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醒めても又夢。【シロクマ文芸部】参加記事

#シロクマ文芸部  「逃げる夢」参加致します。

逃げる夢を見ていた。
後ろからひたひたと足音がする。一定間の距離を保ちながら、振り切ろうとしても振り切れず、私を追尾してくる不気味な影。いつまで着いてくるのか。訊ねたいけれど、振り返ることができない。
押し出されるように、私は急ぎ足で歩く。早歩きだけでは、この恐怖から逃れられない。すくむ足を前に出し、小走りに走り始めた。

は、は、は。
自分の吐き出す呼気と、ひたひたと迫り来る足音が重なって耳にこだまする。谺の響きが大きくなっていく。やがては、ごーんごーんと古びた鐘の音へと変わっていく。これは何だ。この音は一体何なのだ。呑み込まれてしまう、不気味な響きに。振動する身体からだ。ああ、もう走れない。歩くこともできない。

私の身体は、バタンと音を立て、地面に倒れ伏す。その上をカァカァと耳障りな鳴き声でからすが飛び交っていく。ついばみに来たのか?私の肉を。止めてくれ、私はまだしかばねにはなっていないんだ。


「ねえ、どうしたの?凄い汗よ」

聴き慣れた声が、私を引き戻した。ああ、良かった。夢だったのか。逃げる夢を見ていただけ、あれは悪夢だったのだ。
そう思い、私を起こしてくれた妻の顔を、寝床に横になったままで見上げる。その顔は朝日に照らされてよく見えない。

ここは浮世か、それとも常世なのか。

確かめることもできずに、私は寝床から起き上がった。日常を始めるために。それが夢なのかうつつなのか確かめるつもりは、もうない。



拙稿題名:醒めても又夢。
総字数:626字(原稿用紙一枚半相当)

BingAIにて生成、悪夢を見る男、というイメージ。ヘッダー画像の別バージョンです。

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春永睦月
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