「はるの家にやってきた犬、ベルがベルになるまで」エッセイ
「売れ残りの犬がうちに来るまで」の続きです。
犬を迎え入れたら、名前をつけなければならない。
名前も私と母とで考えることにした。まずはざっくりとだけお互いの希望を合わせていく。「洋風な名前である(ポチとかタマとかじゃなく)」「略称を付けなくていいくらいの呼びやすい短さ(クリストファーとかでもない)」という2点だけ共有することができたのであとはそれぞれ考え、候補を出して相談することにした。
私は当時好きだったバンドの曲名から取りたいなと思った。1番好きなアーティストとなると意外と先述の条件を満たすような単語の曲名などなかなかなかったのだが、ちょうどよくそれらを満たす曲名が多いバンドがいた。BUMP OF CHICKENである。
バンプならどの曲も散々聴いてきたので、どのアルバムの何曲目でもよい。思い入れの全くない曲などほとんどなかったし、今後十何年も一緒に生きていくこの子に付けてあげても申し分ないくらいバンプはすばらしいバンドである。
私は「リリィ」「レム」そして「ベル」を候補とした。それっぽい曲名の全てである。次点で「アルエ」も考えたが、造語でありあまりにバンプ要素が強すぎるので却下とした。あと1年ほど前であればバンプを宗教のように崇めバンプ以外ほぼ聴いていないような時期だったのでアルエと名付けてしまっていた可能性もある。藤くんの綾波レイへの愛など知ったこっちゃない。
さて候補も決まったので母と話し合うことにする。私は自分の候補の中では「リリィ」が一番可愛くて女の子らしく気に入っていたのだが、近所に「リリ」という犬がいたので被りは嫌だなぁと思っていると母も同意見だったのでバツにした。「レム」は呼びにくいので却下。
残るは「ベル」なのだが、なんと、母の考えて来た候補の中にも「ベル」があったのだ。
母の考えていたベルはディズニー美女と野獣のプリンセスから来ていた。もうひとつの候補は「レディ」。わんわん物語のヒロインのアメリカンコッカー・スパニエルの名前だ。アメリカンコッカーを選ばずミニチュア・シュナウザーにしたのにも関わらず、まだあのヒロインへの未練があるようだ。
ということで、2人がそれぞれ考えた候補のひとつが一致するという控えめに言っても奇跡的なことが起きたため、はるの家にやってきたミニチュア・シュナウザーの女の子の名前は「ベル」となった。BUMP OF CHICKENの曲であり、ディズニープリンセスのヒロインという素晴らしい名付けとなった。
BUMP OF CHICKENのベルというと、日常に追われた自分をふいに気遣ってくれる、耳障りだけど温かい電話の音(という解釈をしている)。毎日の中に潜む温かさに気づくのはとても大事なことだ。と言う風な感じに思わせてくれる曲。そして美女と野獣のベルは家族思いの知性的で美人な才色兼備、しかし変わり者でおてんばである。ディズニープリンセスの中でも特に魅力的なキャラクターだ。
どちらかひとつでもなかなかのいい由来なのに、それが2つもある。ベルは得をしている。2つもあるということは、なるべくしてベルは、ベルになったのだろう。
「耳障りな電話のベル」という歌詞の通り、ベルの興奮した鳴き声はなかなか耳障りである。しかし散歩にいくときの目をきらきらとさせながらの嬉し鳴きは、こちらの元気にも癒しにもなる。ベルはいつでも私のことを好きでいてくれるのでそれだけでとても救われる。
そしてプリンセスのベルのように、すれ違う人がみんな「かわいい!」と言ってしまうほどベルは整ったシュナウザーになってくれた。これは親ばかと言われてもしょうがないのだが事実である。現在12歳、お世辞にも知的とは言えないが、田舎育ちの、人が大好きなみんなに愛されてるおてんば犬となった。
それにしても考えた名前が一致するというのは本当にスゴいと思う。母はバンプを知らないし、私は美女と野獣を幼少期以来ちゃんと見たことがなかったしヒロインの名前など知らなかった。ベルはベルであり、出会うべくして出あったのだという感動の気持ちだ。血迷って「アルエ」にしなくてよかった。ベルは「私は一人でヘイキなの」などと抜かすようなタイプではない。