教育界と産業界

私は都内私立中高一貫校の教員です。

もともと教員をしていて、一旦退職し、企業で働いて、その間ビジネススクールに通いMBAを取得して、現在また教員をしている。

教育界と産業界を行き来していて思うことはいくつかあるが、今日はその違いについて考えてみた。

そもそも非営利団体と営利団体(一般企業を想定)なので、構造的に違うことが多すぎる。

私が教育界を一回はなれ、企業で働いていたとき、周囲の人と話をしてもなんだか違和感があったとき、この人たちとはなんとなく話のスタンスが似ているなと感じたのが、県庁所属の事務員の方と話しているときだった。ここも非営利。だからなんとなく話が通じる。

その違うことを前提にお互いが共存していくのは、お互いの違いについてよく認知している必要があると感じている。

私が考える違いを少し羅列してみる。

【産業界】

・明確な数値目標(売上等)があり、結果が明らか

・明確な目標に向かって社員が一丸となる

・失敗が結果として明確に現れるため、反省し改善することが余儀なくされる

・比較的ファクトベースで会話される

・原則1人1業務で、上司は明確。命令系統もシンプル


【教育界】

・明確な数値目標は特にない。生徒個人の進路実現が最大の目的のため、結果は不明瞭

・個々の生徒の指導に当たることが多いため、教職員同士のチームという概念はあまりない(なくても仕事としては成立する)

・成功や失敗が明確ではないため、反省し改善するということがなくても運営できる

・比較的感情的な(エモい)会話が多い

・1人1人が複数の業務を担当し、それぞれによって上司が違う(教科、学年、部署等)ため、誰もその教員の業務を管理していない(個人商店)


まだまだたくさんあるが、パッと思いつくだけでも教育界と産業界の違いは多くある。


あのドラッカーも「NPO組織に関しては変わらないことを正とする」と言っている。予算型組織は「すでに行っていることは高潔であるに決まっており、公益に合致するに決まっているとされている。」と著書 非営利組織の経営 の中で語っている。


常に成果を求められ、変化することを要求される組織の産業界と、変わらないことが正とされる(正とされているというよりは、普通にやっているとナッシュ均衡のように変わらない方へ偏っていく)非営利組織の教育界が交わることは、容易なことではない。


それでも私は教育界と産業界はお互いを行き来して、交わることが大事だと思う。


それは、教育界にも変化する循環を作っていくことが必要であると思うからだ。

さらには、そこで育った児童・生徒がその産業界へ行くからだ。

産業界にとっても教育界を活性化するとは、産業界を活性化することとイコールではないだろうか。


教育の世界は100年変わらないと言われている。

100年前の医者は今の手術室にきても何もできない。

100年前の事務員は今の会社にきても何もできない。

でも100年前の教員は今の教室に来たら普通に授業ができるのではないか。


そんな声もある。


そんな中、社会も世界も大幅に変わりつつある。

生徒を育成する学校が変わらない道理はない。


教育界に産業界の人が入り込もうとすると、教育界側から

「教育界と産業界は違うから」

という言葉でシャッターが降りる時がある。


もちろん、先述の通り違うのは大前提だ。

その中で、どうすり合わせるのか、何を受け取って何を捨てるのか、どう変換して会話をするのか。

文化や考え方の根底が違う両者が歩み寄る必要がある。


私はその翻訳家として存在したいと思っている。


なぜならイノベーションとはその違うものと違うものの掛け合わせでしか生まれないからである。

「知の探索」をしたとき、新しいものが生まれ、それが子供たちの教育に還元されるということを信じて、引き続き教育界と産業界が交わる機会を創出していきたいと思っている。


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