推薦文より転載
本書執筆の経緯は、私が柏書房の天野潤平さんに企画を持ち込んだところから始まります。
天野さんが詳細をXにて綴ってくださったため、そちらのポストより全文を引用させていただきます。
碧月はるさんから最初に書籍の企画のご相談をいただいたのは、2022年の春だったと記憶しています。その時は(僭越ながら)ささやかなアドバイスと共に理由も明示しつつお断りをしました。
その後『まとまらない言葉を生きる』『ファミリア・グランデ』『跳ね返りとトラウマ』など、自分が担当した本を細やかに読み、感想もくださり、そして2023年春には再びの企画提案をいただきました。ただその時もお断りをしてしまいました。でも、先述した本を読んできてくださった碧月さんだから書ける本があるのではと思い、その旨をフィードバックしたところ、その年の夏に、改めて企画を提案してくれました。
一冊の本、しかも自身のトラウマにかかわる本を書き上げるのは、心身共に大きな負担になります。できれば碧月さんが取り組む意味のあるもの、碧月さんだから書けるものになればいいなと思っていたのですが、この時の企画はそう思えるものでした。絶望と幸福の間で揺れるサバイバーの「普通の日常」。
著者が投げかけられて傷ついた言葉。世界への信頼を取り戻すきっかけとなった言動。あるいは、著者がこの社会で生きていく上で、傍にいるパートナーが果たしている役割。または、周囲に及ぶトラウマの影響、等。そういうことを地に足のついた言葉で伝えられるなら、自分も取り組みたいと思えました。
そこから構成を決め、企画が通ってからは原稿上でやり取りをし中身を固めていきました。徹底して個人の体験にこだわった本ではあるものの、こういう本が生み出されるに至った社会背景も伝えられたらと思い、幾つかの語に注釈も付けてもらいました。病名のこと、刑法性犯罪規定のこと、生活保護のこと、住民票の支援措置のこと、扶養照会に関するハードルのこと、等。どれも本文と一緒に受け取ってもらいたい情報です。
とはいえ、小難しい本では全くないので、まずは碧月さんの凜とした文章を、真っ直ぐそのまま味わってほしいと思っています。
誰にとっても「デビュー」は一度きりですが、この本もまた碧月さんにとって重い意味を持つ一冊になるはずです。そもそもこういう本を出すのは勇気が要るので、発売後に良い本だと思っていただけたのなら、良かったよ、と伝えてあげてください。本書を出したことで著者が少しでも生きやすくなる、そんな結果になるといいなと思います。
碧月はるさんから最初に書籍の企画のご相談をいただいたのは、2022年の春だったと記憶しています。その時は(僭越ながら)ささやかなアドバイスと共に理由も明示しつつお断りをしました。その後『まとまらない言葉を生きる』『ファミリア・グランデ』『跳ね返りとトラウマ』など、自分が担当した本を→ https://t.co/pP4BAhwNtb
— 天野 潤平|編集 (@AmanonG2) September 26, 2024
天野さんからはじめてフィードバックをいただいたとき、とても感動したことを今でも鮮明に覚えています。本来なら、ただお断りするだけでもいいはずなのに、天野さんは何者でもない私に、丁寧かつ真摯にフィードバックをくださいました。それをもとに企画を練り直し、再度天野さんに見ていただき、最終的に本書刊行に至りました。
柏書房さんの本に勇気づけられた原体験が、私の原動力となりました。特に、荒井裕樹さんによる『まとまらない言葉を生きる』(柏書房)は、障害による差別に苦しむ私にとって、応援歌のような一冊です。はじめての本は、絶対に天野さんとつくりたい。その一心で食らいつきました。
原稿に向き合う最中も、天野さんは終始丁寧に伴走してくれました。コメントの一つひとつに心がこもっていて、天野さんのお人柄や編集者として培ってきたであろうご経験が表れており、何度も感嘆の息を漏らしながらメモを取りました。私個人と読者、双方への配慮を忘れないコメントは、すべて私の宝ものです。
どんなに広く見わたしたつもりでも、私ひとりの目線には限界があります。多角的かつ一歩引いた目線で見る天野さんの視点があったからこそ、本書が完成しました。
もくじと「はじめに」の内容を、以下に掲載します。
【もくじ】
はじめに──私の人間宣言
交代人格
「はるさんはゴレンジャー」
眠るのが下手な母と、長男の憂鬱
虫を素手で触る母は、時々、大の虫嫌いになる
「もう子どもだもん!」
精神疾患と親権
つながる海
「どうしてみんな意地悪するの?」
ありふれたトリガー
約束のオムライス
「帰りたい」場所
飲めないレモンスカッシュ
いつかみんなでごはんを
“怒り”の瞬発力を養う
食べることは生きること
桜の庭
二度目のはじめまして
パートナーが適応障害と診断された日
支える者は「つらい」と言えない
もし、二度目の人生があったなら
おわりに──絶望と幸福は行き来する
【はじめに――私の人間宣言】
この本は、「解離性同一性障害」と共に生きる私の日常を綴ったエッセイ集です。私の、という表現は正確ではないかもしれません。日々そばで支えてくれているパートナーが把握している限り、私を含めた七つの人格が存在するからです。 かつて「多重人格」とも呼ばれていたこの病は、ときに好奇の目にさらされ、ときにセンセーショナルに取り上げられ、謂れない差別や中傷を受けることが少なくないものでした。診断名が変わった今も、事態はさほど変わってはいないと感じます。怖い、可哀想、つらい過去を乗り越えた強い人、下手に関わらないほうがいい相手……。そうやって一方的に判断され、傷つけられることは、私にとっては日常茶飯事です。しかし、そういう人ほど私の日常を知らず、知ろうともしてくれません。
