【休みん俳】勝手に『#曲からストーリー』参加作:今日を破り捨ててでも。
#曲からストーリー 参加三回目になります。もはやおかわりの範疇を越えて大食漢💦何とかも3杯目にはそっと出し、なのですが。今回はある意味問題作、爆発気味です(破っちゃってますし😂)
この記事で取り上げた、幾田りらさん『蒲公英』。ある意味衝撃的ですが心を捉える歌です。これをストーリー展開せずにおられず、ハッシュタグをお借りします。よろしければ曲を流しつつお付き合いくださいませ(曲の世界観全般を敷いているつもりです)。
こんなものはただの紙切れよ!
目の前でそう言い放ち、私は一枚の紙をビリビリと切り裂いた。その私を見つめる瞳は静かなまま。いや、無関心なのだ。どうでもいいのよ、私のことなんて。
父は少し膝を曲げ、私が破り捨てた紙切れを拾った。それを指でつまみあげながら、私に言葉を告げる。
「満足したか?そんな乱暴なことをして。呆れたやつだ。私の娘とは思えん。まあ、今回の中間考査が満点だったと分かれば私はそれで充分だ。自分の受けたテストの解答用紙を破って捨てたいならば好きにするといい」
ほら、冷たい声でそう告げてくる。いいわよ、私だって― ―
「満足とかじゃない。紙ゴミを処分しただけ。100点だろうが0点だろうが、お父様には関係のないことなんでしょう?女は黙って男に従えばいいんだものね。成績がいいなんて小賢しいんでしょう?だから処分したのよ。あなたが捨てる前に、不要なテスト用紙を破っただけ」
― ―そう言い放った。何を言ったところで、目の前の人には届かない。分かっているけれど、言わずにはいられなかったから。
「不要とは言わん。成績がいいにこしたことはない。その方が嫁ぎ先にも心象がいいからな。私、当家の血を受けた者だ。たかが中学校の定期テストで満点すら取れぬとなれば、話にならん」
「ええ、分かっています。お望み通り、3年間学年トップを通しました。ですから、この結果を得たんです。面倒だろうけど、一応見ておいて。保護者なんだから、あなたは」
そう言って父の前に付き出した一枚の紙。これを破るわけにはいかない。これはパスポートなんだ、私の。この忌まわしい家から自分を解放するためのパスポート。
「なんだ?それは。……おい、私は聞いていないぞ。これは一体なんなんだ!」
いつも冷静冷徹な衣をまとっている父親の顔が少し赤みを帯びてくる。この人にも血が通っていたんだ。どこか他人事のように、私はそんなことを思った。
父に見せたのは進学希望の高等学校、その「学費全額免除・特別特待生」の認定証だ。学校は全寮制。合格の内定も得ている。私の希望など意に介さず一人勝手に娘の進路を決める、子供の人生、そのレールを敷いていくワンマンな父。その横暴さに耐えかねて、私は中学校の進路指導室に相談した。勿論私ひとりではない、母と一緒に。
音もなく静かにこちらに向かってくる存在、その気配を感じる。それが誰か分かっているから、私は振り返らない。顔を見なくても、その人が何を言いたいのか、私には解るから。
「そろそろよろしいかしら?私が口をはさんでも」
「ん?……ああ、お前か。どうした、何が言いたい」
私と父のやり取りを聞いていた母が、静かに父の書斎へと入ってきた。廊下で一人、私のことを案じていたのを肌で感じていた。グッドタイミングよ、お母様。
「私はこの子の母です。当然、親権を有しております。ですから、多忙なあなたに代わって進路相談、三者面談に臨んだんです。恋歌の進路は決定済みです。それに横車を押すおつもりですか?あなた」
普段は静かで一見すると従順にも見える母。けれど私の母だ、心の中では情熱の焔が燃えている、消えることのない灯が。
「なんだ、母子してその物言い。生意気にもほどが……」
「少々お待ちくださいな。今、連絡が入りましたので」
父の言葉を遮って、母はスマートフォンの通話を受けた。
「はい、吾妻の妻でございます。先生、ご多忙時にご連絡をありがとうございます。ええ、はい……分かりました。少しお待ちくださいませ」
通話を一度区切って、母は父、自分の夫の目を見つめてこう言った。
「あなた。弁護士が直接お話をしたいと仰っています。この端末で通話を受けてください」
その言葉を聞いて、父の瞳が見開かれる。その目のまま、無言でスマホを受け取り、会話を引き継いだ。
「吾妻です。何の用件でしょうか?はい……え?あ、あの、それは……。分かりました。内容証明郵便のご発送をお願いします。はい……それでは一旦失礼いたします」
そんな言葉と共に通話が終わる。
「それで、お前はどうしたいんだ?」
「恋歌は高校進学後に寮生活を送ります。私は小さなアパートを契約し、前金も支払っています。しばらくは距離を置きましょう、それがお互いのため。後は代理人を通してください」
きっぱりと別居の意思を告げた母に、父は無言で頷いた。お前たちを見失っていたのか。俺なりに家族を豊かにしてやりたかっただけなのに。そんなつぶやきがかすかに聞こえていた。
「お母様。やりすぎちゃったかしら、私」
「ふふ。それを言うなら同罪よ、私もおなじ。なあに?可哀想になっちゃったの?お父様のこと」
「うん……可哀想とかは思わないけど、寂しそうだったなって。でもね、私、進むよ。前に進まないと、自分で決めた道を自分が信じないと、みんなを不幸にしちゃうと思うから」
私の言葉を聞いて、母は静かに微笑んだ。それでいいのよ。無言のままで、瞳がその言葉を私に告げていた。
スマホからダウンロードした曲が聞こえてくる。そうだね。いつか私たちも笑い合える日が来ると私は信じている。そのために、今は前を向く。父の孤独を背中で受け止めながら。
拙作題名:今日を破り捨ててでも
総字数:2236(原稿用紙6枚相当)
※主人公の進学方法等は、筆者の創作です。実際の学校等のシステムとは異なることをご理解頂ければ幸いです。
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