「幽体離脱にハマっていたころ」エッセイ

幽体離脱というモノに強い憧れを抱き、幽体離脱の体験談を調べあさったり図書館で「幽体離脱とは」といったような本を借りて熱心に読み込んでいたのは高校生のころで、そのきっかけはなんだったか覚えていないが、当時芸人のザたっちがブレイクしたので「幽体離脱」という単語が潜在的に脳に刷り込まれていたのかもしれない。


オカルトや心霊現象に興味があったかというとそうではなく、むしろ人一倍それらの類いのものは苦手であり、ただ幽体離脱というもののみに急に興味がわいたのである。高校卒業後の進路や当時の音楽活動の悩みも多かったから現実逃避のつもりだったのかもね。幽体離脱がしたい、幽体離脱がしたいと言っていたら周りに本気で心配されていたし。

どんなものかというとだいたいご存知かと思うが、自分の身体の実体からふわ〜と抜け出し、魂である幽体の方で自由自在に動き回れるというもので、寝ている時にはもちろん授業中などでもリラックスすることさえできれば可能らしい。離脱上級者になると携帯電話も同時に幽体させることができ、「いま、幽体離脱中です」と知人にメールすることまでできるという。
なんてファンタジーな話なのだ。私はどうしても幽体離脱がしたい。離脱ができたとしても周囲の友人たちに「嘘だ〜そんなことできるわけないよ」と言われて「私もそう思っていたよ・・・でも本当なんだけどね。そりゃあ自分でやってみないと信じられないよね、残念残念」と得意げに思ってみたいのだ。

幽体離脱の体験談を読んで「スゴイなぁ〜、こんなことができるのか。世の中まだまだ不思議があるなぁ・・・」と物思いに耽る時期は過ぎ、「よし。離脱方法を調べて実践してみよう」と行動に移すことにした。

幽体離脱をする方法として、

1.寝る前などのリラックスした状態で布団に横になり、立て膝をする。2.重力を感じることに集中する。3.耳鳴りがして身体がずんと重くなったら、身体から抜け出すイメージで勢いをつけて天井方向へ飛び出す

というものがある。これが私の調べた幽体離脱の方法の簡単な流れである。幽体離脱を成功させるべく私の努力の数ヶ月が始まった。


基本的にこの挑戦は寝る前に行われた。幽体離脱をするにはリラックスすることが不可欠であり、少し眠くてうとうとしてしまうくらいがベストコンディションなのだ。
まず、挑戦を始めて何度かは途中で眠ってしまうことが問題だった。普段寝付きは悪い方で、布団に入ってから2〜3時間寝られないことがザラだったのだが寝ちゃダメだと思うと嘘みたいな眠気がやってくる・・・トライアンドエラーを繰り返し、そこを乗り越えるには立て膝が重要で、立て膝をしっかり意識していると眠くなっても寝てしまうことはなくなるということに気づき、1までの状態は保てる様になった。
しかし2の重力を感じるというのがなかなか理解できない。瞑想の類いのものには無縁だったし重力なんていつも感じているわ、だからなに?全然分かんないんだけど・・・と思っていたのだが試行錯誤してみるとある日ふいに「あ、今重力感じてる。地球に引っ張られている感覚わかるわ。こういうことか・・・」と急に地球との繋がりを感じられるまでになった。スピリチュアル体験との遭遇である。ヨガをやっている方ならなんとなく感覚が分かるかもしれないが、自分の身体を意図的にゆるませるときに重力と一体化するあの感じにかなり近いと思う。

この状態までいくと眠気もなければ冴えた意識もなくなり、かなりニュートラルな感覚になる。そしてこの状態をゆらゆらひたひたと過ごしていると意識せずとも3のフェーズに移行し、重力をとても強く感じ耳鳴りのようなものがしっかり起きるのだ。

何度かの挑戦で、この状態まではほぼ確実にいけるようになったのだが、耳鳴りまでいくと途端に怖くなってしまい身体から飛び出すどころではなくなり意識をしっかりしようとしてしまう。この際に、そのまま眠ってしまうことが大半なのだがそうでないときが増えていった。

耳鳴りの後、身体を動かして意識を確実にしようとすると金縛りのような状態になり動けないことに気がつく。そして耳鳴りがすっと消えるとだれか分からない女性の声や、起きているはずのない弟の声がけなどが聞こえるのだ。人のいる気配がするときもあったし、枕元のすぐ近くから声がすることもあった。そして地鳴りのように周りの空気が震え、電気が走っているような、空気に押しつぶされているような感じになることもあってそれが一番怖かった。そういう状態が何度も続いたため、私は幽体離脱を達成することはなくこの挑戦をすることはなくなり、代わりに一人で眠るのがやたら怖いというマヌケなことになってしまったのである。

幽体離脱への挑戦により心霊体験のようなものを初めて体験したことから、「幽体離脱とは、夢と現実の間に起こるとても鮮明で自由な意識の旅行である。というか、つまりは夢である」という結論に至った。なんだ、そういうことなのか。と思ったけれど、方法としての1〜3の流れは確実に(訓練は必要だが)人をニュートラルな意識へ連れて行ってくれるということと、幽体離脱の経験者とは地球と意識を一体化させるのが上手であり想像力がすごく豊かな人であるということが分かった。

これを読んで幽体離脱に興味が沸いた方、もし実行することがあったらどうなったか教えてください。私はもう怖くてできませんが、勇気があれば簡単にできそうな感じがしています。

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