だから、私は自分の言葉で、自分の日常を書きたいと思いました。幸福だった瞬間も、絶望した瞬間も。私という「人間」がこの社会で、あなたと同じように生きていることを伝えるために。読み終えたあとに、清廉潔白ではない、死に物狂いで生きている私の(私たちの)日常を、少しでもみなさんの心に残せたとしたら、この上ない喜びです。
以上のように、本書はあくまで私個人の体験を綴ったものであり、医学的な助言や専門的な知識を与えることが目的ではないことを、まずはご理解ください。また本書には、差別的な言動や性暴力、虐待、あるいは自死に関する記述が多数含まれます。そう聞くと、必要以上に重く受け止められてしまうかもしれません。もちろん、怖気をふるうような話、社会的に許されるべきではないエピソードも出てきます。他方で、私やパートナーからすれば、思わず「笑ってしまう」話も出てきます(読者のみなさんが同じように「笑える」かどうかはわかりませんが……)。それから、思っていたよりも「ごはん」の話が多くなりました。こうした重さも軽さもひっくるめて、噓偽りない私の日常です。くれぐれもご自身のペースと体調を優先して、無理なく読み進めていただけたらと思います。
はじめに、私を含む交代人格たちを紹介してから本編に入ります。私(私たち)の日常を知ってもらうことで、病名や障害名で一括りにされがちな当事者のレッテルを剝がす一助となれば幸いです。
碧月はる
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装画を担当してくださった嶽まいこさんは、絵本や教科書、小説など幅広い作品の装画を描くほか、漫画作品や画集を発表、個展を開催するなど多岐にわたり活動されています。
私自身、古内一絵さんの『東京ハイダウェイ』や寺地はるなさんの『希望のゆくえ』など、嶽さんが装画を手がける作品を数多くお出迎えしてきました。優しく繊細なタッチと、物語の世界観をビビットに映し出す表現力を持つ憧れのクリエイターさんに装画を描いてもらえたことは、望外の喜びです。
本書に関しても丁寧に読み込んでくださり、私や交代人格にとって大切なモチーフを選び抜いてくれました。
装丁を担当してくださった小川恵子さんは、瀬戸内デザインとして数々の本のデザインを担当されています。単行本のほか、雑誌などのデザインも手がける小川さんは、本書を読んだ第一印象として、「青色はマスト」とすぐに察してくれました。名前からもわかる通り、「碧」は私にとって特別な色です。海の色、川の色、好きな花、果物、空の色。私の周りには、自然と青色があふれています。エピソードから伝わる情景と私の文章の色合いから、全体のデザインや余白に至るまで、しっくりくる形に調整してくれました。
打ち合わせで小川さんが伝えてくれた言葉が、今でも胸に残っています。
「碧月さんの文章は、べったりしていなくて、とても冷静でかっこいい」
小川さんがくれたこの言葉は、今後書いていく上で、大切なお守りになりました。
帯の推薦文を賜った村山由佳さんは、私がもっとも敬愛する作家さんです。
これまで、メディアでも村山さんの作品の書評をたくさん書いてきました。この仕事をはじめる前、私の書く手段が紙とペンしかなかった頃から、村山さんの作品を読んでは思いをノートにしたためる時間が、私にとってかけがえのない時間でした。
そんな村山さんが本書を読んでくださり、こんなにも力強いコメントを寄せてくださったことは、私の人生においてあまりに大きな出来事で、いまだこの幸せをうまく言語化できません。ただただ嬉しく、ありがたく、ひたひたと押し寄せる幸福を噛みしめています。
起こった出来事から過去にまで遡って、まるで後出しじゃんけんみたいに結論づけるなんてずるい。
村山由佳さんの小説『二人キリ』の一節です。何か事が起きたとき、私の過去や障害に結びつけて結論づけられることは、私にとって日常でした。しかし、本書に出会い、それはとても理不尽なことで、「ずるい」と怒ってもいいのだと思えました。
村山さんの作品は、いつも私に力をくれます。生きるための力を、理不尽に抗う力を、人を愛し信じ抜く力をくれます。はじめて私に『翼』をくれたあの日からずっと、30年近くの長きにわたり、村山さんが紡ぐ物語は私の光です。
本書完成に至るまで、多くの方に支えられてきました。関係者の方々、友人の皆さまへ、改めて心からの感謝をお伝えいたします。
そして誰よりも、隣で支え続けてくれたパートナー(現在の夫)と交代人格たちに、「ありがとう」を伝えたいです。
たくさん迷いながら、考えながら、今の自分が持てるすべての力を出しきって書き上げました。ぜひ、多くの方に読んでいただきたいです。
書店店頭でのご予約も可能ですし、ご都合に応じて各種ウェブ書店もご活用いただければと思います。
私は虐待サバイバー代表でもなければ、解離性同一性障害者の代表でもありません。本書はあくまでも、「碧月はる」というひとりの人間が生きてきた軌跡を描いたものです。十把一絡げにされがちなマイノリティの「個人」の話として、本書を受けとってもらえたら幸いに存じます。
【Amazonご予約ページ】
【柏書房・書誌情報】
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