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種を蒔く(2024年秋: 始まりの始まり)

自慢ではないが、私はすごい雨女だ
旅先では必ずと言っていいほど雨が降る
自分へのご褒美にと奮発した沖縄も、叔母の夢に付き添った利尻•礼文島も、景色が何よりのごちそうであろう地で、ポジティブに言うと「恵みの雨」が降る、しかも笑うしかないほどの土砂降り

2024年11月3日(日) 春音プレオープン初日
夢への小さな第一歩

雨女の私はそもそも天気に期待はしていなかったが、この日はなんだか晴れる予感がしていた
それもそのはず、来てくれる予定の友人達は揃いに揃って晴れ女

当日、予感的中、大空に向かって万歳したくなるほどの秋晴れ
私の強力な雨女パワーを見事に跳ね返してくれた
カフェに向かう道すがら、電車の窓越しに青空を見上げながら「ありがとう」と心の中でつぶやく
もうこれだけで十分と思えるくらい
最高のプレゼントをもらった気分
良い一日になりそうだ

到着してすぐにスピーカーのスイッチを入れる
家でもかけるくらい私自身が癒されるお気に入りのプレイリスト
耳心地の良い音色にホッと一呼吸
まずは自分を整える

さてさて次は何をするんだっけ...
メモした段取りを頭の中フル回転で思い出す
のんきに寛いでいる場合ではない
整ったはずの気持ちが急に焦り始める
効率など無視してとりあえず体を動かす
あーあれもやってなかった〜!
絵に描いたようなドタバタ振りで小さな店内をクルクルと動き回る
2階の自宅スペースからオーナーの奥さまが降りてきて一言
「外に誰かいらっしゃるみたいよ」
「えっ?!」
気づいたら予約時間の5分前
慌ててドアを開け、初めてのお客さまを迎え入れる

学生時代からの長い付き合いの彼女
顔を合わせるやいなや2人で大笑い
私のドタバタの空気が完全に伝わっていた
「いや〜いいよ、その抜け感!」
何ともポジティブなコメント
おかげで準備がままならず申し訳ない気持ちが半減した

組織の中で仕事をしていた頃の私は、時間や締切りに遅れたことはなく、完璧主義と言ってもいいほどまでに抜かりなく仕事をこなすタイプで、仕事が遅いと言われたことは一度もなかった
しかしプライベートとなると完全に真逆
本質的に私はスローで抜けている人間なのだ
組織の中での私は、抜群に空気を読み、周囲のスピードに合わせるべくアクセル全開のフルスピードでいつも走っていた
どおりで何度もエンストを起こす訳だ
今更ながらに気づく

その日の私は完全に自が出ていた
夜な夜な手書きで書いたメニューもウェルカムメッセージも、到着前にセットして万全の体制でお出迎えしようと思っていたのに
想像を遥かに超えるグダグダ振り
友人だからと言って甘え過ぎだ、気が弛んでいる
自分に喝を入れながら、とにかくおしぼり、飲み物、食事を出さねば…!

私と同じタイミングで夢を追いかけ始めた彼女
ようやく夢の入口に辿り着いた私のこの小さな晴れ舞台を自分のことのように喜んでくれた
お互い妙な高揚感で会話が止まらない
会話に夢中になると私の手が止まる
一皿出すのに一体何分かかっただろうか…

もう一皿を出そうとした時、とんでもない失態に気がついた
家にフレンチトーストを忘れてきた
昨日から手塩にかけて仕込みをして、今朝も冷蔵庫を開けて確認したのに
彼女は大笑い
もう破れかぶれだ
先が思いやられる

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