「売れ残りの犬がうちに来るまで(2/2)」エッセイ

まずは飼う犬種を決めるところから始まった。母といくつかのペットショップをのぞいてみたが、犬種を決めないことにはたくさんいる可愛い子犬たちから選ぶことはできないね、ということになった。

私はというと、犬種は本当になんでもよかった。犬であればなんでもよく、どれでも可愛いので選びようがない。近所で可愛がっていたパピヨンやシーズーもよかったし、おじいちゃんの家に昔いたビーグルも惹かれたし、大きな犬も小さな犬もなんでも可愛かった。(なんでも可愛いといいつつ、当時は柴や秋田、紀州や土佐などの和犬を飼いたいという気持ちはあまりなかったけれど・・・。)

しかし母は違った。「アメリカンコッカーがいい」と全く聞き覚えのないオシャレな名前の犬の名前をあげて「私はもう決めました」と言わんばかりの顔をしている。

アメリカンコッカーとはディズニー映画の「わんわん物語」に出てくる主人公の犬の犬種だそうで、正式名はアメリカンコッカースパニエルという長毛で長い耳のたれたとてもエレガントで可愛い犬だった。犬を飼うならわんわん物語に出てくるあの子がいい、と密かにずっと思っていたそうだ。

このボロ家に連れて帰るにはなんだかエレガントすぎる気がしたけれど、調べてみればみるほど私もアメリカンコッカーに心を奪われていき、最終的にはアメリカンコッカー以外飼うなんてもう考えられないと思うまでに至った。

アメリカンコッカーを飼うことに決めた私と母は早速ペットショップを巡り、アメリカンコッカーを販売している店を探し始めた(当時はペットショップで犬を買う以外の方法について知識がなかった。過去の話であり、生体販売の是非について今回はスルーさせて頂きたい。現在であれば違う手段を選んでいたかもしれないということだけ記しておく)。アメリカンコッカーなんて、犬好きの私でも知らない犬種がこんな東北の小さな町には売っていないのではないか・・・と数カ所の店に行き考え始めていたとき、その出会いはあったのである。

イオンモールやホームセンター併設型のペットショップには良い出会いがなく、あと残っているのは田舎のペットショップだから期待は薄いな・・・と思いながら向かったマルカンペットに、なんと探し求めていたアメリカンコッカーはいたのだ。

店内に入ってすぐ見つけたその子はそれはそれは可愛く、愛きょうたっぷりですぐ好きになったのだが、ペットショップのショーケースに入れるには少し狭そうに思うくらいに成長している売れ残りの子だった。ペットショップで買うからには生まれたてのきゅるんとした子犬を連れて帰るイメージでいたので、「少し予定と違うな・・・」という気持ちが心を横切った。

その横のショーケースにはミニチュアシュナウザーもいて、狭そうなケースの中で身体をのばしのぺーっと平らになっていた。シュナウザーカットもされずテディベアのようにもこもこで見た目も相まってお世辞にも頭が良さそうには見えず、そこが言い難い可愛さであったがもう歳は11ヶ月で「売れ残りセール、六万円!!」とポップに書かれていた。ミニチュアシュナウザーの子犬といえば十五〜三十万円はするのでかなりの破格と言える。やはり田舎のペットショップは大型店には勝てず、子犬を用意したところで客足がなければ子犬も成長してしまうんだな・・・狭いところで可哀想に、と少し悲しい気持ちになってしまった。

小さい子犬でなかったという点が気になったのと、私がミニチュアシュナウザーに目移りしてしまったというのもあり一度家に帰って再考することにした。店員は私が目移りしたのを感じ取ったのか、売れ残りのミニチュアシュナウザーをかなり推してきた。

帰宅後、私と母は話し合った。アメリカンコッカーを飼うと心に決めていた二人は最初、アメリカンコッカーは小さい子犬ではなかったがとても可愛かったからいいのではないか、という話をしていた。ところが途中途中で「でもあのシュナウザーはバカっぽくてスゴく可愛かったよね」という話になり、最終的には「あのシュナウザーがアメリカンコッカーの隣にいたのはたぶん運命だわ。私たちに見つけられるためにあそこにいたんだよ。もうじき一歳のあまり小さい子ではないけれどセールで六万円というのは安いし、とにかくスゴく可愛いから、あの子にしよう」ということになり、アメリカンコッカーの横にいたミニチュアシュナウザーを迎え入れることが決定した。

翌日、私と母はマルカンペットへ向かった。この子だ、と決めてからはそのミニチュアシュナウザーがもう可愛くて可愛くて仕方が無くなっており、お目当てだったアメリカンコッカーへの未練はなく「あの子はまだ小さいからきっと買い手が見つかる。うちみたいなボロ家ではなくエレガントな家族に飼ってもらえますように」という気持ちでお別れをした。店員は「やっぱりお宅にはこのシュナウザーが似合うと思ってましたよ。シュナウザーはとてもお利口さんですし、毛も落ちませんし、何よりこの子はとても人なつこい性格をしていますから本当によかったです」と売れ残りの子の買い手が決まって嬉しそうである。

契約書かなにかを母が書いている際に「しっぽはもう切っていますが耳はどうしますか?この歳ならまだ切ることができますよ、切るとピンとしてシュナウザーらしくて可愛いですよ。シュナウザーはみんな飼い主の好みで耳を切っているんです」という言葉に私と母は「(ヒイッ・・・そんなピアスのノリで耳をちょんぎるなんて・・・)大丈夫です切らなくて大丈夫です」と大焦りで遠慮した。

中学三年生の初冬、苦節十五年。犬がうちにやってきた。

私や母を始めとした家族や友人達に溺愛されることになるこの子は、このときダンボールに入れられて車の中でぶるぶると震えながら、どういう未来を描いていたのだろうとふと考えることがある。

ちなみに、私がたまに貸してあげると言っていた冬の添い寝の件であるが、散歩やご飯をあげている母にもちろん一番懐き、私と寝ることはほぼなかった。

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