土を耕す(2024年夏: 新たな出会い)
不思議な出来事がもう一つ
それはこの夏からお世話になっている修行先の喫茶店のオーナーとの出会い
『誰かにとって一番の癒しとなる空間をつくりたい』その想いが私の夢の出発点
カフェを始める多くの人は珈琲が好きだったり、お菓子作りや料理が好きだったりするかと思うが、私の入口は全く別の場所にあった
さてその空間をどうやってつくろう…
しばらく思考が迷走し、辿り着いたのは15年ほど前に映画「かもめ食堂」を観た時の衝撃的なまでの記憶、心の底から沸き上がる熱い想いだった
私はあの独特の世界観に一気に魅了され、いつか自分もこんな風な癒しの空間をつくりたいと強く思った
当時の手帳を引っ張り出してその時の日記を読み返してみる
2010年2月21日(日)
「•••将来こんな風に、小じんまり、スローであったかい食堂(カフェ?)をやりたいと強く思った。心を込めて一つ一つ丁寧に作ったものを食べた人達がほんのちょっとでも「あっ幸せ…」って思ってくれるようなそんなお店。いつか開きたい。」
そんな原点回帰があり、カフェという形で夢を実現しようという結論に至ったのだが、いかんせん私にあった飲食業の経験は学生時代のファミレスでのアルバイトだけ
始めは未経験でも何とかなるだろうとどこかで高を括っていたのだが、早々に行き詰まった
せっせと多方面での人脈づくりには勤しんでいたものの、肝心のカフェというキャンバスに絵を描けずにいた
「経験に勝る知識なし」
今ならそれがよく分かる
当時の私は頭でっかちになり過ぎていた
身近な人たちのアドバイスもあり、まずは経験を積むことにした
経験を積むと言ってもどこのお店でもいい訳ではない
私は人から見たら面倒なくらいのこだわりがある人間だ
経験を積むからには自分が本当にいいと思ったお店で働きたい
これまでに訪れたカフェや喫茶店の中から心に残っているお店をリストアップしてみた
少ない…
ほんの一握りどころか5本の指に収まってしまう
元々カフェや喫茶店が好きな私はこれまでいわゆる人気店や人から良かったと聞いたお店には大抵足を運んでいた
星の数ほどお店があるこの東京で自分の心に刺さったお店の数の少なさに驚くと共に、それなら私が作ればいいではないか、という想いにもさせられた
その数少ない心に残ったお店の一つが今お世話になっている喫茶店
今時のおしゃれカフェではなく、創業30年を超える老舗の喫茶店だ
元オーナーが当時のパリの人気カフェをそのまま再現したという話だけあって、どことなく品があり、ちょっと隠れ家的で落ち着ける、何より飲み物が美味しい
このお店を知ったのは母のお寺の近くだったから
とびきり素敵なお店とまではいかないが、なんだか居心地がよくて、お墓参りの帰りにふと思い出しては寄っていた
お店のHPを見てみたら常時スタッフを募集しているとのこと、思い切って電話をかけてみた
電話に出たのは現オーナー
「とりあえず話を聞きに来ませんか?」
そんな誘いから、そのまま面接をする運びになった
履歴書を眺めていたオーナーが「北海道のホテルで働いていたんですね」と言ったので、「はい、母の出身地でもあって」と返したら「北海道のどこですか?」と聞かれ「室蘭です」と答えたら「僕も室蘭出身なんですよ」と
これだけでも驚きだったが、更なる驚きが続いた
母の実家は昔室蘭でお店を営んでいた
化粧品からおもちゃまで何でも置いてある言わば萬屋さんのようなお店
昭和の時代に室蘭に住んでいた人なら名前くらいは聞いたことがあるであろう小さな田舎町では名の知れたお店だった
軽い気持ちで「●●って知っていますか?」とお店の名前を出してみた
「●●ってあの●●?◯◯町にあった?」「そうです、そこ母の実家なんです」「えー知ってるも何も子どもの頃よくプラモデルを買いに行ってたよー!」
これにはオーナーも私もひっくり返りそうなくらい驚いた
母のお寺の近くの喫茶店で、東京から遠く離れた母と同じ田舎町の出身で、母の実家のお店のお客さんだったオーナーと母の娘である私が出会った
これは単なる偶然で片付けていい話なのだろうか
いや、偶然なようで偶然ではない
きっと今まで起こった不思議な出来事の数々も
私は何かに守られ、導かれ、そして人とのご縁によって助けられている