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先輩に恋をしていたわけではなくて

恋多き女だった。

「好きな人に振られる」なんて朝飯前だ。むしろ、振られるほど、燃える面倒な性格だった。

中学2年生のとき好きになったのは、1つ年上の野球部の先輩だ。

髪は、染めているのか地毛なのかわからない絶妙な茶色。

笑ったときに目尻が少し下がるのが可愛いらしい。

眉毛は剃りすぎて細く、学ランのズボンを腰まで落として履いていて―見た目はちょっとチャラかった。

けれど、それも含めてかっこよかった。

🍫🍫🍫

先輩には彼女がいる。

そんなことはとっくに知っていた。

実は、バレンタイン前、既に1度告白して断られていたから。

だけど私は、そんなことで引き下がるような女ではない。

バレンタインに2度目の告白をしよう。繰り返し告白すれば、そのうち振り向いてくれるはず。

自分でも引くくらい、ポジティブ人間だったのだ。

🍫🍫🍫


バレンタイン当日。

放課後、校舎の裏に先輩を呼び出した。

足元に積もった落ち葉を踏みながら、既に待っていた先輩のもとへ向かう。

学校指定のボストンバッグのなかには、手作りのクルミ入りブラウニー。

そして、ちゃっかりお揃いで買った、少し高価なシャーペン。

「先輩、やっぱり好きです」

小さな声で言いながら差し出した。

「ありがとう。返事は夜、ゆっくりメールするわ」

困ったような、でも優しい笑顔。年上の余裕を感じて、不覚にもキュンとしてしまう。

🍫🍫🍫


その夜、予想通りのメールが届いた。

「ごめん。気持ちは嬉しいけど、俺には彼女がいるから」

わかっていたはずなのに、改めて文字で突きつけられるとキツイ。

何を期待していたんだろう

携帯の画面を見つめたまま、しばらく動けなかった。

🍫🍫🍫


それでも、私はめげなかった。

先輩の卒業式の日。

懲りずにまた呼び出し、「やっぱり好きです。二番目ボタンください」と告白した。

先輩からの返事は―




あえて書く必要もないだろう。

私は、3度目の失恋をした。

🍫🍫🍫


今思えば、あの頃の私は「恋する自分」に酔っていたのかもしれない。

誰かを想いながらチョコレートを作る甘い高揚、想いを伝えるときの緊張感、そして「もしかしたら」という淡い期待。

私はきっと、単純に「恋に恋する」お年頃だったのだ。





Discord名:春野なほ
#Webライターラボ2502コラム企画

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春野なほ|エッセイスト・ライター
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