FILE16 祈りの道へ  43

「奇跡は起こるものじゃない。興すものさ。

 ひとつだけ教えてあげるよ。ほんとうの女性性とほんとうの男性性が出会うとき、奇跡は興るよ」
電話の向こうでキヨさんがいった。
「一生懸命には奇跡がやってくる。いいタイミングだねえ。導きだねえ。
 そういうのをなんていうか知っているかい? 神業さぁ」
キヨさんはそういって、いつも茶化しながらカラカラと笑う。
「この時期っていうのに意味があるよ、きっと。それを感じながら、祈りを続けなさい。ただ、自分の感じるままに、ありのままでいいさあ」と、ティダと同じようなことを言った。
 朝日と共に起き出した私は、家を出ると川にむかって歩きはじめた。一歩一歩を踏み出しながらこれまでの不思議な出会いを想った。幼い頃から見せられてきた地獄のような「夢」、あの家での出来事、それからの学びの道を想った。
 どうして人は暴力からぬけられないのだろう。いつどこから侵略や戦争がはじまったのだろう。
 人と人はなぜ愛し合って、幸せに生きていけないのだろう。
 すべての生命と共生することがどうして出来ないのだろう。 
 「戦争がはじまりました」とその勃発を他人事のようにアナウンサーが告げたあの冬の朝から、私は世界の謎を解きたくて、必死に生きてきた。
 世界がこんな状況のときにくだらない男のことで死んでたまるものか、同じ狂うならば人に狂わされるのではなく自分で狂ってやろう、振り返ったとき絶対に後悔しない生を生きよう、私は私が思うままに生きよう。そう思ってあの家を出た。世界を崩壊に導きゆくその謎とカギを見つけ出し、ゆがんだ世界を1ミリでも直していくために生きようと思って歩いてきた。


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