第4話 ただ、幸せを届けたい
〜前回までのあらすじ〜
パン作りが趣味なおばあちゃんと二人暮らしをしているさと子さんは、パンが大好きな高校二年生。同い年で高校には行かずお菓子会社を起業しようとしているでっちゃんとお話中。さと子はでっちゃんに、一緒にパン屋をやろうと言われ…?!
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第3話 クレイジーなボーイ ミーツ クロワッサン
話し始めてからどのくらい経っただろう。
もう、2人のコップには、うっすらとオレンジ色に染まった氷が残っているだけだ。
「パン屋さんやるの、楽しそうとは思うよ。でも、お店の作り方とか知らないし…。」
さと子の胸は、なにかに締め付けれてるかのようだった。
いつもこうなのだ。思いついたことや楽しそうなことがあっても、それを本当に実現しようとすると、途端に頭がぐにゃんとなる。
何からやればいいの?どうすればいいの?
疑問ばかりが膨らんで、結局何も進まない。
カランカランと、お店のドアが開く音がする。
「大丈夫大丈夫!いけるよ!」
不安がるさと子とは対照的に、でっちゃんは楽しそうだ。
「そう言えば、でっちゃんはなんでお菓子会社を作ろうと思ったの?」
話題を逸らしたかった訳では無い。…ただ、この輝く目を見たら、聞いてみたくなったのだ。
「俺お菓子好きだし。やっぱさ、美味しいもん食べると幸せになるじゃん?あと、めっちゃ美味しくてあったかい気持ちになるクッキーを作る人がいてさ、その人のこと応援したいんだよね。」
でっちゃんはツイッターに援護射撃家と書いていた。それは、こういうことだったのか。
「才能があってもそれを世の中に出すのが苦手な人たちをお手伝いをしたくてさ。」
カランカランとお店のドアが開く音がして、楽しそうな女の子たちの声と一緒に、柔らかな風が吹きこんだ。
「確かに、そしたら世界はさらにハッピーになるかも!」
さと子の胸を締め付けていたなにかは、もうどこかへ行っていた。
間を置いて、でっちゃんが、さと子がパンを好きなのはなぜかと聞いてきた。
「それは…、見た目が可愛いからかなぁ。それと、優しい美味しさに包まれるととっても幸せになるから。」
なんで好きかと改めて聞かれると、言葉にして説明するのは難しいなぁと思う。本当はもっと感覚的なものなのだ。それでも、でっちゃんには十分伝わったようで、笑顔でこう私に言った。
「その幸せを、俺にも届けたいって思ったから、今日おばあちゃんのクロワッサンをプレゼントしくれたんでしょ?」
「た、確かに……!!」
さと子は、自分は人のために動くのが苦手な人間だと思っていた。それが、気づかないうちに自然とやっていたなんて…。
そして、でっちゃんが起業したいのも、今日、私がでっちゃんにクロワッサンをプレゼントした時と同じ気持ちだからだと言う。
「なんと……!!そういうことか……!!めっちゃなるほど!!!そしたら、私もやってみたいかも!!一緒にやる!」
「よし!やろう!」
「うん!おばあちゃんにも話してみるね!そしたらまた、連絡するよ。」
「オッケィ。」
もう、2人のコップには、うっすらとオレンジ色に染まった氷すらなくなっていた。
意気揚々と席を立ち、カフェの中で話す女の子たちの声をあとにして、2人は、お会計をして外に出た。
さと子がカランカランと木のドアを開けると、夜風が出迎えてくれた。
改めてこのお店を見ると、可愛らしい外装のカフェだと思う。
入り口にはパンジーが植えられたプランターが並べてある。手作りだと思われるウェルカムボードに手を振って歩き出した。
もし、パン屋をやることになったら、外装のこととかも考えるのだろうか。
つづく
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パンをこよなく愛する高校2年生のさと子さん。パンを作るのが趣味なおばあちゃんと二人暮らし。それが、ある日、パン屋さんをやることに…?!気まぐれ更新中🍞
望月遥菜が書く初の小説です。
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