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年末の香りと味【シロクマ文芸部・参加作品】
#シロクマ文芸部 お題#りんご箱 からはじまる 参加します。
りんご箱、という言葉で今の人が思い浮かべるのは、段ボール箱だろう。昔、果物を箱買いするとき、その箱は木で出来ていた。
りんごだけでなく、みかんもそうだ。りんごとみかん。二種類の果物は、昭和の年末、新年を待つ家庭のちょっとした贅沢品だった。
りんごの木箱は荒縄で縛られている。その縄紐を外し、上蓋を外す。素麺の木箱を購入した人なら経験があるだろうが、外すためにはひとつの工具が必要だ。蓋は釘で打ち付けられているから、釘抜きが必要となる。
てこの原理で太い五寸釘を抜き、ようやく蓋が開く。木箱に整然と並べられた赤い果実。その隙間にはおがくずが詰められている。木の香りと熟した果物の芳しい香り。これを感じる度に「ああ、お正月が近い」と思ったのだ、昭和の人たちは。
「色と形がいい物を選んでおきなさい。ご仏壇にお供えするから」
「小さめで色のいいみかんを取っておいて。鏡餅の上に乗せるから」
子供へ親が声を掛ける。これもまた、どの家庭でも交わされた年末の会話だ。
「もう。甘いのばかりより分けて食べるんだから。お陰でお母さんは酸っぱいのばっかり食べなきゃいけないじゃないの」
こんな会話もある。昭和の子供は、そうした知恵を持っていたのだ。ちょっとした悪知恵でもあろう。我先にと甘い果実にかぶりついていたのだから。
北国では、重いものはソリに乗せて運んだ。ボブスレーとも呼ばれた赤や黄色の樹脂で出来たカラフルなソリ。その上に、よっこいしょと重い木箱を乗せる。子供ははしゃいでソリを引っ張るが、子供の力では前に進むことは叶わず、ソリの後ろは大人が押して雪道を滑らせていく。何も知らぬ子らは、自分の手柄に満足しつつ、自分の口へと入る美味しい獲物を家へと引っ張っていったのだ。
舗装道路と行き届いた除雪、車社会となった21世紀。こうした風景を見ることはまれになった。それでもボブスレーで遊ぶ子供がいる。頬をリンゴのように染めながら、ひととき雪に興じる子らは、帰宅したならばリンゴをかじるのだろうか。そのリンゴはウサギの形に仕立てられているかもしれない。
白い白い、白一色に覆われる北国の、カラフルで香り高い記憶。りんご箱の底には、そんな昭和の風景がそっと眠っている。
あなたのりんご箱には、何が入っているだろうか。一度、箱の底を覗いてみてほしい。隠された記憶がひょこっと顔を持ち上げて、あなたに昔話を語ってくれるかもしれないから。
拙稿題名:年末の香りと味
総字数:982字(原稿用紙3枚相当)
今回のヘッダー画像は以下からお借りしました。
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