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チョコに纏わる思い出【シロクマ文芸部】

#シロクマ文芸部  時期ですね、「チョコレート」。参ります。

チョコレート。最初に贈ったのは「ハートチョコレート」だったと記憶している。実父への謂わば義理チョコというものを。それから時を経て社会人となり、私にも思い人と呼べる人ができた。けれど、その人にはチョコレートを贈ることができなかった


「俺、チョコ嫌いなんだよ。これ、貰ったんだけど、食べるかい?」

そう言ってほかの人から贈られた板チョコを断りながら、私は彼に説教じみた台詞を告げた。

失礼でしょう?チョコをくれた相手にも……一応、私にも

この言葉を聞いて、彼はきょとんとした顔をして、目を文字通り点にしていた。悪意や皮肉、もて自慢など一欠片もないことは、彼の人柄からもよく分かっていた。悪意がないほど始末が悪いことも、また。

そのあと「私も食べるから、あなたもこの場で食べなさいよ。一かけでいいから」と言い、強引に板チョコの欠片を彼の口に運んだ。そして、私からのバレンタインは手編みのセーター。それにも又、困った返答が。

「こういうの、ちょっと重いんだよな」

重くないわ(苦笑)アンゴラセーター、イギリス製の毛糸を(大枚を叩いて)購入、仕事の合間を縫って編み上げた自分を、あのときほど悔やんだことはない。

あれから気の遠くなるほどの年月が流れた。私も彼も、いい歳である。何処で何をしているのか、双方分かる術もないほど、私たちの道は分かたれた。

彼の声も顔も、今では朧気になったが、名前と筆跡は覚えている。同僚だった私たちであるが、私が職場を去るときに、彼がくれた一枚の葉書が、捨てることができずに手元に残っているから。

なんにせよ、どうか幸せに

私は何とかやっていますから。


拙稿題名:チョコに纏わる思い出
総字数:678字(原稿用紙一枚半相当)

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春永睦月
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